255ー保護者同伴?
「……んん〜……」
「殿下、お目覚めですか?」
「あ、ニル。ボク寝てた?」
目が覚めたらベッドだった。久しぶりだな、これ。
俺はよっこいしょとベッドをおりてソファーに座る。
「はい。久々にオクソール様が」
「ああ、疲れちゃって。りんごジュースちょうだい」
「はい。珍しいですね。そんなにお疲れになるのは」
「うん。初めて海に潜ったんだ!」
「海にですか!? 殿下は泳げましたか!?」
りんごジュースを置きながらニルが聞いてきた。
「泳げる訳ないじゃん。オクに連れてってもらったの。コクン……良い経験になった」
「そうですか。何事もなくて良かったです。ああ、殿下。アウル様がお待ちかねですよ」
「アハハハ、アウルが?」
「はい。オクソール様に抱かれて戻ってらしたので、殿下が倒れられたのだと勘違いされて」
「あらら……」
俺は疲れて寝ているだけだと、クーファルやオクソールが説明したそうだ。
だがアウルースは、そんなになるまで何をさせたんだ! と、怒ったらしい。
あの子はもう何なんだろう。まだ2歳なのに、賢い子だ。
クーファルは辺境伯にブルーホールの説明をしてくれていた。夕食にニルズが捕りたての魚を持ってきてくれるそうだ。夕食を食べたらクーファルは城に戻る。
いや、クーファル。マジでいてほしいよ。頼りになる兄だ。
「リリしゃまー!!」
アウルースがポテポテと走ってくる。
「アウル、ごめんね。心配かけちゃった」
俺はアウルースの待つ応接室に来ている。
「リリしゃま、平気れしゅか!? いたいいたいないれしゅか!? お熱ないれしゅか!?」
アウルースが心配そうに、俺の身体のあちこちをペタペタと触る。
俺はソファーに座り、アウルースを自分の横に座らせる。
「アハハ、アウル大丈夫だよ。寝ていただけだから」
「リリしゃま、よかったれしゅ」
「あー! もう! アウル可愛い! ありがとう!」
「キャハハハ! リリしゃまー!」
俺は、アウルースを抱きしめる。可愛いぜ!
何度も言うが、俺は決してショタコンじゃあない。
「フィオン、これは何だ?」
「クーファル兄上、あなたの弟です」
「いや、一人はフィオンの息子だろう?」
「もう、二人は毎日あれです」
「フィオンの息子は、リリが大好きらしいね。私はさっきアウルに叱られたよ」
「リリには何かあるのでしょうか?」
「ん? フィオン、どうした?」
「本当に、こんなにリリに懐くとは思わなかったのです。仲良くなるだろうとは思ってましたが」
「そうだね。もしかしたら、何かあるのかもね。リリが好かれるのは子供に限った事じゃないだろう?」
「そうですわね」
「ああ。王国でもそうだったよ。リリを崇拝する者もいた程だよ」
「兄上、その話を聞いた時は心臓が止まるかと思ったのを覚えてますわ。
リリを狙っている王国にわざわざ連れて行くなんて無謀な事を! 無事だったから良かったものの……本当に父上は何を考えておられるのかしら!」
あーあ、クーファル。駄目だよ、王国に行った事を言ったらさ。知らないぞ、俺は。
「リリしゃま、海に行ったれしゅか?」
アウルースが俺の横を陣取っている。ちょこんと座っていて、まだ足が下につかない。
「そうだよ。オクに連れてもらって潜ったんだ」
「もぐりゅ?」
「そう。海の中にブクブクって」
「えぇッ!! リリしゃま平気でしゅか!?」
「アハハ、大丈夫。オクは凄いからね」
「おぉー!! オクはしゅごい!」
「そう。オクは凄いんだ」
「クーファル兄上」
俺とアウルースの話を聞いていたフィオンの雲行きがまた怪しくなってきた。
「ん? 何かな? フィオン」
「リリは海に潜ったのですか? リリは泳げませんよね?」
「あ……いや。大丈夫、オクソールと一緒だから。ね、フィオン」
「兄上! もう、リリに危険な事はさせないで下さい!」
それからクーファルはフィオンとアウルースに責められまくった。
嬉しいね。そんなに俺の事を思ってくれて。フィオン親子は本当に有難い。
やっぱ、アウルースはフィオンの血を継いでいるだけの事があるわ。
「リリ、兄さまはもう疲れたよ。こんなに親子で責められるとはね」
「クーファル兄さま、すみません。アウルはさすがフィオン姉さまの子ですね」
「ああ、まったくだ。そっくりだな」
それから、ニルズが持ってきてくれた魚介類をたらふく食べて、クーファルとソールは城に帰って行った。
クーファル、マジで助かったよ。有難う。
「リリアス殿下、今日は昼から裏山に行きませんか?」
「アスラ殿、山ですか?」
翌日、朝食を食べているとアスラールが誘ってくれた。
「ええ。以前リリアス殿下が栗と松茸を見つけられた山です。今の季節は苺ができていますよ」
「おぉー、苺ですか!? アスラ殿。また連れて行ってもらえますか?」
「ええ! もちろんです!」
「れしゅ! ボキュもれしゅ!」
「あー、アスラ殿。どうしましょう?」
「ああ、父親に面倒見てもらいましょう」
「じゃあ、アーシャも行きましょう!」
「え? アーシャもですか?」
「もちろんです! アウルだけなんて不公平は駄目です。アーシャも父親のアスラ殿が見て下さい。ボクはオクに乗せてもらいますよ」
「リリアス殿下、有難うございます」
「アーシャも! 一緒!」
「そうだよ、アーシャも一緒に行こう」
「あい!」
「いやッ!」
「アウル、無理言うな」
「いやッ! リリしゃまと一緒!」
「アウル、父様と一緒に乗ろう」
「いぃやッ!!」
アウルースが俺と一緒の馬に乗ると、言い出した。お顔を真っ赤にして、ブンブン横に振ってアルコースの馬は嫌だと言っている。
「オク、どうする?」
「殿下、大丈夫ですよ? 一緒に乗りましょう」
「本当に?」
「ええ。ただし、殿下。しっかりアウル様を支えて下さい」
「うん、分かった。じゃあ、アウル。ボクと一緒にオクに乗せてもらおう」
「リリしゃま!」
「でもね、約束してほしい」
「なんでしゅか?」
「ジッとしている事。危ないからね」
「あい!」
アウルースは元気良く手をあげる。
「帰りはちゃんと父様の馬に乗る事」
「えぇー…… 」
顔だけでなく身体全部で、嫌だと訴えている。吹き出してしまいそうだ。表情が豊かだ。
「約束出来ないなら、アウルは一人でお留守番だ」
「いやれしゅ!」
アハハ、アウルースは両手を握り締めてるぜ。
「じゃあ、約束できる? お馬さんもね、アウルとボクと二人も乗せたら疲れるんだ。だから、帰りは父様の馬ね」
「あい……仕方ないれしゅ。帰りは父しゃまの馬にのりましゅ」
「よし! アウルは良い子だ」
「殿下、申し訳ありません」
「アルコース殿、大丈夫ですよ」
そうして、俺とアウルースはオクソールに、レイはリュカに、アースはシェフに、ラルクはアスラールの側近セインに、アンシャーリはアスラールに、其々馬に乗って出発する事になった。
なんだか、子供が多いな。保護者同伴の遠足かよ。