259ーユキは最強
さあ、ここからだ。ユキさんどうするのかな? と、思って見ていたら、何が起こったのか目で追えない程の速さで近衛師団の獣人二人ティーガルとレウス、それに残っていた領主隊と騎士団の隊員数名が倒されていた。
ユキ、わざとだよな。フレイとオクソール、リュカにシェフを意図的に最後に残しているんだ。やだねー。狩りかよ。
「早ッ! 早くて見えねーじゃん!」
「アース、口が悪すぎだ」
「レイ、だってマジ見えたか!?」
「いや、まったく見えなかった」
「だよなー!」
「でも、残っているのは最強メンバーですね」
そんな時、ユキに追いかけられたシェフが飛んだ。Flyではないがな。どっちかと言うととんでもなく大きくJUMPした感じ。
アレだ。前世だとトランポリンだ。トランポリンで思い切りジャンプしたみたいだ。
「ひょぉ〜! リリしゃま! シェフ! シェフ!」
「ねー、飛んだねー!」
シェフ、マジでビックリしたよ。前はユキを投げ飛ばしてビックリしたけど、今回は飛ぶか!? あれだな、ブーストで覚えたからな。
「リリアス殿下! シェフは一体どうなっているのですか!?」
「アスラ殿。足元に風魔法で小さな竜巻の様な風の流れを作っているんだ。ブーストを覚えた時に出来る様になったんだよ」
「風!? 風魔法なんですか!?」
「そうだよ。凄い発想だよね!」
「じゃあ、私も出来るでしょうか?」
「アスラ殿も風属性でしたね? 慣れれば出来るんじゃないかな? バランスが難しそうだけど」
「シェフに負けてられませんよ!」
「アハハハ! アスラ殿、頑張って下さい! でも騎士団や近衛師団がブーストやプロテクトを覚えるきっかけはアスラ殿ですからね」
「私の剣に付与する魔法ですか?」
「はい、あれがきっかけですよ」
「なるほど。しかし私もブーストとプロテクトを教えてもらいましたしね」
「あー! リリしゃま!」
アウルースの声で見ると、大きく宙返りしてユキを回避したシェフを、またユキが回り込んで倒した。
「あぁー! シェフ残念!」
「じゃんねん!」
「ねー、アウル、シェフ凄かったねー!」
「でしゅ!!」
次にユキが狙ったのはリュカだ。
ユキから逃げるリュカを飛び越えて、ユキはリュカの前に出た。
「うわ、ユキ。リュカを正面から倒す気だ!」
シュン! と、ユキが動いた瞬間……
「ぶへッ!!」
リュカは倒されていた。変な声だして。しかし、何が起こったのか見えなかったぞ。
「ユキしゃん、しゅごい!!」
ユキ、まさか転移した? そう思ってしまう程、早かった。人の目では追えないわ。
次にユキが狙いをつけたのは、フレイだ。
ユキがまたシュン! と動いた……が、なんとフレイは身体を翻して避けていた。
「うわ、兄さま凄い……!」
「殿下、フレイ殿下のあのブーストは……?」
「ああ、アスラ殿。兄さまは2属性同時付与しているんです。多分、獣人以上の身体能力になっている筈ですよ。
でも、あんなユキを躱せるとは思いもしませんでした」
ユキがもう一度行く……またフレイが避ける……とその時、ユキはまた瞬時に移動してフレイの背後に回り込んでいた。
トンッ! と片方の前足でフレイの背を押して倒した。
「ユキの身体能力はどうなってんの!?」
「てんの!?」
「ねー! アウル、ユキ凄いね!」
「あい! しゅごいでしゅ!」
残るは、オクソール一人。もうオクソールを倒す必要はないんだけど。だって、逃げる方の勝利条件なんて考えてないからな。最後の一人になった時点で本来なら終了だ。
だから、5年前はここで終了だったのに、今回は敢えて挑んでいる感じか? 獅子vs雪豹だな。
暫く二人は動かず睨み合っていた。
オクソールは動かない……いや、動けないんだ。どこに逃げてもユキを躱せない。
ユキが動いた! オクソールが躱す。またユキが動く。
オクソールもなかなか捕まらない。
ユキはオクソールの背後を取ろうとする。が、オクソールも動く。また背後を取りに行く……と、見せかけてユキはオクソールの真横に飛んだ。
オクソールは一瞬、ほんの一瞬だ。迷ったのか回避が遅れた……次の瞬間、オクソールは倒されていた。
「ユキー! 凄い!」
「ユキしゃーん!」
アウルースが旗をパタパタ振っている。
「あー、残念! オクソール様は凄いですね!」
「アスラ殿、凄いですよね!」
「でしゅね!」
「あー! クソ! ユキが早くて見えなかった!」
フレイが戻ってきた。
「兄さま! 凄いです!」
「リリ、だが悔しいな!」
いやいや、フレイも凄かったよ!
フレイの動体視力も、それに反応する身体能力も普通じゃないぜ。
さて、結果発表だ。今更だが。
「優勝! オクー!! おめでとー!」
「おめれとー!」
アウルースと一緒にパタパタと旗を振る。まあ、そうだろな。最後には倒されちゃったけど、堂々の優勝だ。
「2位でーす! フレイ兄さまー! おめでとうございまーす!」
「ごじゃいまーしゅ!」
フレイにはビックリだ!
「3位でーす! リュカー! おめでとー!」
「おめれとー!」
俺はリュカが2位だと思ったんだけどな!
「みんなー! お疲れさまー! よく頑張ったー!!」
「しゃまー! ばったー!」
アウルースが旗をパタパタ振る。言葉になってねーし。
――おおーー!!
ハハッ、凄い雄叫びだ! 総勢88名だ。辺境伯領主邸の裏庭に響き渡った。
「殿下、倒されました。もう逃げるところがありませんでしたよ」
「オク! でも凄いじゃない! 凄いよ!」
「しゅごいでしゅ!」
「ブースト掛けても敵いません。さすが神獣です」
「オクが獣化したらまた違うんじゃない?」
「いえ、殿下。次元が違いますね」
「そうなの?」
「はい。神獣には敵いませんよ」
「我に勝とうなど10年早いわ」
あら、ユキさん。戻ってきてたんだ。でも10年なんだね。俺は100年位言うかと思ったぜ。
アウルースが、ユキにしがみついて必死に背中に乗ろうとしている。でも、足が全然届いていない。可愛い過ぎだろッ!
「ユキ、いいの?」
「ああ、いいぞ」
ユキが少し伏せてくれる。俺はアウルースを抱き上げて、ユキの背中に乗せて落ちない様に手で支える。
「ユキしゃん! しゅごいでしゅ!」
そう言いながら、ユキの首元を小さな手でガシガシと撫でる。
「アハハハ、そうか。凄いか」
「あい! シュンッ! て! トンッ! て!」
「そうだね、早かったね」
「あい! リリしゃま見えないでしゅか!?」
キラキラした目で話している。小さい子て凄いよな。感情に嘘がなくて真っ直ぐだ。
「うん、見えなかったよ」
「アウル! お前はまた神獣様に乗って!」
「アハハハ、アスラ殿。ユキが良いと言ってるので大丈夫ですよ」
「しかし、殿下」
「おじしゃま! ユキしゃん最強でしゅね!」
「アウル、そうだな。ユキは最強だな!」
「ハッハッハ! そうか、我は最強か!?」
「あい!」
ユキさん、上機嫌だね。尻尾を大きくゆっくりと振っているよ。本当、子供好きだよね。