27ー講義
さて、俺は晴れてレピオスに弟子入りした。今は薬湯の色んな事を教えてもらっている。目の前に沢山の種類の薬草が並んでいる。
「殿下、お分かりになりますか?」
「うん。でも凄いね。薬草てこんなに効果が高いんだね」
「これは単純な薬湯ですが、同じ薬草を使っても魔力を込めながら精製するとポーションになります」
なんと! ファンタジー! あるんだね、この世界にもポーションが! 作ってみたいじゃん!
「ふぇッ! ポーション!」
「はい。ただ、作成者の能力に因って効果にバラつきがあるのが難点です」
「作成者の能力?」
「はい、火属性の魔力を込めるより、光属性。少しだけ魔力を込めるより適量の魔力を。と、言う感じでしょうか」
なるほど〜、適量かぁ。そんな設定なのか。ほぉ〜。
「じゃあ、ポーションの作成には光属性が向いてりゅの?」
「はい。回復魔法も光属性が1番ですからね」
「ほぉ〜……!」
ん? ちょっと待てよ。1番て事は2番もあるのか?
「リェピオス、光属性以外でも回復魔法はありゅの?」
「御座いますよ。ウォーターヒールと言います。しかし、水属性魔法でも中の上ランクになりますので、使える者は多くないです」
「そっか。ヒールだと光属性でも初級だもんね」
「そうです」
「じゃあ、薬湯とポーションだと、どっちがよく使わりぇてりゅの?」
「殿下、それは目的の違いです」
「目的? 病気と怪我とか?」
「その通りです。いくらポーションを飲んでも、病気は回復しません。いくら薬湯を飲んでも、傷口が塞がったりはしません」
「おおー」
ポーションは万能て訳じゃないんだね。そりゃそうだ。万能ならレピオスの様な医師は必要ないよな?
「じゃあ、リュカみたいに怪我は治ったけど、体力がまだな人はポーションがいいの?」
「殿下、それも時々です。私は、今回リュカにはポーションを使いませんでした。それは何故でしょう?」
「んー、リュカは血を沢山無くしてたかりゃ?」
「そう! その通りです! 素晴らしい!」
「エヘヘ」
「それは、何故ですか?」
ん? なんだと? 何故か……?
「んー。血が少ないかりゃ、ポーションで無理矢理回復させない方がいい? その方が身体に負担がかかりゃない? とか?」
「正にその通りです!」
「エヘヘ」
「ですから、殿下。患者の症状、怪我ならその状態も大切なのですよ。そして、回復した後もいつも通りに過ごせる事が大切です。私は、殿下にもポーションを使用しませんでした。殿下の小さなお身体に負担がかからない様にです。多少の時間は掛かっても、薬湯でゆっくり回復して頂く方が後々良い事もあるのです」
奥深いねー! 漢方薬みたいだ。しかし、身体に負担を掛けない様にとか、回復後の事を考慮していたりとかレピオスは良い医師だ。
「凄い! リェピオス天才!」
「ハハハ、殿下。有難うございます。しかし、医師なら当然です」
レピオスの話だと、帝国は初代の功績で他の国とは医療の考え方が少し違うんだそうだ。
まず、衛生環境を整えるのも初代の考案だ。それによって、感染症が激減した。他の国ではその事にまだ気付いていない国もあるらしい。まあ、目に見えない細菌等に気をつけろと言われても、半信半疑になるわな。
「帝国では建国当時から衛生環境に重きを置いておりましたので、国民の生活環境も他国とは違います」
「だかりゃ、ボクが湖に落ちた時もまずお湯に浸かって洗浄だったんだね」
「そうです。ただ、あの湖だからと言う事もあります」
「あの湖だかりゃ?」
「はい。殿下はあの湖、ミーミユ湖のお話をご存知ですか?」
「うん。精霊達の水場でしょ?」
「はい。それと?」
「えっと、魔素濃度が高い」
「そうです。その魔素濃度が原因です」
「どうして?」
「魔素とは何かご存知ですか?」
「えっと……空気中にごく微量に漂う特殊な物。魔法を使う時に干渉できりゅエネルギー物質。大量の魔素は身体に悪影響を及ぼす。だっけ?」
魔素とは、俺にとっては超ファンタジーな物質だ! 地球にはなかったからな。
「正解です。よく覚えておられます。では、ミーミユ湖に落ちた殿下を慌てて洗浄した理由は何でしょう?」
「あ、そっか。大量の魔素は身体にわりゅい。だかりゃだ。魔素濃度の高い湖に落ちたかりゃ、洗い流して薄めりゅ為だ」
「大正解です。殿下、素晴らしい!」
「じゃあ、ボクを助けてくりぇたオクも入ったの?」
「湯船にですか?」
「うん」
「まぁ、冷えていましたので入りましたが、獣人は敢えて薄める必要はありません」
「え? どうして?」
「獣人にとってあの湖の水は、回復薬の代わりになるのです。ポーション程ではありませんが、多少の怪我や不調なら治ります。ですのでリュカも湖を目指していて、この邸に辿り着いたのでしょう」
「しゅ、しゅごい!!」
「人間と獣人の違いも関わってくるのですよ。帝国は多種族国家ですから」
「なりゅほど〜!」
「失礼致します。殿下、そろそろ夕食です」
お、もうそんな時間か。ニルが呼びに来たぜ。
「ニリュ、分かった。リェピオスありがとう! とても勉強になった!」
「それは良かったです」
「リェピオス、明日も来ていい?」
「構いませんよ。では明日は実際に、薬湯を調合してみますか?」
「本当に!? やってみたい!」
「では、また明日に致しましょう」
「うん! リェピオスありがとう!」
知らない事を知るのは楽しいな。思わずスキップしちまったよ。明日は薬湯の調合だ! レピオスは良い医師だ。それに、良い指導者だ。ラッキーだ。直ぐ近くに良い師匠がいるんだ。嬉しいね。
ニルに手を引かれて1階の廊下を歩く。いや、スキップする。
「おや、殿下」
シェフがいつものワゴンを押して歩いて来た。
「シェフ、もしかしてボクの夕食?」
「はい、殿下。今日はシチューです」
「美味しそう!」
え? ちょっと待て、此処は1階だぞ?俺の部屋は2階だぞ? なんで今迄気づかなかった!?
「シェフ、そのワゴン。どうやって階段登りゅの?」
「はい、持ち上げるのですよ」
なんだと!? そんな大変な事を毎食やっていたのか!? この邸の階段は長いぞ! 俺は未だにニルの抱っこに世話になってるぞ!
「シェフ、今度かりゃボクが1階に降りりゅよ」
「殿下、大丈夫ですよ。見ていて下さい」
そう言ってシェフは先を歩いた。
「さ、殿下。抱っこしますね」
と、ニルにヒョイと抱き上げられた。階段に差し掛かった時にシェフはなんと……!
「え……! 何そりぇ!?」
「ハハハ。殿下、魔法ですよ。身体強化です」
シェフはヒョイと軽々とワゴンを持ち上げ、普通に階段を登って行く。
「シェフ、凄いね!」
「有難うございます!」