283ー陣痛
「リリアス、早いのね。驚いたわ」
皇后様と母とフィオンが入ってきた。
「皇后様、ありがとうございます!」
「皇后様、リリは早いと言うより、すばしっこいのですわ」
「まあ!」
「母さま、それは褒めてませんよね?」
「やだわ、リリ。褒めてるわよ?」
「えー」
「フフフ。でもリリ、本当に早かったわ。ユキは流石に神獣ね」
「本当に。驚いたわ」
ユキさん、皇后様と母に褒めてもらって凄い自慢気なんですけど。
「ユキもどうぞ」
シェフがユキにパンケーキを出してくれる……が、なんだその量は!? こんもりと盛られたパンケーキに苺と生クリームがたっぷりのってる。皿なんて、それはディナー皿か? メインディッシュ用の皿じゃねーか? デカイな。
「ユキ、そんなに食べるの? オヤツだよ?」
「ああ、問題ない」
いや、違うから。
「ニル、我もりんごジュースを」
「はい、どうぞ」
これまたデカイね。それはスープ皿か?りんごジュースに見えねーよ。
「いたらきまーしゅ!」
「いただきます」
アウルースは、一口大に切ってもらったパンケーキに生クリームをたっぷりとのっけて大きな口をあけて食べる。
ニコニコしながら美味しそうに食べる。ほっぺが膨らんでるよ。
「……んん〜! おいしーい!」
アンシャーリを見ると、同じ様に切ってもらったパンケーキを食べている。パクッとお上品に上手に食べている。
1歳しか違わないのに。アンシャーリはもう令嬢なんだなぁ。
「アーシャは綺麗に食べるね」
「え? リリ殿下?」
「女の子だね。どんなご令嬢になるか楽しみだ」
「リリ殿下?」
「アーシャ、褒めてるんだよ」
「リリ殿下、ありがとうございます!」
「美味しい?」
「はい! とっても!」
「そうか。良かった」
「やだわ、リリ。あなた父親みたいよ?」
「母さま、それは酷いです。でも1歳しか違わないのに、こんなに違うんですね」
「そうね。アーシャは女の子だから。それに、しっかりしているわ」
「はい」
「リリしゃま、ボキュだめでしゅか?」
「アウルは元気が良くて良いんだよ。とても美味しそうに食べるしね」
「あい! 美味しいでしゅ!」
アハハハ、もうほっぺと鼻の頭に生クリームがついてるよ。なんでだ?
「ほら、アウル。生クリームがついてるわ」
「あい、母しゃま」
フィオンに拭いてもらっている。
「リリアスについてきて良かったわ」
「皇后様?」
「どうしようかと迷っていたんだけど。こんなに温かい時間を過ごせてとても嬉しいわ。フィオンも幸せそうで安心したわ」
「母上」
「だってフィオン。あなたはもう婚姻しないだろうと思っていたもの。なのに、こんなに可愛い孫を産んで、幸せそうに暮らしていて。本当に夢の様だわ」
「母上、ご心配をお掛けしてしまって申し訳ありません」
「いいえ。子供を心配するのは親の仕事ですからね。まだまだ、1番末のリリアスが幸せになるのも見届けなくちゃね」
「皇后様、ボクはもう幸せですよ」
「まあ、リリアス。あなたの子供を見ないと。心残りだわ」
「えー、皇后様。ボクまだ10歳です」
「フフフ、そうね。10歳ね」
皇后様、ごめんなさい。多分だけど、俺の子供は見せられないよ。多分ね。
「のどかですね」
「うん、ラルク。そうだね」
「アース様! ちゃんとして下さい!」
「分かったよ。もう、何で俺なんだよ」
「リリしゃま、アーシャぷんぷんでしゅ」
「アウル、そうだね」
オヤツのパンケーキも食べて、俺達は裏庭でのんびりしている。
アースが、アンシャーリのごっこ遊びに付き合わされているのをボーッと見ている。
「これから森に巡回にいきます! 皆無事に帰ってくるように!」
「はい、隊長」
アースが仕方なく付き合っている。
「ねえ、ラルク。今時の女の子の遊びって、領主隊ごっこなの?」
「リリアス殿下、そんな訳ないでしょう」
「だよね〜」
アンシャーリは領主隊ごっこをしている。アンシャーリが隊長で、アースが隊員だ。
全然女の子っぽくないんだけど。
「あー、アーシャはまたやってますか」
「アルコース殿」
「とうしゃま!」
アルコースがいつの間にかやって来ていた。
「アルコース殿、またとは?」
「アーシャはよくやってるんですよ。な、アウル」
「あい。ボキュいやでしゅ」
「アウル、嫌なの?」
「あい。リリしゃま。アーシャぷんぷんしゅるからいやでしゅ」
「そうなんだ」
きっといつもはアウルースが付き合わされているんだろうな。しかし、領主隊ごっことはね。よっぽど好きなんだな。
「あれ? レイは?」
「レイ様はこちらの蔵書を読みあさっておられますよ」
ここにきて本なのか? レイは本当に本が好きだな。
「我が家にしかないのがあるんですよ」
「アルコース殿、どんなご本ですか?」
「本と言うか、建国当時からの領地の歴史書とでも言いますか」
「なるほど」
「レイ様は辺境伯領に興味を持たれた様ですから」
「へえ。ラルク、そうなんだ」
レイなりに楽しんでくれている様で良かったよ。釣りと苺狩り位しか連れ出せてないけどさ。帝都とは違う空気感を味わって欲しかったんだが……
「殿下、大丈夫ですよ」
「ラルク?」
「アース様もレイ様も、しっかり楽しんでおられますよ」
なら良いけど。
「リリアス殿下!」
おや? ニルだね。
ニルが邸から慌てて走ってくる。
「ニル、どうしたの?」
「アイシャが! 産まれます!」
「「ええーーッ!!」」
アルコースと2人で叫んでしまったよ。
慌てて皆で邸に戻る。アンシャーリとアウルースにはアルコースが付いていてくれる。
「ニル、それでアイシャは?」
「はい、調薬室で陣痛が始まったので、そのまま邸の治療室に入ってます!」
「医師はついてる? 産婆さんは?」
「はい! ついてます!」
邸に戻ると、辺境伯夫人が待っていてくれた。
「殿下、始まったばかりです。まだまだ掛かりますわ」
「うん。初産だしね」
「はい。お騒がせしてばかりで、申し訳ありません。」
「とんでもないです! アイシャとレイリの赤ちゃんに会えるんだ。嬉しいですよ」
「有難うございます」
「リリ」
「母さま」
母が、邸の奥から出てきた。もしかして、アイシャに付いてくれていたのか?
「大丈夫よ。あの様子だとまだまだだわ」
「母さま、ついていて下さったのですか?」
「出産ばかりはリリにはどうしようもできないでしょう? 女の私が付いてるわ」
さすが、母だよ。こんな時は頼りになるぜ。母は回復魔法が使えるしな。
「母さま、有難うございます。レイリは?」
「アイシャについてるわ。アイシャが背中と腰が痛いと言ってるから、一生懸命さすっているわ」
陣痛を和らげる事もできないし。今回は俺は役立たずだな。
「まだまだ何時間もかかるわ」
「はい、母さま」
レイリ、今夜は徹夜だな。頑張れ!