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285ー父親になる

「ああー! 殿下!! 無理ですー!!」


 アイシャが痛みを堪えきれずに叫ぶ。フーフーと息を吐いて痛みを逸らしている。

 俺はずっと魔力で胎児を動かしている。もう少し……よし、いいぞ。戻った。結構時間が掛かってしまった。

 アイシャの身体の準備もできた。俺はアイシャから離れる。

 大丈夫だ。安心して産まれておいで。みんな君に会いたくて待っているんだ。頑張れ!


「アイシャ、いいよ! 次に強い痛みが来たらいきんで!」


 俺が声を掛けると、産婆さんもスタンバイした。


「アイシャ! アイシャ!」

「レイリ、手を掴んであげて。アイシャが力を入れやすいように」

「は、はい。殿下!」


 産婆さんがアイシャのお腹を触りながら確認している。いわゆる、触診だ。

 俺を見て頷く。よし、大丈夫だ。てか、俺立ち会っていいのか?


「アイシャ、次の波でもう一度いきんで」

 

 産婆さんが指示をだす。


「アイシャ、頭が出たわ。ゆっくり息を吐いて」

「フゥー、フゥー……」


 アイシャが産婆さんの声に従って息を吐く。後は産婆さんに任せるしかない。

 俺は下がって母の側に行く。


「リリ、有難う。凄い汗だわ」


 母が俺の額の汗を拭いてくれる。魔力を操作してこんなに汗をかいたのは初めてだ。


「母さま、有難うございます。ボクここに居ていいんでしょうか?」

「今更、何を言っているのよ」

「そうですか?」

「そうよ」


 アイシャが数回いきむと産婆さんが赤ちゃんを取り上げた。


「おぎゃー!!」

「産まれた! 母さま! 産まれました! 元気に泣いてます! 良かった!」

「ええ、リリ!」


 産婆さんが、赤ちゃんをアイシャに見せる。


「男の子ですよ。元気な大きい子ね」


 まん丸とプクプクした男の子だ。よく育ったよ。


「アイシャ、よく頑張った。有難う!」

「レイリ、有難う」


 アハハハ、やった。よく頑張ったよ!

 アイシャ! おめでとう!

 レイリ! おめでとう!


「リリ……」


 母に抱き締められた。俺はまた泣いていたらしい。命が産まれる瞬間は感動だ。


「母さま……グシュ」

「あなたも、ああして産まれてきたのよ。

 あなたも、皆に愛されて産まれてきたのよ」

「母さま……母さまも大変な思いをして産んで下さいました。有難うございます」

「当たり前じゃない。あなたは私の子なんですから」


 俺、この母の子で幸せだ。



「殿下! 見てやって下さい! 男の子です!」


 赤ちゃんは綺麗にしてもらって、フワフワの布に包まれてレイリの腕に抱かれている。


「うん! レイリ、おめでとう!」

「殿下! 殿下!……ああ! 有難うございます! 殿下のお陰です……!!」


 レイリがボロボロと涙を流しているよ。あの冷静なレイリが。


「殿下、抱いてやって下さい」

「アイシャ、怖いよ。産まれたばかりなのに」

「リリ、母様と一緒に抱かせてもらいましょう。そしたら、大丈夫でしょう?」

「はい、母さま」


 レイリが、俺の腕にそっと赤ちゃんを抱かせてくれる。

 母が俺の後ろから腕をのばして支えてくれる。


「かわいい……」

「ええ、本当に」

「初めまして、ボクはリリだよ。元気に大きくなるんだよ。たくさん一緒に遊ぼうね」

「フフフ、リリったら」


 夜明けだ……朝が来た。

 ふぅ……もっと時間が掛かるかと思ったけど。

 そうだ、忘れずに。念の為『鑑定』

 大丈夫だ。健康な子だ。


 後産が終わったら、母が回復魔法をかける。出血もそう多くはなかったし、軽くで大丈夫だろう。

 後は、ゆっくり自然に回復していこう。


「アイシャ、疲れたでしょう? ゆっくり休みなさい」

「エイル様、有難うございます」


 母2人だ。強いなぁ。


「レイリ、出産に立ち会っちゃったね」

「はい。もう離れる事なんて出来ませんでした」

「そうだね。ボクまで立ち会っちゃったよ」

「殿下に立ち会ってもらえるなんて、幸運な子ですよ」

「アハハハ、なんだそれ。良かった。2人共、無事で良かったよ」

「はい」


 レイリが、ゆっくりと深く頭を下げる。


「リリアス殿下、エイル様。私の妻と子を助けて頂き、本当に有難うございました。このご恩は忘れません」


 レイリ。父親になったんだね。



 あとは、邸の医師に任せて部屋を出るとニルが待っていた。


「エイル様、殿下。お疲れ様でした」

「ニルも、お疲れ様」

「かわいい男の子よ。ニルも抱かせてもらってきなさい」

「よろしいですか?」

「うん。ニル、ボクここにいるよ」

「すみません、少しだけ」


 ニルは部屋に入っていった。


「ニルがリリを連れてきてくれたのね?」

「はい、母さま」


 母と一緒に部屋の前でニルを待つ。


「あの子はリリを赤ちゃんの頃から見ているのよ。リリを育てたのはニルね」

「え、そんなにですか?」

「そうよ。乳母を付けてはいたけど。母乳が必要なくなると、もうニル一人で殆ど世話していたわ」

「あらら……」


 帝国は皇族でも、赤ん坊と母親を別にする事はしない。同じ部屋で育てる。初代皇帝の考えだ。

 乳母はいるが、赤ん坊を育てるのは殆ど母親と赤ん坊付きの侍女だ。

 4歳になる迄は、母親と同じ部屋で生活をする。その後は、子供の性格や成長度合いを見て判断される。夜泣きやオネショ等だな。

 俺は、4歳からニルと2人だ。兄達も同じだと思う。


「リリは、夜泣きをあまりしない子だったのよ。それでも時々泣いたら、皇后様もクーファル殿下も駆け付けて来られるのよ。

 いつもニルが、お戻り下さい。と、言って追い返していたわ。フフフ」


 なんか目に浮かぶぜ。


「昼間は昼間で、皆順番に見に来るのよ。だから、リリが落ち着いて寝られなくて。

 ニルが、出入り禁止にしますよ! て、怒ってたわ」


 ニル、最強じゃん。アハハハ!


「リリは確かに何度も狙われたわ。でもね、皆に沢山愛されているのよ。皇后様なんて、一度リリを抱くとなかなかお離しにならないから困ったものよ。やっと皇后様に解放されたと思ったら、次はクーファル殿下だったりね。フフフフ」


 そうなのか? 知らなかった。


「お待たせして申し訳ありません」


 ニルが部屋から出てきた。


「ニル、かまわないわ」

「ニル、有難う」


 俺は、ポフッとニルに抱きついた。


「え? 殿下? どうされました?」

「フフフ。今ね、リリが赤ちゃんの頃の話を少ししていたのよ。リリを育てたのはニルだわ、ってね」

「そんな、エイル様。とんでもありません」

「殿下、お部屋に戻りましょう。お休みになられないと」

「うん、ニル。母さまも、ゆっくり寝て下さい」

「ええ、リリ。有難う」


 そうだよ。母の方が寝てないんだからさ。


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