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262ー薬師達

「ふあぁ〜……」

「殿下、おはようございます」

「ニル、おはよう」


 よく寝たぜ。俺はベッドからおりる。


「殿下、朝食がお済みになられてから、薬師達がお目に掛かりたいと言ってます」

「ああ。しまった、忘れてたよ」


 そうだ。アスラールに会いたいと言っていると言われてたな。


「ニル、ボクも会いたい」

「では、その様に」

「うん。朝食食べたら調薬室に行くよ」

「畏まりました」



 て、事で俺はリュカと一緒に邸の調薬室に向かっている。5年前はレピオスと一緒だった。

 ケイアが仕切っていて、皆身動きができなくてピリピリしていた。雰囲気最悪だったよ。

 ケイアの事が解決して、城に帰る前に新しい薬師の登用試験をして、アイシャとレイリを採用した。

 あの時既にレイリはアイシャの事が好きだったんだ。誰の目から見ても明らかな程に。

 二人はやっと婚姻したらしい。しかも、アイシャから告白したとアスラールは言っていた。

 みんな、上手くやってるかな?楽しみだ。


「……⁉︎」

「リリアス殿下! ご無沙汰しております!」

「あ、あ、アイシャ!」

「殿下、よくお越し下さいました」

「レイリ……! おめでとう!」

「ハハッ、恥ずかしいですね。有難うございます」


 ビックリしたよ。アイシャのお腹が大きかったんだ。もう臨月じゃないか? て程にな!


「アイシャ、いいの? お仕事していて」

「はい、殿下! 平気です! 動く方が良いんですよ」

「いや、だからって……」

「殿下、少し言ってやって下さい。私の言う事なんて、何もきいてくれないんですよ」

「レイリ、煩いわよ」

「アイシャ、そんな言い方しては駄目だよ。レイリだって心配なんだよ。で、いつ産まれるの?」

「もう、いつでも!」

「はぁッ!?」

「殿下、ですからもう臨月なんですよ」

「レイリ、本当に!?」

「はい。なのに、仕事するわ、徹夜するわで」

「アイシャ、それは駄目だ」


 本当に出産を何だと思っているんだ? あれ程医学が進んだ前世でさえ、命に関わる事なんだぞ。


「とにかく、アイシャ。座って」


 5年前に見た顔が並んでいる。うん。以前と空気感が全然違うな。


「どお? みんな上手くやってる?」

「はい。アイシャ様とレイリ様の指導で皆ハイポーションを作れる様になりました!」


 そりゃ凄い。そうか、色々やってるんだな。


「もちろん、領主隊への納品は遅れた事などありませんよ」


 うん、うん。そんな当たり前の事が以前はできていなかったからね。

 それから俺は皆の色んな話を聞きながらお茶をした。平和になったものだ。

 あの頃はこんな時間が訪れるとは思わなかった。皆も同じだろう。


「殿下、ケイアさんはどうしてますか?」


 薬師の一人が躊躇いながら聞いてきた。


「ああ。帝都の専門の施設で治療を受けているよ。かなり落ち着いたらしい」

「そうですか」


 皆、ケイアには苦しめられたからな。やはり良い感情は抱いてないだろう。



「ケイアさんも……幸せになって欲しいと今は思えます。あの頃はそんな余裕はありませんでしたが」

「そう。有難う」

「殿下が、有難うと仰る必要はありません。私達の方が殿下にお礼を言わないと」

「殿下、皆色々考えた様です」

「レイリ、そうなんだ」


 薬師達は本当にあれから色々葛藤したみたいだ。

 辺境伯が何もしないからと、自分達も何もしようとしなかった。

 もしもあの時、誰かがケイアに声を掛けていたら。

 もしもあの時、皆で話し合っていたら。

 辺境伯夫人が犠牲になってしまった事も防げたのではないかと。

 それに、どうせケイアが握り潰すからと、自分達のスキルアップも努力しなかったと。

 それだけ、皆の気持ちに余裕が出来たと言う事だ。良い事だ。

 人は自分に余裕がないと、他人の事まで考えられない。思いやりを持つ事なんて難しい。


「皆、色々思う事はあるだろうけど。そうだね……あの時、父さまとクーファル兄さまが言っていた。

 何もしない事も罪だと。

 だからと言って、皆が罪悪感を持つ必要はないよ。二度と同じ事を繰り返さない事だ。考えて、また考えて、皆で意見し合って最良の答えを導き出して欲しい。

 皆はこの地の要の一つだ。命を預かっている。責任は重いよ。でも、それだけ必要な人達だと言う事を忘れないで。

 未来は選べるんだ。皆で最良の未来を選んで掴み取ってほしいな」

「はい、殿下。有難うございます」


 レイリがそう言って頭を下げると、皆も同じ様に頭を下げた。

 自分達が苦しい思いをしていたのに、相手を思いやる事はそう出来る事じゃない。皆、優しいし強いんだな。いや、強くなったのかな?



「リリしゃまー!」


 俺が調薬室から戻ると、アウルースがアルコースと一緒に待っていた。


「アウル、どうしたの?」

「リリしゃま、どこ行ったでしゅか!?」

「調薬室にね。薬師達に会ってたんだ」

「ち、ちょう……?」


 ん〜、分からないか。


「アウルがお熱を出したりすると、薬湯を飲むでしょ?」

「あい。にがいの嫌いでしゅ」

「アハハハ、そうだね。あの薬湯を作っている人達に会ってたんだ」

「……」


 ん? 分からないか? どうした?

 アウルースが何か考えている。


「リリしゃまは、色んな人を知ってましゅ」

「ああ、そうかもね」

「アウル、リリアス殿下は沢山の人達を救ってくださったんだ」


 いや、アルコース。それは違う。


「アルコース殿、それは違います。この地の人達の努力ですよ」

「ん〜、ボキュ足りましぇん!」

「え? アウル、どうしたの?」

「もっと大ききゅなって、もっといっぱい知って、ボキュもリリしゃまみたいにピカピカになりたいでしゅ!」


 驚いた……! この子は本当に只者じゃあないぞ。思わずアルコースと見合ってしまった。


「リリアス殿下、驚きました。私はこの子の父親なのに、分かっていなかった」


 ああ。このまま真っ直ぐに育って欲しい。

 素直に笑って、泣いて、喜べて。

 素直に自分が未熟な事を認識できる。それは素晴らしい事だ。

 大人になるに連れて、いらないプライドや見栄等が邪魔をしたりする。

 そんな事のない様に。真っ直ぐに育って欲しい。


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