279ー鋭い
「人騒がせな妖精だ」
アハハハ、ユキがおじさんみたいな事言ってるよ。
「リリアス殿下、まだ夢を見ている様です」
アルコースが、葉の模様の入った自分の指をしみじみと見ている。
精霊、神獣ときて、今度は妖精か。次は何だろう。なんてな。ま、でもさ。
「森に異変があったら知らせてくれるそうだから、良かったんじゃない?」
「そうですね。うん。アウルースに何か言われそうだ」
「アウルにですか?」
「はい。リリ殿下と一緒だとか絶対に言いますよ? それに、あの子は鋭いところがありますから」
なるほど。うん、賢いからさ。きっと視点が凡人とは違うんだよ。
「アウルは賢いからね」
「そう思われますか?」
「うん。あの子はよく見てる。よく考えてる。ちゃんと理解している。偉いよ。怖くなるよ。ちゃんと大人になるまで、アルコース殿、アウルを守ってね」
「もちろんです。我が子ですから」
「そうだね」
そうか……我が子……俺の息子達はどうしているだろう……ちょっと思い出してしまったな。
ダンジョンに入っていた隊員達が戻ってきた。
「殿下、既に魔物は少なくなってきている様です。元々できたばかりで強くありませんでしたし、後は毎日の巡回ついでに討伐する程度で大丈夫でしょう」
「アルコース殿、じゃあ帰りましょうか」
「はい、殿下。アウルが待ってますよ」
ああ、そうだ。アウルが待っている。
「アハハハ、早く帰ろう!」
「よし! 皆ご苦労だった! 戻るぞ!」
――はッ!!
帰りも森の中で出てくる魔物は討伐していく。あきらかに数が減っている。
俺は相変わらずオクソールに乗せてもらっている。
「リリ、楽勝だったな」
「フレイ兄さま。そうでしたね」
「兄上、それはリリのナビゲートがあったからですよ。普通は罠の場所が分かったりしませんから」
「テュール、そうだった」
「フレイ兄さま、シャル様が来たがっておられましたね」
「リリ、今それを言うか?」
「エヘヘ、すみません」
「あれは魔物がどう言うものか分かっていない。こんな魔物が出る森の中で薬草を探すなど、自殺行為だ」
まあ、俺は出来るんだけど。サーチと鑑定があるからさ。言わないけど。
「リリ……」
テュールがジッと俺を見る。もしかして気付いたかな? こっそり首を横に振っておこう。
「リリ……懸命な判断だと俺は思うよ」
「テュール兄さま、有難うございます」
「私もテュール殿下に賛成です」
あら、オクソールも気付いてたんだ。
「オク、危険な事は駄目だよね」
「はい、殿下」
近衛師団と領主隊、アスラールが見えてきた。
「ご無事で!」
アスラールが馬で駆け寄ってきた。
「殿下方、有難うございます! ご無事で何よりです!」
「ああ、アスラ。もう大丈夫だ。ドロップアイテムも沢山あるぞ。早く帰ろう」
「ええ、フレイ殿下!」
そうか、この2人は学園時代から仲が良いんだったな。
「シェフ、今日の夕食は何かなぁ?」
「今日は前庭で皆でバーベキューをするそうですよ」
「そうなんだ! 楽しみだね〜!」
「はい! 良い肉もドロップしましたしね!」
そうなのか? もしかして熊さん? オーク? シェフ、抜け目ないな!
さあ、早く帰ってアウルと遊ぼう!
「リリしゃまー! リリしゃまー! うぇーん! あぁーん!」
邸に戻ると、アウルースが前庭にいて泣きながらトテトテと走ってきた。
ああ、危なっかしい! 転けちゃうぞ!
「オク、はやく下ろして!」
「ハハハ。はい、殿下」
俺はオクソールに馬から下ろしてもらって、アウルースに駆け寄る。
「アウル! 危ないよ! 転けたら痛いよ?」
「リリしゃま! あぅッ! うぇッ! 良かったでしゅ! イタイイタイありましぇんか!?」
「アウル、大丈夫だよ。何ともないよ」
「リリ、お帰りなさい」
「母さま、ただいま戻りました!」
「無事で良かったわ」
アウルースごと、母に抱きしめられた。
「うぇーん! あぁーん! 良かったでしゅー!」
「あらあら、アウルは大泣きね」
「母さま、有難うございます」
「あら、何の事かしら? さあ、中に入りましょう」
母がアウルースを抱き上げ、俺の背を撫でる。アウルースは母に抱きついてまだ泣いている。
きっと母はアウルースの相手をズッとしていてくれたのだろう。
「リリ、そうなのよ」
「フィオン姉さま」
邸に入るとフィオンが出迎えてくれた。
「エイル様がズッとアウルに付き合って下さっていたわ。エイル様だって心配でしたでしょうに」
「フィオン姉さま、母さまはそう言う人です」
「そうね。有難いわ」
「フレイ、テュール、無事で良かったわ! 貴方達、リリアスの邪魔しなかったでしょうね!?」
え!? 皇后様、その言い方はないぜ!?
「母上、それは心外ですよ?」
「皇后様、俺達も役に立ちましたよ?」
「本当に? 夢中になって周りが見えなくなっているのではないかと、心配だったわ」
あー、なかなか良い線ついてるわ。
「ご無事で何よりです。殿下方、有難うございました」
アラウィンが頭を下げる。
応接室で、皆が集まっている。まだ、アルコースはこれから詳細を報告するのだろう。妖精の件もあるしな。
「リリしゃま、何でしゅか?……ヒック……」
アウルースはまだ泣きじゃくりながら、俺の手を離さない。いや、指を掴んで離さない。
「ん? アウル、何?」
「リリしゃまと、とうしゃま何でしゅか?」
え!? 俺とアルコースは思わずたがいに顔を見合わせた。
「アウル、何がだ? 父さまに教えてくれないか?」
「分かりましぇん。リリしゃまととうしゃま何でしゅか? 何しましたか?」
「アルコース、何があった?」
「兄上、実は……」
アルコースが妖精の事を話した。
ダンジョンコアに閉じ込められていた事から、助けて異変を知らせてくれる事になった事、そして加護を受けた事。
「それは……何と言うか、有難い事だが。何故、アウルは分かった?」
「リリしゃま、こりぇ……」
アウルースが俺の指に浮き出た葉の模様を見つけた。
「アウルは凄いなぁ」
俺はアウルースをナデナデする。本当にこの子は不思議な子だ。心配になるよ。
さっきまで泣いていたのに、俺の指を握りながら、フィオンに抱かれてウトウトとしている。
「お昼寝してないから眠いのよ。リリにお昼寝は大事て言われたから、寝ようとしてたんだけど。心配で眠れなかったのでしょうね。ホッとして一気に眠くなったんじゃないかしら」
フィオンがアウルースの背中をゆっくりとトントンする。小さい子特有の寝る時のお口をしている。ムニャムニャと。ぷぅ〜、と寝息が聞こえてきそうだ。
「寝かせてくるわね」
フィオンが席を立とうとするが……
「姉さま、指を握っていて」
「まあ、アウルったら」
アウルースが俺の指を離さない。
「リリ、ここはもう良いから、リリも一緒に休んできなさい」
「フレイ兄さま。すみません」
「いや、リリもまだ子供なんだ。今日は助かった」
「そうだよ。リリ、お疲れ様」
フレイもテュールも有難う。