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284ー出産

 夕食を食べて、寝る頃になっても変化はなかった。何十時間もかかる人がいるからなぁ。疲れてないと良いけど。

 時間がかかり過ぎて疲れてしまって、いざと言う時に力が出なかったりしたらまた余計に時間がかかってしまう。


「殿下、いつになるか分かりませんから。お休みになって下さい」

「うん。ニルも寝てね。もし、何かあったら直ぐに起こしてね」

「はい、殿下」


 そうして俺はどれ位眠っただろう。ニルが俺を呼ぶ声で目が覚めた。


「……殿下、リリアス殿下」

「……ん、ニルどうしたの? 何時?」


 ニルか。寝てないのか?


「まだ夜中です」

「アイシャに何かあったの?」

「はい、逆子だそうです。産婆さんがひっくり返そうとしたらしいのですが、出来なくて破水をしてしまったそうです」

「え、ヤバイじゃん」

「はい。なかなか出てこれないそうで……殿下、何か出来ませんか?」

「んー、出来るか分からないけど、ボクが見てみてもいいかな?」


 でも俺、小児科医なんだよ。産まれた後が仕事だ。出産は産婦人科だからなぁ。

 知識はあるけども……役に立つかなぁ。しかし、破水したとなると感染症に気をつけないと。


「殿下、お願いします。私の一存なんです。申し訳ありません」

「ううん。ニル、教えてくれて有難う」


 話しながら、ニルが着替えさせてくれる。俺はまだ頭が動かない。


「ニル、りんごジュースちょうだい」

「はい、殿下」

「……コクンコクン」


 よし。りんごジュースも飲んだ。行くぞ。とにかく見てみる。考えるのはそれからだ。


「ニル、行こう」

「はい、殿下」


 ニルと一緒に邸の治療室に行くと、母がいた。しかも、メイドがつけている様なエプロンをしている。


「リリ、来たのね」

「はい、母さま。どうですか?」

「大きい子みたいなの。大きい子は動かし辛いみたいなのよ。何度もお腹の中で動かそうとしたのだけど、タイミングが遅かったのかも知れないわ。もう、赤ちゃんおりてきてるから」

「母さま、もしかしてずっと……?」

「だって、心配じゃない? 初めてだと不安だろうし」


 母よ。有難う。頼りになるぜ。


「母さま、ボクは何も出来ないと思いますが、見ても良いですか?」

「ええ、もちろんよ。アイシャに声を掛けてあげて」


 治療室に入ると、アイシャよりレイリの方が悲惨な顔をしてアイシャの腰をさすっていた。


「レイリ、どう?」

「殿下、こんな時間に申し訳ありません」

「気にしないで。アイシャ、大丈夫? ちょっと見せてね」


 これも鑑定で何か分かると良いが。

 とにかく……


『鑑定』


「あ、本当だ。逆子だね。よく育ったね。元気な子だ」

「殿下……」


 レイリが泣きそうだよ。


「アイシャ、頑張って」

「で、で、殿下! 無理です! 無理! 無理! 痛すぎます!」


 アイシャはもう汗だくだ。

 ユキの身体から銃弾を出した時の様になんとか動かせないかなぁ。


「アイシャ、少し手助けさせてね」

「殿下……お願いします」


 俺はアイシャのお腹に手を当てる。

 ごめんよ。君の母さんが苦しんでるんだ。君も苦しいだろ?

 少しだけ手助けさせてくれ。

 そうっと……そうっと……ゆっくりと……

 俺は魔力でお腹の赤ちゃんを包み込み、時間を掛けてゆっくりと胎児を正しい位置に戻そうと動かしていく。

 でも、もう破水してるからな。あまり時間はない。


「ゔゔー!……くっ!」


 駄目だ。アイシャが陣痛の痛みを息を止めて堪えている。息を止めたら赤ちゃんも苦しくなるぞ。


「アイシャ駄目だ! ちゃんと息して! 深くゆっくり息して! 力を抜いて!」

「アイシャ! アイシャ!」

「レイリ、フー、フーて、誘導して! ゆっくり息を吐かせるんだ。息をちゃんと吐かせたら次は自然に吸うから」


 ラマーズ法しかないよな。赤ちゃんの心拍はどうなんだ? あー、せめて聴診器が欲しい。欲を言えば、輸液セットが欲しい。

 破水しているからなぁ。感染症を起こしてなければ良いけど。


「アイシャ、ずっと力を入れてたら駄目だ。赤ちゃんが動けないよ。強い波が去ったら、力を抜いて」

「で、殿下……フゥー、フゥー。ハァ……今は少し楽です」

「うん。今のうちに水分とって。赤ちゃんが出てくる所が全開にならないと、いくらアイシャがいきんでも駄目なんだ。だから、まだ痛みをうまくそらさなきゃ。痛くなったら、フー、フーて息を吐いて」


 そう言いながら、俺はずっと胎児を動かしている。臍帯もあるからなぁ。逆子だと赤ちゃんに絡まっている事もある。鑑定しながら慎重に、ほんの数ミリずつしか動かせない。やっとあと半分。

 アイシャの子宮口もまだ開ききっていない。

 レイリがアイシャにスポドリもどきを飲ませている。大丈夫だ。水分はとれているな。


 手に魔力を流して胎児を動かしながら常に鑑定で確認。思ったより魔力を消費している。頑張れ、あともう少しだ。


「母さま、産婆さん達にクリーンを」

「リリ、分かったわ。お湯も用意する?」

「はい、お願いします。レイリ、君もアイシャもクリーンして」

「で、殿下……」

「レイリ、しっかりして」

「は、はい」


 レイリはオロオロしながら、アイシャと自分にクリーンをかける。これで感染症は防げる筈だ。


「レイリ、ボクとこの部屋全体にもクリーンお願い」

「はい、殿下」


 よし。もう直ぐだ。

 まだ見ぬアイシャとレイリの赤ちゃん。頑張れ! 君のお母さんもお父さんも頑張っているぞ。


「あー! 痛ッー!!」

「アイシャ、フー、フーだよ! まだいきんだら駄目だ」


 もう少し、もう少し頑張ってくれ。

 正しい位置に戻したら、後は時間は掛からないと思うんだ。この子も出たがっている。もう少しだからな。頑張ってくれ。

 俺、魔力量が多くて良かったよ。普通じゃあ、無理だ。マジ、実感した。


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