276ー妖精のフィー
オクソールとリュカとアルコースと俺で順調にジャイアントスパイダーを削って行く。あと半分だ。
ふと見ると、フレイとテュールがブーストとプロテクトを掛けてオークエンペラーに斬りつけている。
「リュカ! 兄さま達にもガードできる!?」
「殿下! やってます! 大丈夫です!」
よく見ると、オークエンペラーが振り下ろした斧の様な武器の攻撃がガードされている。が、その前にフレイもテュールも上手く避けている。
凄いな。あの兄達は。それについて行っている側近二人も凄い。
うわ、シェフが一人でオークエンペラーの足に斬りつけている。マジかよ!
こっちもジャイアントスパイダーはあと少しだ。
「リリ、行くぞ」
「うん! ユキ!」
ユキがまた飛ぶ。同時に俺は斬撃を飛ばす。
――ギュイーン!! ギュイン!!
――ザシュ! ザシュッ!!
「殿下! ラストです!」
「うん! オク! お願い!」
ユキがジャンプして蜘蛛を蹴り落とすと、オクソールが剣を振り下ろした。
――ザシュッ!!
よしッ! ジャイアントスパイダーは全部倒した。後はオークエンペラーだ。
「テュールッ!! シェフ!」
「はい! 兄上!!」
「はいッ! フレイ殿下!」
兄二人が高くジャンプしてオークエンペラーを袈裟懸けに斬りつけ、シェフが風魔法でより高くジャンプし横一線に首を目掛けて斬撃を飛ばした。
――ギャァァーーッ!!
「やったッ!!」
オークエンペラーが倒れて消えて行く。
「フレイ兄さま! テュール兄さま! シェフ! 凄いッ!!」
気付けば周りはドロップアイテムだらけだ。
「コアを壊すぞ」
フレイが剣を振り下ろした。
――ガキーンッ!!
台座に仰々しく載せられていた真っ赤なクリスタルの様な大きなコアが崩れ落ちた。
すると、ラスボス部屋の扉が大きな音を立てて崩れた。
「これでもうボスは現れません。徐々に階層も消えていき魔物も少なくなるでしょう」
「ええ、オクソール殿。皆様! 有難うございました!」
アルコースが叫びながら頭を下げた。
「エヘヘへ」
「アハハハ、殿下。アウル様と同じ笑い方ですよ」
「オク、そお?」
「アハハハ、リリアス殿下! 本当に同じでしたよ!」
「リュカ、ボクはあんなに可愛くないよー。フレイ兄さま! テュール兄さま! シェフ! お疲れさまー!」
3人が戻ってくる。側近の二人はまだオークエンペラーのドロップアイテムを回収している。オークのお肉が沢山だ。美味らしい。皆でバーベキューできるな!
「リリ! 少しは見せ場があって良かったよ」
「本当にな。リリばかりに活躍されたら兄として立場がないぞ」
なんだよ、フレイもテュールも余裕じゃん。
「殿下、ご無事で」
「シェフ、有難う! 兄さま達も無事ですか?」
「ああ、問題ない」
3人共、怪我一つしていない。リュカのお陰だ。
「リュカ、有難う」
「殿下、お役に立てましたか?」
「もちろんだよ!」
「ああ、リュカ。助かった」
「オクソール様、はい!」
ハハハ、オクソールに『助かった』と言われてリュカは嬉しそうだ。師匠にそう言われたら嬉しいよな。
「さあ、皆様。戻りましょう!」
アルコースが魔道具で、其々のフロアに連絡をする。皆、撤退だ。
転移玉でサクッと地上に戻ろう。
ん? ちょっと待てよ? と、俺はコアが設置されていた台座の方を見る。
「殿下、何かいますね」
「オク、何だろう?」
俺はユキに乗ったまま、オクソールとリュカと一緒に台座を見に行く。
見ると……コアが消えて無くなった台座に透き通った羽を持つ小人が倒れていた。俺の顔より小さいな。
「リリ、これは妖精だ」
「ユキ、妖精!?」
妖精なんているのか!? 初耳だぞ!
「コアに閉じ込められていたのでしょうか? ユキ、分かるか?」
「いや、オクよ。我はそこまでは分からん」
コアの中に閉じこめられていたであろう小さな妖精。グッタリしている。これはどうしたものか……
鑑定してみる。オクソールも精霊の眼で見ている。
「殿下……」
「うん、オク。助けなきゃ」
『ディスエンチャント』
妖精らしい小人の身体が光った。
『ハイヒール』
もう一度光る。
透き通った小さな羽がピクッと動いて、小さな妖精がゆっくりと目を開けた。
「気がついた? 大丈夫?」
「…………だれ?」
「ボクはリリ。解呪してハイヒール掛けたんだけど。気分はどう?」
「え……? 人間? 獣人も……神獣!?」
「ああ、ユキて言うの。ユキヒョウの神獣だよ」
「助けてくれたのか?」
「うん。君は呪いをかけられてここに縛られていたんだね? だから解呪したんだ」
「そんな……人間が!?」
妖精さんが驚いてキョロキョロしている。
「リリは人間だが、できるのだ。驚く事ではない。我が守護している人間だ。信用していい」
「神獣が守護……信じらんない……!」
「ねえ、大丈夫? 苦しかったりしない?」
そんな事より、身体はどうなんだ?
「あ? ああ。有難う。助かったよ。リリ」
「うん、良かった。君、お名前は?」
「ボクはフィー。森に住んでる妖精だよ。
オークに捕まっちゃって、コアに閉じこめられていたんだ」
「もう大丈夫だね」
「うん、有難う」
「いいよー。じゃあねー」
俺は妖精に向かってヒラヒラと手を振った。良かった、大丈夫そうだね。
さあ、皆で帰ろう。俺達は出口に向かおうとした。
「え? え? 待って!」
「どうした? もう大丈夫であろう?」
俺達を引き止める妖精さんの言葉にユキが答える。
「外に出るならボクも連れて行って! ここがどこだか分かんないんだよ!」
「そうなの? いいよー」
「リリ! 有難う!」
妖精がフラフラと飛んで俺の上着の胸についてるポッケに入った。おや、まだ辛そうだ。本当に大丈夫か?
「リリ……君の魔力は光なんだね」
「うん」
「とても心地良いよ。少し……眠い……」
妖精はそのままポッケの中で寝てしまった。
「あらら……どうしよう」
「連れて行ってやったらどうだ?」
「兄さま。いいですか?」
「良いも何も、俺は分からん」
なんだよ、それは。
そうだよ、こんな時はアイツだ。