266ーアイシャ乱入
レイリが言うには……20歳になったばかりの頃に流行病に掛かって3日間高熱が下がらなかった時があったらしい。
今から思えば、それ以来魔力操作が苦手になった様な気がすると。
「二人共さぁ、普通は分かるよね……?」
「え、リリ殿下。そうですか?」
「うん、リュカ。分かるよね?」
「いやいや、殿下。分かりませんよ?」
「え……レイリ。だって明らかに違うじゃない? 普通さぁ、分かるよね……?」
「え……まぁ。そうでしょうか?」
なんだか二人がどんどん小さくなっていく。虐めている訳じゃないんだぜ?
「レイリ、リュカ。他に同じ状態になった人はいないかな?」
「私は流行病だったので、領地に何人もいると思いますよ」
「俺は……村人みんな捕まりましたけど、怪我して熱を出したのは俺だけなんで」
そっか。リュカはそうか。でも、魔法を封じる魔道具も気になるなぁ。ん〜……
「一度、リュカの村に行ってみたいな」
「えッ!? 殿下、それはやめましょう!」
なんでだよ!? なんで嫌がるんだよ!?
「え? リュカ、ボクが行ったら迷惑?」
「いえ、そうではなくて。歓迎されると思いますが、俺が恥ずかしいんッスよ!」
なんだよ。そんな理由なら却下だ。
「レイリ、魔力を流すのはできる?」
「はい、できますよ」
「そっか。じゃあ、聞き取りしてもらって、レイリと同じ状態の人がいたら魔力を流してみてよ」
「え? 私がですか? 私にできますか?」
「できる、できる。ゆっくり流すと引っ掛かりが分かるから」
「そんなものでしょうか?」
「うん。大丈夫だよ。じゃあレイリ、次のマジックバッグ作って」
「はい、殿下」
うん。俺がいないと出来ないなんて事は避けたいからね。
レイリがいれば大丈夫だ。
出産が無事に終わればアイシャに教えてもらってもいいしさ。いやいや、大事な事を忘れてたよ。魔術士団があるじゃん。そっちの方が専門じゃんか。そっちに教えてもらう方が早い。うん。そうしよう。
――バンッ!!
「レイリ! 酷いわ!」
「え? アイシャ、どうした?」
なんだよ、なんだよ。夫婦喧嘩は他所でやってくれよ。
「リリアス殿下もです! 酷いです!」
「へっ?」
俺か!? 俺もなのか!?
「落ち着こう、何をそんなに怒っている?」
「だって、レイリだけ抜けがけして! 自分だけリリアス殿下からマジックバッグの作り方を教わっていたんでしょ!?」
「アイシャ、抜けがけ!?」
あー、誰から聞いたんだ? ややこしくなってるじゃんかよ!
「アイシャ、抜けがけじゃないんだ。ボクがレイリを呼んだんだ」
「リリアス殿下……そんな! 私は駄目なんですか!? レイリより私の方が魔力操作は得意です!」
もう、臨月なのに興奮したらいかんよ。赤ちゃんに悪いぜ?
「あー、アイシャ。そうなるからだよ」
「え……!?」
「アイシャより、レイリの方が冷静だ」
悪いな、本当の事なんだ。
気持ちに左右されるから、敢えてレイリを選んだんだ。容量を出来るだけ均一にしたかったんだよ。
まあ、俺とレイリが作った物だと違うんだけどね。でも、今後の事を考えるとさ。
「アイシャ、同じマジックバッグなのに、自分のと誰かのと容量が違うとどう思う? 皆、同じだけの物が入ると思っていたのに自分だけ入らないとどう思う? それを、出来るだけ無くしたかったんだ」
「リリアス殿下、私だとそうなると?」
「だって今実際に、感情に任せてボクの部屋に怒鳴り込んで来たじゃない。それは駄目。レイリはそんな事絶対にしない」
「あ……殿下……申し訳ありません」
「分かってくれた?」
「はい……殿下」
「あのね、アイシャ。何もレイリしか作っちゃ駄目と言っているんじゃないよ。
アイシャも出産して、気持ちが落ち着いたらレイリに教わるといい。ただ、今はレイリってだけだ。レイリなら冷静に教えられるだろうしね」
「本当ですか? 私も教えてもらって良いんですか?」
「もちろんだよ。アイシャだけじゃなくて、魔力量があって魔力操作が出来る人なら挑戦してほしいな。ほら、魔術士団あったでしょ? レイリ、教えてほしいな」
「はい、殿下。分かりました」
「殿下、有難うございます。私ったら恥ずかしいです」
「アイシャはもう少し落ち着こうね。母親になるんだしさ」
「はい、殿下。すみません」
あー、めちゃお顔が真っ赤になったよ。
レイリ、大変だな。察するよ。
空間魔法と時間停止を同時付与するには、魔力量が大きく影響する。
俺は、アイシャとレイリに魔力量を増やす様に話した。寝る前にギリギリまで使いきれと。枯渇させないように注意してな。
魔力量は寝たら復活する。だから寝る前が1番効率が良い。そしたら、魔力量は増える。
「ただし、アイシャは出産してからだ。今はお腹の赤ちゃんが最優先だ。出産してからも最低1ヶ月はやっちゃ駄目。アイシャの身体がちゃんと元気になるまでは、絶対に駄目だよ。アイシャの身体と、赤ちゃんが最優先だ。約束して」
「はい、殿下。お約束します。命が最優先ですね」
「そうだね」
うん、よく覚えていてくれた。嬉しい。
「じゃあ、レイリ。あと何個か作れる?」
「どうでしょう? 自分でどれだけ使ったか分からないです」
そっか。そんなもんか。じゃあ、もう一度鑑定だ。
『鑑定』
おふッ、まあまあ減るもんなんだな。うん。あと1個だけにしておこうかな。
「レイリ、2個作ったからあと1個だけ作ろう」
「殿下、もうそんなに減っているんですか?」
「ん〜、減っているのもあるけど、今はダンジョンの事もあるからこれ以上魔力量を減らすのはどうかな? て、思って。レイリなら、マジックバッグを作るのは1日に4個迄だね」
「分かりました」
おや、アイシャがキョトンとしているよ。どうした?
「あの、殿下。どうしてそんな事が分かるのですか?」
ああ、アイシャも知らなかったか。俺はもう一度、鑑定の説明をした。
「殿下! 私も鑑定して下さい! 是非に!」
あー、はいはい。分かったよ。
今、言ったとこなんだけどな。アイシャ、そう言うとこだよ。直そうぜ。