253ー潜るぞ!
今日も遅くなってしまいましたぁ!
申し訳ないです。
「クーファル殿下、泳ぎは?」
「ああ、大丈夫だ」
なんだよ! クーファルだけズルいじゃん! 俺だって潜りたい!
「兄さま! ボクも!」
「リリは泳げたか?」
「いいえ、泳いだ事ないです。湖に落ちてからは、水場には近寄らせてもらえなかったですから」
「そうだよな。オクソール、お前泳ぎは?」
「はい、獣人なので得意ではありませんが、泳げます」
「クーファル殿下! リリ殿下が行くなら俺も行きます!」
「リュカ、泳げるか?」
「はい! オクソール様と同じ理由で得意ではありませんが、泳げます。あの湖の底まで潜れます!」
あの湖とは、俺が3歳の時に落ちた湖だな。リュカのいた村からは近い。
「そうか。んー、リリはでも…… 」
「兄さま、何ですか?」
「泳げないだろう?」
そうだ。俺、泳げないんだった……
今更、ガビーン! だ。
「殿下、私が引っ張って潜りましょうか?」
「オクソール、出来るのか?」
「はい。リリアス殿下お一人位なら」
「俺も! 俺も側で補助します!」
「んー、ニディどう思う?」
「え!? クーファル殿下、俺ですか!?」
「ああ、だって実際に潜ったのはニディだけなんだろう?」
「え!? お、親父! どうしよう!?」
「お前が思う事を言えば良いんだ。この方達はそう言う方だ。変に構なくていい」
「うん。ニディ、そうだよ」
「リリアス殿下。じ、じゃあ……あの……深さはありますが、海流がある訳ではないんです。むしろ、ありません。ですから、補助さえしっかりすれば大丈夫だと思います」
「そうか、流れがないのか。それはまた、どうしてだ? リリ」
「兄さま、ブルーホールですから。そこだけ落ち込んで深くなっているので、底に行けば行く程流れもないのでしょう」
「なるほど。しかし、ブルーホールだけでも珍しいのに、そこから魔石とはね。この領地は一体どうなっているんだ」
「兄さま、大陸の端ですから」
「ああ、まあな」
「クーファル殿下、見えてきましたよ! あれです!」
ニディが指差す。
珊瑚礁が白っぽく丸く円の様になっているのが見えてきた。海のブルーが円の中だけ濃い色になっている。知識がなければ、とても自然に出来た物とは思えないだろう。
「リリ、凄いね。本当にブルーホールだ」
「はい、兄さま。こんなに海の色がハッキリと違うとは思いませんでした」
「ああ。素晴らしい。よく見つけたな」
「シェフが気付いたんです」
「そうか、シェフが。シェフも居たら潜りたがっただろうね」
今はシェフはお留守番だ。シェフのお仕事があるからな。夕食の準備をしたいのだそうだ。
残念がっていたが、自分で残ると言ってきた。シェフは、自分はリリアス殿下の食事を作るのが1番ですから。と、言いながら肩を落としていたけどな。苦渋の決断みたいにさ。大袈裟な。シェフも潜ってみたかったんだろうね。
クーファルの側近ソールもお留守番だ。オクソールもリュカもいるからいいと、クーファルに言われていた。せっかく来たのに。
ユキとラルクも、アーシャとアースとレイに捕まってしまいお留守番。
ブルーホールの真ん中に船を進ませる。
「リリ、まるで吸い込まれそうだな」
「はい、兄さま」
「1番底に横穴があるのではなくて、途中にあるんです。そこも海流はなさそうでした」
ニディが説明する。
「横穴か……外海に繋がっているかも知れないね。リリ、船からでも鑑定をしたかな?」
「あ、いえ。忘れてました」
「リリ、鑑定しながら移動できるのかな?」
「はい、兄さま」
「よし! 一度リリも一緒に潜ってみよう。オクソール、無理そうなら直ぐに上がってくれ」
「はい、殿下」
やったぜ! 俺も潜れる! 超嬉しい!
この世界、水着やウェットスーツなんて物はない。だから皆下着姿だ。ニディに例の石をもらう。
「これを咥えるのか?」
「はい。クーファル殿下。そしたら、息が出来ます」
「どれ位の時間大丈夫なんだ?」
「分かりません。ですが、何時間でも。それこそ、コレ1個を何十年と使います」
「そうなのか!? 凄いな」
「殿下、絶対に私を離さないで下さい」
「うん、オク。分かった!」
「殿下、俺も絶対に側にいますから」
「うん。オク、リュカお願いね」
俺とオクソールは万が一、流されたり等で離れたりしてしまう場合を考えて、腰にロープをくくりつけて繋げる。
「皆さん、いいですか? ついてきて下さい」
「ニディ、頼んだぞ。俺は船からずっと見ているからな! もしヤバくなったらそのまま真っ直ぐに上に上がってくれ!」
ニルズが船で番をしてくれる。
さあ、ブルーホールに潜るぞ!
――ザバーン!!
皆、ニディについて海に飛び込んだ。
オクソールにしっかり抱えられて、海底を目指す。深いブルーに吸い込まれる様だ。どんどん陽が届かなくなっていく。静かな世界だ。
俺は体をオクソールに預け、オクソールの体に掴まりながら、海面を振り返る。太陽の陽がキラキラしている。
幻想的だ。こんな世界、俺は知らない。
この小さい体は大丈夫だろうか? この世界の俺は、前世では想像もできない経験をしている。前世で平和に医者をしていたら、到底出来ないだろう経験をだ。
ずっと海底を目指して潜る。本当に息が苦しくない。この石はなんなんだ? 不思議だ。まあ、魔法のある世界だ。俺にとっては、不思議だらけだ。
暫く潜ると、陽の光があまり届かなくなるのでライトで光を出す。海底が見えてきた。海底に到着し、俺はクーファルに言われた通り、鑑定をする。其々の魔石がどの魔物の物なのか分かる。
珊瑚もあった。宝石珊瑚と呼ばれるものだ。
よく見ると周りの岩盤も詳しく見える。地層になっている。かなり、古い年代のものだ。このブルーホールは一体いつできたのか。ああ、そうか。そう言う事か。
オクソールも精霊の眼を使っているのだろう。魔石を手に取って見たりしている。
そして、ニディが上の横穴を指す。
あー、あそこに横穴があるのか。クーファルが頷くと、ニディが横穴を目指して少し浮上する。
海底から1/3位浮上したところに、大きな横穴があった。先頭のニディが入って行く。
俺はずっと鑑定をしている。
ここはやはり鍾乳洞になっていた。気の遠くなる様な時間をかけて、こうなったんだ。ブルーホールだけでも、想像できない程の時間が掛かってできている。
その中にある鍾乳洞だ。しっかり鍾乳石も残っている。
全くと言って良い位、流れがない。少し横穴に入ると、もう陽が届かなくて真っ暗になっていく。
俺は前後と真ん中位に、数個ライトを出す。前は大きめに出した。ライトで照らし出された鍾乳洞は幻想的で、何億年もの時間が作り出したファンタジーだ。
この鍾乳洞の壁…… オクソールを見ると頷いた。オクソールにも見えている。
どんどん、奥へと進む。微かに陽が差し込んできた。どこかに出るらしい。
途中に横穴はなかった。これ1本か。