25ーボクはリリ
「にーさま」
「リリ、どうした?」
「ボクはリュカが次期副長だと知りませんでした。そんな大事な立場の者を預かることはできません」
「殿下!」
「リュカ、村の大事な次期副長なんでしょ? そんな立場にいるリュカがボクの側にいたりゃダメだよ。リュカは村の為にがんばりゃなきゃ」
「どうしてですか? 殿下は命を狙われるからですか?」
おい、何で知ってるんだ? オクソールを見る。
「殿下に仕えたいと言ってきたので、全て話しました」
おいおい、お前さぁ…… ま、でもその方が諦めてくれるか。
「そう。オクが話した通りだよ」
「殿下、同じです」
「リュカ、何が?」
「私も希少種の狼獣人で純血種なので狙われます。同じです。それに、長の父にはもう話ました。了承を得ています」
リュカの父よ、何故了承した? ダメだろ、普通はさ。
「でも…… ボクの側にいたりゃ危ないよ?」
「私はオクソール様と同じ獣人です。身体能力は人間には負けません。オクソール様の様に、敵を攻撃する事は出来ないかも知れません。でも殿下を抱えて逃げる事は出来ます」
「ボクは、ボクの為にだりぇかが傷付くのはとってもいやなの」
「では、私も剣を、体術を学びます。少しは出来ますが、もっと強くなる様に努力します」
「リュカ…… 」
「少しいいか?」
兄のフレイが割って入ってきた。
「君は、リリに助けられたからと言った」
「はい。命を助けて頂きました」
「確かに最初に君の命を助けたのはリリだろう。しかし、助けたと言ったら此処にいるオクソールや、兵達もそうじゃないか? 医師のレピオスだってそうだ。なのに、どうしてリリなんだ?」
ま、大きい意味ではそうなるな。
「それは…… 」
「リリが小さいからか? 頼りなく見えたか? それとも取り入りやすく見えたか?」
「その様な事は決して!」
「いいか? リリは皇子だ。君が、気安く話して良い立場の者じゃない。はいそうですかと、側に仕えられるものでもない。帝国にとっては無くてはならない皇子だ。両親や私達兄弟も、今リリに仕えてくれている皆も、リリの事はとても大切に思っている。君も知っている様にリリは狙われる。こんな小さいのに辛い思いを沢山してきた。君は、そんなリリをまた悲しませる気なのか?」
「とんでもございません!」
「此処にいるオクソールもそうだが、侍女のニルだって何度も危険な目に合っている。そんな中でリリを無事に救い出し自分自身も無事でないと、リリは悲しむ。自分の為に誰かが傷付くとリリは自分を責める。お前にはその覚悟があるのか?」
「……覚悟と言われると…… 」
「では、止めておきなさい。リリと君の為だ」
「覚悟と言う程、大きいものはないかも知れません。しかし……私達はひっそりと隠れて生きてきました。それでも全くトラブルが無かった訳ではありません。狼獣人だから希少種だからと、人間は私たちを自分のものにしたがります。小さい頃から、人間は怖いものだ。近寄ってはいけない。狼獣人だとバレてはいけない。そう教えられてきました。今回も、やはり人間は許せないと思いました」
そりゃそうだろ。欲深い人間が完全に悪いわ。
「私は命辛々逃げて、意識を失う寸前に殿下の声を聞きました。怪我している、助けなきゃダメだと。殿下のお声です」
普通だろ。怪我人を放ってはおけないだろ。
「目が覚めて殿下と初めてお話しした時に、殿下は先ず私の名前を聞かれたのです。自分はリリだ、君の名前を教えてほしいと」
「それが、そんなに大事なのか?」
「フレイ殿下、人間から先に名前を聞かれたのは初めてです」
……は? そうなのか?
「皆、狼獣人なの? その髪の色は? と先ず聞いてきます」
「あー、そうなのか」
「はい。私は狼獣人である前に、私は私です。そう見て下さったのは殿下が初めてです。言葉が出ませんでした。それに、ご自分の危険を顧みず助けに駆けつけて下さった。それでは駄目でしょうか? 私が殿下のお側にいるには足りませんか? 何をすれば良いでしょう? 努力します。殿下のお側にいて恥ずかしくない様に努力致します。教えて頂けませんか? お願いします」
そう言ってリュカは頭を下げた。
「あー、リリ。無理だな」
兄よ。早々に諦めるなよ。
「にーさま」
「リリ、兎に角暫くの間、オクソールに預けよう。それに耐えられたらセティにも預けてみよう」
教育する、て事か。
「にーさま、セティですか?」
「ああ、セティは最強だからな、適任だ。それにセティに預けて合格したら父上も納得するだろう」