282ー優勝!
アースが網を潜り出した。子供の身体には進みにくいのか? なかなか前に進まない。
「アース! 進んでないぞー!」
うわ、お兄さん酷い。
「うるせー!」
アース、ちゃんと聞こえてるんだね。
次は、平均台だ。
「うわッ!」
――ドサッ
落ちた……アースが平均台から落ちた。プププ。
「へっぽこー!」
マジ、お兄さん容赦ないね。
――アハハハ!
――頑張れー!
やっとアースが板で作ったトンネルを潜り出した。
「クソッ! キツッ!」
「アース! 頑張れー!」
アース、マジで頑張れ! 次はもう隊員達がスタートするぞ。
アースがトンネルを出て走り出した。流石に普通に走るのはそこそこ早い。
「レディー、ゴー!!」
隊員達がスタートした。
ビックリだ。やっぱ止めときゃ良かったと早速後悔した。だってさ、隊員達、早い早い。
アースがゴールして、第2走者のラルクが走り出した時には、隊員達は網を潜り終えていた。ハードル擬きが障害物になってねーよ! この程度、ハンデになってないぜ!
「ラルクー! 頑張れー!」
俺は応援する。ラルクは早いよ。なかなか凄いよ。でも、その前のアースがヘッポコ過ぎたからさ、もうハンデの意味があんまりないんだよ。
まあ、ヘッポコのところは一人だったから本当はあんまり関係ないんだけどな。気持ちだ、気持ち。
ラルクが網を抜けた頃には、第2走者にバトンタッチしていた。
俺がスタートした時には、第3走者だよ。しかもシェフなんて平均台を半分も過ぎてる。
――リリアス殿下! 頑張れー!
――おー! 殿下、早いなー!
――スゲー、ピョンピョン飛んでる!
俺も必死だよ。ハードル飛んで、網を抜けた頃には第4走者のリュカがスタートしていた。
超ヤバイ! リュカは早いぞ!
俺が100mを必死で走っているとリュカが抜いて行った。クソーッ!
「リリ殿下! ほら、早く早く!」
なんて、言いながらな! 超ムカつく!
「ユキ!! 頼む!」
「ああ、任せろ!」
アンカーのユキがシュンッとスタートした。オクソールが、もう網に取り掛かっている。
ユキさん、凄いね。ハードルなんてありましたか? それは何ですか? みたいな感じで超えて走る。いや、表現がショボくて申し訳ないけども。
網に潜る時も、そのままスピードを落とさずズザッと入る。アッと言う間に抜けた。
「ユキー! 行けー!」
――おおー!
――スゲー!!
隊員達もビックリだ。ついでに俺もビックリだ。
ユキが平均台を一瞬で走り抜け、板のトンネルを潜り、走り出した時にはオクソールは50m程走っていた。
……が、さすが神獣。アッと言う間に追い付き追い越した!
「ゴール!!」
「ユキー! 凄い! ユキー!」
俺はユキに駆け寄って抱きついた!
「これしき、我に掛かればどうって事はない」
「いやぁ、ユキは早いですね」
「オク! でしょ? ユキ凄いよね!?」
結果、1位ユキ、2位オクソール、3位ティーガル、4位ウルだった。そりゃそうなるよな。
「リリ殿下、ユキは反則ですよー!」
「リュカ、リュカだって獣人じゃん。負け惜しみはみっともないよ?」
「うわ、酷い!」
「アース、お前ヘッポコだなー!」
アースが兄のイザークに頭をガシガシと撫でられている。
「兄貴、煩いよ! なんだよ!」
「いや、アース。マジで思った以上にヘッポコだったよ?」
「リリ殿下まで!」
だってさぁ、ハードル飛べてないし、平均台からは落ちるし。騎士団目指してんだろ? 頑張ろうぜ。
「アース、リリアス殿下は早かったぞ?」
「兄貴、確かに殿下は早かった」
「まあ、殿下は毎日鍛練してますからね」
「リュカさん! 俺も一緒に鍛練する!」
「アース、止めとけ。リリアス殿下の足引っ張るぞ?」
「兄貴、マジ煩い!」
「アハハハ!」
うん、脳筋兄弟だ。でも、アース。この兄に憧れて騎士団を目指してるんじゃないの?
「リリアス殿下、早かったですね!」
「アルコース殿、有難うございます!」
「私が毎日ご指導してますから」
あら、オクソールさん。やだわ、自慢ね。俺、ちょっと嬉しい。師匠に少し認めてもらえた感じがしてさ。
「あれ、ブースト使えたらもっといけたのに」
「アハハハ。殿下、それは反則ですよ」
「殿下、お疲れ様でした」
「レイ、レイも参加すれば良かったのに」
「いえ、僕は身体を動かすのは苦手ですから。しかし、アースには驚きました。ヘッポコで」
「レイ! 俺はまだまだこれからなの! これから伸びるの!」
「うん、そうだね。アース、頑張ろう」
「リリ殿下、なんか凄い虚しいよ?」
「マジだよ。ボク達は10歳だからね。まだまだこれからだよ」
「うん! リリ殿下!」
「リリー!!」
ん? この声は……!
フレイが邸から走って出てきた。
「何で俺は呼ばれてないんだ!!」
「あ、フレイ兄さま。忘れてました!」
マジで、すっかり忘れてたよ。フレイ、ごめんよ。
「有り得ん!! 俺も参加したかった!」
「まあまあ、兄さま。ごめんなさい」
「リリしゃまー!!」
「リリ殿下ー!」
おや、またこの声は……。
邸の窓からアウルースとアンシャーリがブンブンと手を振っていた。
皇后様と母、フィオンもニルもいる。
「うわ、みんな見てたんだ」
「げッ! 俺超カッコ悪い!」
アース、カッコ悪いの分かってるんだね。アハハハ。
「リリしゃま! 早いでしゅ!」
「アウル! ありがとうー!!」
皆に向かって手を振る。
「殿下、オヤツにパンケーキ焼きましたよ」
「シェフ! 本当? 嬉しい! 食べるよ!」
シェフが呼びに来てくれた。皆で食堂に向かう。
「リリしゃま!」
アウルースがパフンッと抱きついてきた。
「アウル、見てたんだね」
「あい! 見ました! ユキしゃん、しゅごいでしゅ!」
「ねー! ユキ凄いねー!」
アウルースがユキをナデナデしている。
「さぁ、皆様どうぞ」
シェフ特製のパンケーキだ。生クリームと苺がのっている。食べる時に蜂蜜をたっぷりかけると超美味しい!
アウルースがイソイソと、俺の隣に椅子を持ってきてもらって座らせてもらっている。
「殿下、りんごジュースです」
「ニル、ありがとう」
「ボキュもりんごジューシュ!」
「はい、アウル様もどうぞ」
「ニリュ、ありがとう!」
アハハハ、ニリュだって。懐かしいなー!
俺も言えなくて、ニリュて呼んでたよ。