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261ー閑話 ニルの思い

「ニル殿、殿下は落ち着かれましたか?」

「はい、オクソール様。眠っておられます」

「そうか。良かった」


 私はニル・ナンナドル。

 アーサヘイム帝国第5皇子、リリアス・ド・アーサヘイム様付きの侍女です。

 殿下がお産まれになられた時からお側でお世話をしております。

 私の父は、セティ・ナンナドル。現皇帝の側近です。伯爵位を賜っております。


 私の家系は代々、男なら側近か侍従、女なら侍女として皇族の方々にお仕えするお役目を担ってきた家です。

 それこそ、物心ついた頃から皇族に仕える為の様々な教育を叩き込まれます。嫡男でも関係なくです。

 しかし人間ですので、向き不向きがあります。向かない者は、次世代の指導係になったり嫡男の代わりに家を継いだりします。

 嫡男が家を継ぐと言う事に、あまり重きを置かない少し変わった家系かも知れません。


 私も、小さな頃から教育を受けて参りました。教育は多岐に渡り、例えばお世話する事でも子育てから教わります。

 また、一般教養はもちろん、体術や剣術等も鍛練します。簡単な手当てや薬学、毒も暗殺方法も教わります。全てお仕えする方をお守りする為です。


 姉が早くに第1皇女殿下のフィオン様にお仕えする事が決まり、暫く姉の補佐をしておりました。


 第3皇子のテュール殿下、第4皇子のフォルセ殿下には同じお役目を担った別の家系の者が付きました。

 私は、このまま姉の補佐でずっとフィオン様にお仕えするのだろうと、思っておりました。


 そんな時に、歳の離れた第5皇子殿下がご誕生されました。

 初めて、第5皇子のリリアス殿下にお目にかかった時に私はこの殿下にお仕えしたいと強く思ったのです。

 産まれて間もない殿下が、私の指をしっかりと握ってキラキラとした天使の様な笑顔を向けられたのです。

 やられました。ええ、殿下の満面の笑顔にやられてしまいました。

 私はすぐに、リリアス殿下にお仕えしたいと父に願い出ました。


「まだお産まれになられたばかりだ。乳母も付いている。お前はその乳母について

お世話をする補助をしなさい。まあ色々あるだろうが……他家との調整もあるし、とりあえず様子を見る。頑張りなさい」


 頑張りますよ、言われなくても。

 しかし、父が「色々あるだろうが……」と、含みを持たせた意味が直ぐに分かりました。


 『光の帝国』と言われるこの国は、光の神の恩恵を受けております。その為には、皇族の中に1人は必ず光属性を持つ方を出す事が必須になってました。

 しかし現皇帝陛下以降、光属性を持つ方がお産まれにならなかったのです。

 ですので皇帝陛下には敵が多く、馬鹿な貴族が自分の家の光属性を持つ者を皇族に入れようとしていた矢先にお産まれになったのが第5皇子殿下です。

 しかも、待ち望んでいた光属性をお持ちです。


 皇族の方は皆、お産まれになられて直ぐに大司教様に属性の判定をして頂きます。もちろん光属性をお持ちかどうかを確認する為です。

 リリアス殿下は、大司教様がかなり強い光属性をお持ちだと判定されました。

 そのせいで、お命を狙われる様になったのです。


 馬鹿な貴族は、乳母にメイドに挙句は料理人に刺客を送ってきました。

 殿下がお産まれになられて間もない頃の事です。私は最初の乳母が、自分の乳首に毒を塗っているのを看破致しました。

 騎士団のオクソール様は、メイドがスカートの中に暗器を忍ばせているのを見破られました。

 また、あの頃は騎士団副団長の任に付いておられたリーム様は、殿下のミルクが毒入りの物にすり替えられた事に気付かれる等、暗殺計画を潰してまいりました。


「ニル、良くやった。これからもリリアス殿下をお守りしなさい」


 と、父に告げられ私は念願の殿下付きの侍女を拝命したのです。

 その後、リーム様が何故か殿下付きのシェフに就任され一安心し、またその後オクソール様が殿下専属の護衛になられ心強く思っておりました。


 それでも殿下は狙われました。

 2歳の頃は2度も刺客を送って来られ、毒針を仕込まれ、殿下のお部屋が荒らされたりした事もあり、父が城の中に密偵を紛れ込ませ黒幕を探っておりました。

 そして、リリアス殿下が3歳になられて間もない頃です。


「エイル様とナリーシア様が揃って高熱を出されてしまわれました。陛下、まだお小さい殿下方に感染ると重症化してしまう危険性がございます」

「セティ、そうだな。第2第3皇女、第3第

4第5皇子を暫く別邸に移す方が良いか」

 

 まだ春と言うには朝晩が肌寒い頃でした。リリアス殿下のお母上のエイル様と、テュール殿下とフォルセ殿下のお母上のナリーシア様が高熱を出され寝込まれてしまいました。

 朝晩の冷込みで、風邪をひいてしまわれたのだろうと言う事でした。感染力が強いらしく、帝都でも高熱を出す者が出ておりました。

 ですので、陛下と父の判断で、リリアス殿下、テュール殿下とフォルセ殿下、そして第2皇女のイズーナ様と第3皇女のフォラン様が皇家所有の別邸に暫くの間移られる事になりました。

 このお二人の皇女殿下のお母上は第1側妃のレイヤ様で、幸いお元気でした。


 もちろん、私もリリアス殿下に付いて別邸に参りました。

 そこで予期せぬ事件が起こったのです。


 皇家が所有されている別邸は、帝都から少し北にあります。

 別邸近くのミーミユ湖。妖精や聖獣の、水飲場になっている聖なる湖として昔話に出てくる程で、魔素濃度が高い湖としても有名です。

 その湖に殿下が突き落とされたのです。


「殿下ッ!! リリアス殿下ッ!!」


 どうして!? 私もオクソール様も付いていたのに! 不審者など見当たらなかったのに! 何故!?

 オクソール様が直ぐに気付いて湖に飛び込まれ、殿下を抱えて上がってこられました。

 皇宮医師のレピオス様が同行されていた事が幸いして、直ぐに手当され殿下もお目覚めになられました。

 しかし、私だけでなくオクソール様も不審者を確認しておりませんでした。

 それもその筈です。殿下の異母姉弟にあたる第3皇女のフォラン・ド・アーサヘイム様が実行犯だったのです。

 なのに殿下はフォラン様の減刑を陛下に願われました。涙をボロボロ流して、陛下の前に跪いて。


「子供の未来を奪う権利は誰にもないんだ!」


 フォラン様を許してもらえないのなら、自分は皇子をやめて国を出るとまで言われました。


 あの事件の後、殿下は時々夜泣きをされる様になりました。赤ん坊の頃でさえ、あまり夜泣きをされなかった殿下がです。


「ゔぇ〜……ゔッ、ゔぁぁ〜!」

「殿下。リリアス殿下、大丈夫です。ニルがついております」

「ゔぇ……ニリュ、ニリュ……帰りたいぃ……ヒック……」

「殿下、早くお身体を治しましょう。元気になって帰りましょう」

「ゔぇ〜ん! ヒック……ゔぇぇ〜ん! ニリュ〜!」


 私は、泣かれる殿下を抱きしめる事しか出来ませんでした。


「ニル殿、もしや殿下はお寂しいのでは?」

「リーム様、当然です。まだ殿下は3歳です。お母上とずっと離れていて寂しくない筈がありません」


 それから、リーム様は殿下のお食事の時に必ずお部屋に入って来られる様になりました。


「シェフー! お腹すいたー!」

「はい! 殿下!」


 リリアス殿下がリーム様をシェフとお呼びになり、楽しそうにお話されながら食事をされる様になりました。

 私も、失礼ながら殿下に添い寝をする様にしました。身体を丸くしてお休みになる殿下を腕で抱き寄せお背中をゆっくりトントンとして。

 少しずつ殿下に笑顔が戻り、夜泣きも減っていきました。

 私達、リリアス殿下付きの者は皆反省しました。後悔もしました。

 殿下のお身体をお守りするだけでは駄目だ。お心もお守りしなければと。

 

 今から思えば、あの時にチームリリが結成されたのではないかと思います。

 リーム様もオクソール様と一緒に、また鍛練を始められました。

 殿下がお助けになった、リュカと言う狼獣人が従者兼護衛に加わりました。

 医師のレピオス様まで、魔法の訓練を再開されました。

 私も、負けてはおられません。


 今までリリアス殿下は、どんな気持ちを抱えてこられたのでしょう。赤ん坊の頃から何度もお命を狙われて、あの小さな胸の中にどれだけの悲しみがあるのでしょう。

 想像もつかない私などには、何もできないかもしれません。

 でも、せめて殿下が独りぼっちで泣かないように。

 あの小さな胸が悲しみで張り裂けない様に。

 その為に出来るだけの事をしようと思います。何があっても、お側にいよう。私はいつも殿下のお側におります。

 もう二度と、殿下のお心が壊れそうにならない様に。

 チームリリは一丸となってお守りする所存でございます。


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