277ー肉まん
「ルー!」
「はいな!」
ポンッとルーが現れた。俺のポッケで眠る妖精を見るなり……
「え……リリ、今度は妖精かよ」
「うん。疲れて寝ちゃった」
「そうか。何でまたこんな所に?」
「オークに捕まったんだって」
「ああ、なるほど。コアにされていたのか」
「うん、そうみたい。連れて出てあげてもいい?」
「ああ、仕方ないだろ? まさか、また名付けしてないよな?」
「うん。お名前あったもん」
「何!? リリ、名前を聞いたのか!?」
「うん。フィーて言うんだって」
「マジかよ。リリ、気軽に名前を付けたり、聞いたりするのは止めな」
「え、そう?」
「ああ、そうだ。大事な事なんだぞ。『ボクはリリ』て、言うのも止めな。
真名を知られたら支配され操られる事だってあるんだ。まあ『リリ』だけなら大丈夫だろうけどな」
何その設定。コワッ。
「妖精は俺達と違って気まぐれだからな。あんまり関わるな」
え、ルーも充分気まぐれだと思うけど……
「リリ、僕は気まぐれなんかじゃあないよ?」
「はーい。ルー、オクとリュカにありがとうね。二人共もう使いこなしていたよ」
「ああ、役立って良かった。もう、サッサと帰りなよ。ヒヤヒヤするわ」
「帰ろうと思ったら、妖精さんがいたんだよ」
「もう外には出られるのかな?」
「はい、ルー様。他の者達にも連絡済です」
「じゃあ、取り敢えず出よう」
そう、ルーが言った瞬間真っ白な光に包まれた。光が消えたらそこはもう外だった。
「おー、ルー凄い」
「まあな。精霊だからな」
白い小さな鳥さんが、胸を張って自慢気にしている。
「アルコース殿、転移玉使わなかったから得したね!」
「アハハハ! リリアス殿下、そんな場合ですか?」
周りが驚いてる。しかし、それよりもだ。
「ルー、この子どうしよう?」
「リリ、常時鑑定するんじゃなかったのか?」
「してたよ」
「今、見てみたら? 今の状態が分かるさ」
なるほど……今の状態ね。
「なんだ、本当に疲れて眠ってるだけなんだ」
「ああ。暫くしたら起きるだろ」
じゃあ、待つか。俺のポッケで寝ている妖精さんが起きるのをね。
「アルコース殿、直ぐに戻りますか?」
「いえ、殿下。状況確認をこれからします。必要であれば、もう少し討伐します」
「そう、じゃあボクが必要な時は呼んで下さい」
「はい、殿下。有難うございます」
「殿下、出てきてからダンジョンを見ましたが、もう『元ダンジョン』と言う表現に変わってます」
オクソール、凄いじゃないか! そうか、ダンジョン自体を鑑定するのか。
いやいや本当に、俺は魔法の使い方を再確認しなきゃいけないな。そんな発想はなかったよ。
「オク、有難う。凄いや」
「いえ、殿下」
「本当に。ボクにはそんな発想がなかったよ。目から鱗だ」
「殿下はあまり魔法を使われませんから」
「そうなんだよね。馴染まないと言うか……ね」
「私も普段はあまり使いませんが、ルー様に頂いた『精霊の眼』は見る世界が変わる程のものなので。慣れる為にも意識して使う様にしております」
そうか。その意識だよ。俺には全くなかったよ。
「うん。オク、有難う。参考になったよ」
「殿下、それよりどうなさいますか?」
「何? 妖精かな?」
「はい」
「もちろん、森に戻すよ。人の手に余るものはこれ以上側にいない方がいい。妖精はユキやルーとは違うみたいだからね」
そうさ。其々、棲み分けが必要な場合だってある。何でも受け入れる必要はない。
俺もちょっと大人になったのさ。
さて、俺はりんごジュースを飲もう。
領主隊の隊員達が、またダンジョンに入って行った。きっと、もう少し魔物の数を減らしておきたいのだろう。
「コクン……コクン」
「殿下、オヤツ食べますか?」
「え!? シェフ、オヤツあんの!?」
「はい、簡単な物ですが」
そう言ってシェフがマジックバッグから白いフワフワの丸い物を出した……肉まん!
「うわッ! シェフ! 何でこれ知ってるの!?」
「何で、て。殿下が小さい時に食べたいと仰って教えて下さいましたよ? 思い出して久しぶりに作ってみました」
マジで!? 小さい頃の俺って、食べ物に関してスゲー執着してないか? ま、嬉しいけども。
「嬉しい! 頂きまーす……美味しい! シェフ、数はあるの?」
「はい、もちろんです。皆さんの分もありますよ」
さすがシェフだ。よく分かってるよ。
「手が空いてる人はオヤツあるから食べてー! シェフが作ってくれたの! 美味しいよー! 食べてー!」
俺が叫ぶと、隊員達はワラワラと寄ってきた。
「アハハハ、リリは相変わらずだね〜」
「ルー、何?……モグモグ」
「いや、僕はリリのそんな所が大好きだよ」
やだ、気持ち悪いからやめて。
「リリ、酷いね」
「……ん……?」
妖精さんが動いた。起きたかな?
「あれ? 外? 良い匂いがする」
ポッケからヒョコッと顔を出した。
「目が覚めた? あんまり寝てないけど大丈夫?」
「うん、もう外に出たんだね」
――ギュルルゥ……
これは妖精さんのお腹の音か?
「もしかして、お腹すいてる? 食べる?」
「うん! 食べる?」
シェフにもう一つもらって妖精さんに食べさせてあげる。肉まんの方がデカイからさ、持っていてあげるだけなんだけど。
「うぅッ! 美味しい!」
妖精は俺の膝の上で肉まんにかぶりつく。
「でしょ? シェフが作るのは美味しいんだ」
妖精は自分より大きい肉まんを必死で食べている。
「んまッ!」
「アハハハ、凄いお腹が空いてたんだね」
妖精て、こんなの食べないかと思ったよ。だってルーは食べないからな。
それから妖精の話を聞いた。
今から数日前に、オークエンペラーに捕まったらしい。この森には元々オークエンペラーなんていなかったそうだ。
なら、どうしていたんだろう?
オークエンペラーの面倒なところは状態異常を使う事だ。それで、動けなくなったらしい。
で、あれよあれよと言う間にダンジョンコアに縛り付けられた。
と、妖精の話から推測するとあのダンジョンは本当に出来たばかりだったんだな。
良かったよ。早く発見できてさ。