257ー春の味覚
「掘りたてはこのまま生でも食べられるんですよ。でも、今日はこのまま焼きましょう」
「殿下、さつまいもみたいな感じで?」
「シェフ、そうそう。このまま焚き火の炭の中に入れて焼いてみよう」
俺はりんごジュースを片手に、筍が焼けるのを待っている。しゃがみ込んでじぃ〜と焼いている筍を見ている。
「ねえシェフ、まだ?」
「もうそろそろ良いでしょう」
シェフが筍を焚き火から出して皮をむく。フワッといい匂いがする。
「シェフ、ソイないよね?」
「殿下、ありますよ。かけますか?」
「うん! スライスして、ソイを少し垂らして」
「了解です」
ふぉ……なんて贅沢なんだ! さっき掘ったばかりの筍だ。こんなの前世ではめったに食べれないぞ。
シェフがマジックバッグからソイを出して、少し垂らしてくれる。
「殿下、どうぞ」
「シェフ、有難う! いただきます! ハフッハフッ……あー、美味しい。旬だね。なんか優しいよ」
「殿下、これは他に食べ方は?」
「あのね、ソイと出汁で煮るの。炊き込みご飯もいいなぁ。
でもね、時間がたったらアク抜きしないと駄目なんだ。エグミが出るからね」
「なるほど、なるほど」
「あー、これは酒が欲しいですね」
「えー、アスラ殿。そお?」
「アハハハ、何でも酒が欲しくなるんですけどね」
「お父様、わたしも!」
「アーシャ、食べられるか?」
アンシャーリがアスラールに小さなものをもらっている。子供はどうだろう?
「あ、うまッ!」
リュカ、いつの間に。
「意外とホクホクしてますね。美味い」
オクソールまで食べてたよ。
「ね、美味しいね。掘りたてだから出来る事だね」
「ん〜、大人の味だ」
「アースはまだお子ちゃまだからな」
「コレは……私は好きです。美味しい!」
アースとレイにラルクまで!
「あれ? もしかして皆んな来ちゃった?」
「いえ、アルコースが残っていますよ。アウルがまだ寝てますから」
「あらら、アルコース殿かわいそう」
「びぇ〜〜!! いないぃ〜〜!!」
「あ、起きた」
「殿下、起きましたね」
アスラールが食べながらアルコースの方を見ている。
アルコースがアウルースを抱っこしてやって来た。
「殿下! すみません! 起きました!」
ブハハハ! すみません、起きましたって何だよ! 言葉が変じゃないか? 起きてもいいよ。全然いいよ。
「アハハハ! アウル! どうしたの!?」
「リリしゃまー! リリしゃま! いないかりゃ!」
「アハハハ! アウルいるよ! おいでー!」
アルコースに下ろしてもらって、トテトテと小走りでやって来る。
「リリしゃまーー!」
「どうしたの? ボクはいるよ?」
「あい。あい、リリしゃま! ボキュねむねむしてました!?」
「うん。よく寝てたよ」
「ああー! しぇっかくー! リリしゃま一緒なのにぃ!」
小さな身体で、項垂れている。まぁるい背中が超可愛い。
「アウル、良いんだ。まだアウルはお昼寝が大事だよ。よく寝て、おっきくなるんだ」
「だいじ? リリしゃまもねむねむれしたか?」
「うん。ボクもよくオクに抱っこされて寝てたよ」
「オクでしゅか!?」
「うん。まだアウルは2歳だ。まだまだお昼寝は大事」
「あい」
「殿下、コレ美味いですね!」
いつの間にか、アルコースが筍を食べていた。
「良かった。アルコース殿だけ食べれないかと思った」
「リリ殿下、もう食べたの?」
アンシャーリがつんつんと俺の服を引っ張って聞いてきた。
「うん。アーシャ。食べたよ。アーシャは食べた?」
「はい! 美味しいです」
「そうか。良かった。アーシャもいい子だね」
俺はアンシャーリの頭をナデナデした。女の子は可愛いね〜。なんせ周りは男ばっかだからなぁ。前世も息子二人だったしな。
「リリ殿下、アーシャ好きですか?」
「うん。好きだよ。アーシャもアウルも大好きだ!」
「アーシャもリリ殿下好き!」
「ボキュも! ボキュ大しゅき!」
天使二人に抱き締められてしまった!
「リリ殿下、モテてますね」
「ラルク、めちゃ嬉しいね」
「アハハハ! リリ殿下、豊かな領地ですね。私は辺境伯領のイメージが変わりました」
「でしょ? とても豊かな領地なんだ。資源も食べ物も」
「はい。これで魔物がいなければ……」
「ラルク、ボクもそう思っていた」
「違うのですか?」
「以前、5歳の時に辺境伯に言われたんだ。魔物は確かに危険だ。でも、恵みももたらしてくれる。てね」
「恵みですか?」
「うん。毎日食べている卵、料理に使われているミルクにチーズ。魔物の肉。それに魔石もだ」
「なるほど。確かに」
「ボクはこの領地が好きだよ」
「はい、良い所です。来て良かったです」
「そう? それは良かった」
「リリしゃま〜! 帰るでしゅよ〜!」
「はーい! アウル!」
さあ、邸に帰ろう。帰りはアウルースはアルコースの馬だ。疲れたのだろう。さっきも少ししか寝ていないから、アウルースはコックリコックリしている。
父親の腕の中で安心しているんだろうな。
アスラールの腕の中では、アンシャーリがウトウトしている。
この子達が大人になる頃はどうなっているだろう? このまま平和が続けば良いな。心からそう願うよ。
「殿下、どうされました?」
「ん? オク。この平和を守らなきゃね」
「はい、殿下」
「はーい! じゃあボクがカウントしまーす!」
「しまーしゅ!」
「殿下、リリアス殿下。これに乗って下さい。殿下まだ小さいから」
そう5年前と同じ事を言って、リュカが台を持ってくる。
「リュカ、覚えてたの? ワザと?」
「さあ、何の事でしょう?」
白々しい。まあ、いっか。俺はピョンと台に乗った。
俺達は苺狩りから戻ってきて、邸の裏庭に来ている。
また懲りずに領主隊、騎士団、そして今回は近衛師団も参加してやるらしい。
もちろんオクソールとリュカとシェフも参加だ。ついでにフレイもな。
5年前にやった、vsユキのガチ鬼ごっこだ。
「リリしゃま! ボキュも!」
いや、アウルース。台に乗ってくるの?マジで? 一緒にやるの? 台に乗ってくるアウルースを引っ張り上げて、落ちない様に手を繋ぐ。
「またか。懲りないなぁ」
「お父さま、何ですか?」
「ああ、アーシャ。ユキと鬼ごっこだ」
「えッ!?」
「ああ、アース達も知らないか。5年前にもやってるんだ。誰が最後までユキに倒されないか競うんだ」
「アスラール様、ユキは神獣ですよ?」
「だろ? ラルク。そう思うだろ? なのに大の大人がマジでやるんだよ」
「スゲー、面白そう! 俺も参加したい!」
「いや、アースは無理だよ」
「レイ、分かってるよ!」
さてさて。今回はどんな結果になるかな? 近衛師団にも獣人が二人いるからな。