28ー襲撃
「……ふわぁ……」
「殿下、もうベッドに入りましょう」
「うん。ニリュ、おやすみ」
そう言って俺はゴソゴソとベッドに入った。3歳児はよく寝るんだよ。食ったらすぐに眠くなるのは仕方ない。
「おやすみなさいませ」
「……ん? 何……?」
俺は邸が騒がしくて目を覚ました。バタバタと人が動いている。外で警備兵達が何か言っている。何かあったのか? まだ暗いな、夜中か?
「ニリュ…… 」
「殿下、申し訳ありません。騒がしくて目が覚めましたか?」
「うん、どうしたの?」
「はい、近くの街へ通じる道の途中で、馬車が横転して燃えているのです。それで、警備兵達が消火にあたっています」
「大変じゃない。怪我した人はいりゅのかな? 大丈夫かな?」
「はい、まだ詳しい事は分かりません。火事は水魔法を使える者が数名おりますので、大事には至らないでしょう」
そうか、怪我人がいなければ良いが。
「そう。良かった。ニリュ?」
ん? ニルが変な顔してるぞ。何か引っ掛かるのか?
「変ですね。普通はこんな遅い時間に馬車が通ったりしないのですが」
「なりゅほど。そりぇは変だね……オクに、早くボクの部屋に来りゅように言って」
「分かりました。呼んでまいります」
そう言ってニルが直ぐに出て行った。俺はゆっくりとベッドから降りた。ニルは良く分かってるね。
「だりぇ? そこに隠りぇていりゅのは分かってりゅよ」
俺はバルコニーに向かって言った。すると、今迄はなにも無かった場所に人影が現れた。魔法で気配遮断と隠密かな?
――ガタッ
バルコニー側に一人。
「だりぇ?」
「…… 」
「ボクを狙って来たんだよね?」
「…… 」
何も言わないか……まだ居るな。
「あと、廊下の人達もかな?」
――ガチャ
廊下側のドアの所に二人。
「「…… 」」
頭の先から全身黒で、顔も目だけ出して隠している。明らかに侵入者。俺は心の中で……
『ライト』
ポン、ポン、と明かりを出した。
「ボクに何か用?」
「お前が、リリアス第5皇子か?」
バルコニー側の一人が言った。こいつが頭か?
「そうだよ。もしかして、侵入しやすくする為に馬車を燃やした?」
「…… 」
ビンゴか。ムカつく。
「まさか、人を巻き込んだりしてないよね?」
「…… 」
「そんな事したりゃ、ゆりゅさないかりゃね」
「……?」
こんな時でも、『ら行』だよ。マジ、呪いレベルの辿々しさだ。とにかく、拘束しておくか。俺は片手を出して……
「りゃいとばいんど!」
あ、しまった! 口に出したらダメだったんだ。また、『ら行』だよ。
「何言ってんだ!? 悪いな、仕方ないんだ!」
ドア側の一人が剣を振りかざした。今度こそ心の中で詠唱する。
『ライトバインド!』
「うわっ! 何だ!」
光の輪が現れて、侵入者を拘束した。
「オク! 」
「はい! 殿下!」
バンッ! とドアが開いて、オクソールとリュカが部屋に入ってきた。
――ガンッ! ガゴッ!
オクソールとリュカは一瞬で侵入者を制圧した。
「殿下! お怪我は!? 」
オクソールは、俺に確認しながら侵入者を捕縛していく。
「オクだいじょうぶ。なんともないよ。リュカ、強くなったねー!」
「殿下、有難うございます!」
「殿下、何故分かったのですか?」
「ニリュが変て言ってた。そりぇに魔法の気配があったの。だかりゃオクを呼びに行ってもりゃった」
「殿下! ご無事ですか!?」
「ニリュ、だいじょうぶ!」
ニルが遅れて戻ってきたその時だ……
……!!!!
「オク!! 」
「はい、殿下!」
――ズザッ
オクソールが一太刀で、侵入者を制圧した。
「ビックリしたー!」
ニルの後ろ側から一人、足音と気配を消して近付いて来ていた。
「ニリュ、危ないよー」
「殿下!」
ニルに抱きつかれてしまったぜ。ま、それは後だ。
「オク、リュカまだ何人も邸にいりゅよ」
「はい。大丈夫です」
なんでだよ。オクソールお前やっつけに行こうぜ。
「オク、邸の者が危ない」
「はい、大丈夫です」
いや、なんでだよ! 全然大丈夫じゃないよ!
「今、邸に残っている者は皆戦えます」
なんだって! マジか!?
「殿下だけでなく、皇族に仕える者は皆、専門的な訓練を受けております。リリアス殿下は特に標的になっておりますので、念には念を入れてます」
そうなのかよ、スゲーな。
「帝国は多種族、多民族国家ですので」
なるほどねー。
「シェフも強いですよ」
「リュカ、そうなの!?」
「はい、俺はまだ勝てません」
マジかよー! そりゃ、食事のワゴン位ヒョイと持てる筈だわ。
「では、終わった様ですので、侵入者も連れて行きます」
オクソール、分かるのかよ。気配で分かっちゃうのかよ。
「うん。おねがいッ」
「殿下、別のお部屋をご用意しますので、お待ち下さい」
「うん。ニリュ分かった」
とは、言ったものの。3歳児なんだよ。睡魔には滅法弱い。
「殿下、抱っこしましょう」
「……うん。ニリュ……おねがい…… 」
ニルに抱っこされて俺は即爆睡だよ。
こんな状況でも爆睡できる俺ってどうなのよ? そこは3歳児なら泣くんじゃねーのか? 恐怖で泣き叫んでいてもおかしくないぜ?
だが、全く恐怖心が無かったんだ。慣れっこなんだよ。俺は覚えてないが、本当に何度も狙われて危ない目にあったんだな。そりゃ、辛いわ。
「殿下は寝られましたか」
「はい、オクソール様」
「お可哀想に。このお歳で襲撃に慣れておられる。先程も平常心でおられた」
「はい。オクソール様をお呼びする様に言われた時も、普段通りでした」
「お守りしなければなりません」
「リュカ、お前の方が平常心じゃなかったぞ?」
「……すんません」
「まだまだだな」
「殿下を寝かせてまいります」
「ああ。ニル殿、頼む」