272ーダンジョン突入
「魔物が増えてきましたね」
「ねえ、オク。ボクの印象なんだけど、以前森に来た時より多くない?」
「殿下、多いですよ。ダンジョンがありますから、近辺にいた魔物はダンジョンを避けて移動します」
「そうなんだ」
「殿下は鑑定を常時発動できますか?」
「うん。出来るよ」
「では、そろそろそうして下さい」
「分かった。オクは? 精霊の眼があるでしょ?」
「私は常時は無理です。魔力はルー様のをお借りできますが、私の方が保ちません」
なんかよく分からんが、そう言う事なら常時発動しとくよ。
それと、サーチもしておこう。そう思ってサーチと鑑定を展開して直ぐだった。
「あ、オク。左奥からウルフ系が来る! 多いよ!」
「了解です! 左展開!!」
オクが叫んだ。
――おぉー!!
騎士団と領主隊が一斉に構えた直後、ウルフ系で中型のグリーンウルフが10数頭一気に襲いかかってきた。
騎士団はミスリルの剣を試したいとばかりに突っ込んで行く。皆、一振りで首を狙い確実に仕留めて行く。
「アハハハ、これじゃあ俺が来た意味ないよ!」
テュールが呑気に笑っている。
俺は怖いから、いつでも対応出来る様に魔法の準備をしてるのさ。準備なんてないんだけどな。気持ちさ。
てか、その肝心のダンジョンはどこなんだ? まだかよ?
サーチをもう少し展開してみる。
……あ、そうなのか。
「オク、ダンジョンからも出てきてるんだね?」
「はい、まだ少しですが。これを放っておくとスタンピードに繋がります」
「オク、左側を奥へ行ったところにダンジョンがある。だから、ここからはずっと魔物がいるよ」
「ええ、皆分かってますよ」
そうなのか? スゲーな!
あ、シェフが行った。テュールとノアもだ。
馬に乗ったままだから、ブーストは使えない。でも、皆プロテクトはしている。
凄いな、皆自分で使えるんだ。
「殿下、もう最低限になりつつありますよ」
――ザンッ!!
オクソールが話しながら軽く魔物を斬った。コエ〜!! コエ〜よ!
「え? え? オク、何が最低限?」
「自分でブーストとプロテクトです。今では騎士団も領主隊も皆使えます」
――ザシュンッ!!
「殿下、何してんスか!? 剣持ってるんスから! 抜いて下さい!」
あー、リュカに言われたよ。しかも魔物を斬りながら言われたよ。
「えー、リュカ。ボク嫌なの」
だって怖いじゃん。
「ブハハハッ! 殿下! マジッスか!?」
「殿下、今は構いませんから、プロテクトだけ展開して下さい。ご自分の身を守って下さい」
「オク、分かった」
オクに言われたからプロテクトを展開する。だって俺は平和な国の一般人だったんだよ。慣れねーよ。
「おぉー! リリのプロテクトは綺麗だな!」
テュールに褒められたよ。エヘヘ。
「オク、そろそろダンジョンが見えてくるよ」
「はい。近いぞー!!」
オクが叫ぶと、少しスピードが落ちた。
少し走るとダンジョンの入口が見えてきた。
森の中の不自然な岩山にポッカリと洞窟が出来ている。異様な雰囲気だ。
「停止!!」
前から号令が聞こえてゆっくりと隊列が止まった。
後ろにいた馬を守る役目の領主隊が前に出て、其々魔除けを設置して行く。
設置が終わったら、ユキの出番だ。
「ユキ、お願い」
「ああ」
ユキの身体が光り、魔除けを基準にシールドが張られる。乗ってきた馬全部だから、かなり広い。その中にダンジョン攻略の拠点も作られる。
ここに残る6名が馬を管理し、連絡係も兼ねている。
予め用意されていたシールドの魔石も設置される。ユキと魔石でシールドの強度が上がり、これで1日や2日は大丈夫だ。
「さて、ここからが本番です」
アルコースが話す。
「先に確認した通りの隊列で行く! 先発隊!」
――はッ!!
騎士団から10名、領主隊から10名。この20名で、1〜10階層までを討伐する。
アルコースが皆の士気を高める。
「皆自分の身を守ってくれ! ポーションは充分にある! もしもの場合は魔道具で直ぐに知らせろ!
良いか! 領地の平和は俺達に掛かっている! 絶対に全員無事に帰るぞ!!」
――おぉーー!!!!
「殿下、良いですか? ここからは嫌だと言ってられません」
「うん、オク。分かってる」
あー、だけど嫌だな。
「殿下……」
「オク! 分かってるって!」
バレちゃったよ。
「大丈夫だ、リリ。我が守る」
「ユキ、有難う」
「リリ! 疲れたら直ぐにユキに乗せてもらえ!」
「はい! 兄さま!」
フレイはやる気満々だ……おっと、テュールもだ。
ダンジョンに入る。先に決めた騎士団と領主隊の20名がどんどん先に行く。
「ストップ! そこ罠がある!」
時々、俺が叫ぶ。
俺たちは魔物を無視して下へ進む。
「駄目! そこはフェイクだよ! 階段は左!」
サーチと鑑定を重ねて常時発動している。罠やフェイクがしっかりと表示される。ダンジョン内の詳細な地図と攻略本があるのと同じだ。超便利。
「次の階段降りたら直ぐ罠だから、右に寄って!」
「リリが先導する方が良くないか?」
「え、フレイ兄さま。そんな怖い事言わないで下さい」
「リリ、でも俺もそう思うよ?」
「テュール兄さままで!」
「大丈夫だ、皆守るから。ほら、リリ!」
脳筋&ジャイ◯ンのフレイに引っ張られて先頭に出された。マジかよ。コエ〜よ!
「殿下、大丈夫です」
「はい、大丈夫です!」
「ああ、大丈夫だ」
オクソールとリュカとユキね。もう、頼むよ。マジで。みんな脳筋じゃんか!
俺は諦めて剣を抜き風を纏わせる。
「おお! リリ、やっとやる気になったか!? アハハハ!」
笑い事じゃねーよ! フレイさんよ! 俺、10歳だよ? 忘れてねーか?
あー、ほら出てきたよ。しかも沢山きたよ。
サーチに引っ掛かった植物とお花のキモイ魔物達がクネクネしながらこちらに向かって突撃してくる。
俺は剣に魔力を再度流して、身体全体を使って大きく横に一振りした。
――キュイ〜ン!!
よし! やっつけた! 取り敢えず一掃したな。
「おぉーッ!! リリ凄いじゃないかッ!!」
「アハハハ! リリ! 無敵だ!」
テュールまで脳筋だとは思わなかったぜ。二人の兄は面白がっているな。
――シュイ〜ン!!
俺はまた斬撃を飛ばす。近付きたくないから、出来るだけ斬撃でいこう。痛いの嫌じゃん? 怖いじゃん? どこまでも、前世平和な日本人だ。