267ー新しい服
アイシャを鑑定してみた。
結果、魔力量はレイリの方がずっと多かった。ただ、アイシャは器用なんだ。
臨機応変に対応できる。柔軟性が高いんだな、きっと。
「私、魔力量増やします!」
「アイシャ、分かってるよね?」
「あ、はい。殿下。出産してからですね」
「レイリ、見張っててね。アイシャは心配だよ。後先考えないし、周りが見えなくなるし」
俺はそう言いながら、アイシャをジトッと見た。
「殿下、申し訳ありません。私がちゃんと見ますので」
うん、頼んだよ。本当、アイシャはお転婆だな。
さて、俺は残りのマジックバッグを作るかな…………て、あの……
「アイシャ、そんなに見る?」
「殿下、お気になさらず」
ハァ〜……君は元気な妊婦さんだね。
アイシャが大きなお腹を邪魔そうに身を乗り出して俺の手元を見ている。
ホント、レイリの気苦労が分かる気がするよ。そっか、そういえば面接の時もそんな事を言ってたな。
「殿下は何故そんなにサクサクと作れるのですか?」
「ん? アイシャ。だってボク、5歳の時から作ってるから。もう慣れてるんだ」
「「ご、5歳!?」」
「ん? そうだよ。」
あら、リュカが吹き出さないな。いつもの流れだと、絶対に吹き出してるよな?
リュカを見ると、めっちゃニコニコしていた。何故に……?
「じゃあ、レイリ。今後のマジックバッグは頼んだよ」
「はい、リリアス殿下。有難うございます」
うんうん。任せて安心。やっぱ冷静なレイリは頼りになるね。
「リリ、いるか?」
お、フレイとデュークが来たよ。何だろう?
「はい、兄さま」
「では、殿下。私達はこれで」
「うん。レイリもアイシャも頼んだよ」
「はい。リリアス殿下」
レイリとアイシャが、フレイに一礼して戻って行った。
「リリ、剣は持ってきているな?」
「はい。父さまに頂いた物を持って来てます」
「リリの武装が城から届いた」
「武装ですか?」
なるほど。そうか。以前森に行った時、騎士団も近衛師団もオクソール達も普段の制服じゃなかった。
「父上とセティが作ってくれていたらしい」
「父さまが?」
実は、騎士団や近衛師団の制服は普通じゃない。もちろん、フレイやデューク、オクソールとリュカが着ている物もだ。
防御力の高い魔物の素材を使用している。多少の事では切れない汚れない優れものだ。
その上、俺が作った物理攻撃防御up、魔法攻撃防御up、シールド、状態異常無効の効果を付与した魔石を認識票に付けているのだから、ほとんど無敵と言ってもいい。
俺は最前線で先陣を切る訳ではない。だから、普段の普通の服装と変わりなかったのだが。
デュークが持ってきた物を、ニルが広げてくれる。
「兄さま、これは……」
「ああ、武装と言うより戦闘服だな」
10歳の子供に戦闘服かよ。しかし……
「普通の生地に見えますね」
「だろ? だが、歴とした魔物素材だ。騎士団や俺達と同じだ」
黒のチュニック丈のシャツに、襟と中央にグリーンブロンドでラインが入っている。
膝下丈のズボンにロングブーツだ。
上からパーカーの膝丈のコート。これも同じ様にグリーンブロンドで縁取りをしてある。
「兄さま、これに剣帯ですか?」
「ああ、そうだ」
なんと言うか……コスプレだな。マジで。前世のその手のイベントだと、撮影会が始まりそうだ。
「シェフの分も届いた」
「兄さま、本当ですか? 良かった!」
「ああ。シェフは特別だからな」
「はい!」
これを機に、俺付きのオクソールとリュカも俺と同じデザインで色使いの物に変わるらしい。勿論、ズボンは膝丈じゃないよ。
ただし、俺は黒だがオクソールとリュカとシェフはダークグレーだ。
なんかちょっと嬉しい。チームみたいだろ? こんな戦闘服が必要な所に行くのは気が引けるけど。だってまだ10歳だからな。
因みにフレイは、第1騎士団の制服のダークグレーが黒の物になる。
「あれ? コレは……もしかしてニルとラルクのですか?」
「そうだ。今回ニルとラルクは出ないが、必要な時があるかも知れないからな。侍女の制服では、心許ない」
ニルのも、オクソール達と同じ色で、ズボンではなくミディアム丈のスカートにブーツだ。エプロンまである。
ニルには着せたくない。これが必要な所には連れて行きたくないよ。強いのは分かってるけどさ。
「リリ、まあ備えあればだ」
「はい、兄さま」
そう言えば……
「兄さま、もしかしてラルクも強いのですか?」
「ああ、強いぞ。同じ年齢の者だと敵わないだろう。それ以上の歳でもな」
そうなんだ。訓練したんだな。努力してきたんだ。
「だが、今はまだリリの方が強いな」
ん? フレイがサラッとおかしな事を言ったぞ。
「兄さま、ボクは強くないですよ?」
「リリ、お前は自覚がないのか?」
何をだよ? だって俺、全然強くないぜ? 毎日オクソールに半死にされてるからな。そりゃあもうヘロヘロだよ。
「オクソールに、あれだけ付いていけるのはなかなかいない」
いや、リュカは楽勝だぜ? 息切れもしないよ?
「リリはオクソール以外と打ち合いをした事ないだろう? 一度やってみるといい。そうすれば分かるさ」
なんだよ、意味深だな。まぁ、いいか。俺は強くない、て事でいいさ。うん、それがいい。
「リリアス殿下はお強いですよ?」
あ、デュークがいらん事を言った。
チラッと睨んでおこう。
「アハハハ、リリには敵わないな」
「フレイ殿下、本当に敵いませんね。しかし、リリアス殿下。強さはご自分や大切なものを守る為に必要な時がありますよ」
「うん、デューク。そうだね、分かった」
そっか。守ってもらうばかりじゃなくて、俺も守れるのか。そう考えると、強さも欲しいな。守られるばかりじゃ嫌だ。
「ところで、リリ。以前、王国に行った時に便利な魔道具を作ったろう? あれは持ってないのか?」
あれ? また? 嫌な予感がするよ?