256ー苺狩り
「リリしゃま、お空きれいでしゅ」
俺の前にちょこんと乗って、アウルースは空を見上げる。俺は後ろからアウルースの身体に手を回して支えている。のんびりと馬は進む。
「アウル、本当だね〜」
「ピカピカしてましゅ。リリしゃまと一緒でしゅ」
「ピカピカ?」
「あい」
「お空が?」
「あい。お空も山もでしゅ」
「ピカピカ?」
「あい。リリしゃまもピカピカ」
「ボクも?」
「あい」
アウルースにはどう見えるのかなぁ?
ん〜、分からん。ま、とにかくアウルースはご機嫌だ。
「ククク……リリアス殿下でも分からない事があるのですね」
アウルースと俺を後ろから器用に支えながら馬を進めるオクソールが言った。
「オク、当たり前じゃない。分からない事だらけだよ」
「だりゃけ?」
「うん。アウルはクー兄さま覚えてる?」
「あい。リリしゃまのにいしゃまでしゅ」
「そう。クー兄さまはね、凄いんだ。何でも知ってるんだ」
「ひょぉ〜! なんでもでしゅか!」
「そう。なんでもだ。凄いでしょ?」
「あい! しゅごいでしゅ!」
裏山に向かう途中の果樹園で、領民がチラホラと作業していた。
――あ、リリアス殿下よ!
――大きくなられた!
――一緒に乗っておられるのはアウルース様じゃない?
――お二人共、なんてお可愛らしい!
――次期様もいらっしゃるぞ!
――アスラール様!
――リリアス殿下!
「リリ殿下、スゲーな」
アースが何か言ってる。まあ、スルーだ。
果樹園を過ぎて山に入る。日当たりの良いところに、立派な苺が沢山なっている。
「アウル、見て! 苺が沢山だ!」
「いちご!?」
「アウル、苺好き?」
「大しゅきでしゅ!」
「一緒に沢山摘もうね!」
「あい!」
馬をおりる。苺狩りだ!
「リリアス殿下、見事ですね!」
「シェフ、そうだね! 凄いや!」
シェフが俺の横で赤く色づいた苺を見て感心している。
「これは苺のケーキを作らなければ!」
「アハハハ、シェフ楽しみだ!」
「シェフ、ケーキ!?」
「はい、アウル様。苺のケーキは好きですか?」
「大しゅき!」
「それは、張り切って作らなければなりませんね!」
「ひゃぁ〜! ケーキ!」
「アウル、良かったな!」
「あい! とうしゃま!」
「アース、アーシャを頼むよ」
「リリ殿下、了解だ! アーシャ、苺だ!苺ケーキだ!」
「アース様、ケーキはまだです」
「アハハハ、アース馬鹿だな〜!」
「レイ、煩いよ」
マジ、これじゃあ遠足だ……まあ、いいけど。それはそれで楽しい。
みんな小さなカゴをもらって、苺を摘む。
真っ赤に大きく実った苺。ツヤツヤしている。1個ずつ、指で摘む。
苺狩りかぁ。前世で息子が保育園の時に行ったなぁ。懐かしいな。
「シェフ、食べてもいい?」
「殿下、少しなら良いのじゃないですか?」
「やった!」
特に赤いのを選んで食べてみる。
「んん〜! 甘〜い!」
「あぁー! リリしゃま食べた! 父しゃま! ボキュもいい!?」
「ああ、アウル、少しだけな」
「あい!」
アウルースが小さい指で、真っ赤な苺を摘む。大きな口を開けてパクッと食べた。
「んん〜!! 美味しい!! 甘いでしゅ!」
「アハハハ、アウル良かったな!」
「あい!」
いいなぁ〜! 長閑で、平和で。ポカポカしていて。良いなぁ〜。
「殿下、どうされました?」
「オク、こんな環境で育つのも良いなぁ、て思ったんだ。親子の距離が近いのは良い事だね」
「殿下」
「ああ、勘違いしないで。ボクはボクであの両親で幸せだよ」
「殿下、そうですか。良かったです」
「うん。オクもリュカもいて幸せだよ。あ! アウル! お口の周りが真っ赤だ!」
「ふぇッ!」
アウルースは、見つかった!! とばかりに両手で口を隠す。
「こら、アウル。どんだけ食べたんだ!?」
「エヘヘへ」
「あの笑い方、殿下そっくりですね」
「え? リュカそう?」
「はい……ん! 甘い!」
リュカが苺をパクッと食べた。
「ねー、めちゃ美味しい!」
「やだ! アース様! 食べてばっかり!」
アースが両手に苺を持って頬張っていた。
「アース、お前何してんだよ!」
「レイ、食べてみなって! 超甘いぞ!」
「アハハハ! アース幾つ食べたんだよ!」
「リリ殿下、めちゃうま!」
「あんまり食べてしまったら苺ケーキ作れませんよー」
お、シェフの神の一言だ。
「それは駄目だ。マジ、ちゃんとしよ」
ブハハハ! アースは本当に単純だ。アンシャーリはしっかりしているから、どっちが子供か分からんぞ。いや、どっちも子供じゃん。
「殿下、ケーキ以外に何かありませんか?」
シェフが俺の隣で苺を摘みながら聞いてきた。
「シェフ、ケーキ以外かぁ……ボクは苺のショートケーキも良いけど、ミルフィーユが好きだなぁ。んー、後は苺ジャム位しか思いつかないなぁ」
「なるほど、ミルフィーユにジャムですか。いいですね」
「苺ジャムはパンにぬって食べたら美味しいよねー」
「帝都ではなかなか手に入りませんからね」
「ねー。苺自体がそんなにないもんね」
「そうなんですか? じゃあ、沢山持って帰って下さい」
「え!? アスラ殿、いいんですか!?」
「ええ、もちろんです!」
「殿下、お疲れですか?」
「アスラ殿。いえ、以前来た時は秋でしたか。景色が全然違いますね」
「あの時は殿下に山の恵みを教えて頂いて」
「そうでしたね」
苺狩りをして、シェフが持って来た軽食で食事を済ませた。アウルースはアルコースに抱っこされておネムだ。俺は少し山に入って景色を見ていた。
「あれ? アスラ殿、あれは……竹ですか?」
山の少し入ったところに、竹の様な木が見える。
「ええ。あそこにだけあるんですよ。初代が植えたらしいのですが」
「なるほど……少し行ってみても?」
「ええ、構いませんよ」
あれだよ。春だろ? 竹だろ? もうこの流れだと絶対あるだろ?
「やっぱりだ!」
「殿下?」
「アスラ殿、何か掘る物はありませんか?」
「ちょっと待って下さい」
アスラールが、戻って行く。暫くして鍬の様な物を持って戻ってきた。
「殿下、どこを掘りますか!?」
もう、アスラールも何かあると分かっているな。慣れたもんだ。
「あそこ!」
俺はそこを少し手で掘り返す。
「ほら! 芽が出てます!」
「これは……!? とにかく掘りますね!」
「土の中の方が大きいので、気をつけて下さい」
「ええ!」
アスラールの側近のセインも鍬を持ってやってきた。
「リリアス殿下、どの様な物ですか!?」
「これ、こんな感じで少しだけ頭が出てるんです!」
「了解です!」
シェフもやってきた。
「殿下! 私も!」
「アハハハ。シェフ、こんな芽が出てるから気をつけて見て」
「殿下、これはどうしたら良いのですか?」
アスラールがどう採れば良いのか聞いてきた。
「アスラ殿、その根元のところでザクッと」
「こうですか?」
「そうそう。立派な筍だ!」
「リリアス殿下、筍と言うのですか?」
「うん! コレ、掘りたてだからこのまま焼いてみますか?」
「え!? このまま焼くんですか!?」
「うん。掘りたてだからアクもないし。ちょっと食べてみたくないですか?」