249ー裏庭
「リリしゃまー!!」
邸に戻ると、アウルースが待っていた。
「アウル、ただいまー!」
アウルースが抱きついてきたので、俺は抱きとめる。
俺、10歳児だけど、2歳児を抱っこするのはちょっと怖い。だから抱きとめるだけ。
「リリしゃま! 待ってたの!」
「そう。お利口にしてた? 母さまを困らせなかった?」
「うん! お利口してた!」
「リリ、お帰りなさい」
「フィオン姉さま、ただいま!」
「リリ、兄上はどうしたの?」
「あー、食べ過ぎですよ」
「まあ!」
「途中でデュークが止めてたんですけどね。きかなくて」
フレイは案の定食べ過ぎで、腹を抱えている。痛くはないらしい。苦しいんだと。
そりゃ、凄い食べてたからな。
「姉さま、実は……」
「リリ、どうしたの?」
「明日も行く事になってしまって……」
「えぇッ!! リリしゃま! 明日も!?」
アウルースがこの世の終わりの様な顔をして驚いている。そんなに、ショックを受けなくても……俺、めちゃ罪悪感だよ。
「うん。アウル、ごめんね。でも、今日も早く帰ってきたでしょ? 明日も早く帰ってくるから。アウルがお昼寝してる間に帰ってくるよ」
「うぅ……リリしゃま……帰ってくりゅ?」
「うん! もちろん!」
「じゃあ、帰ってきたりゃ遊んでくりぇりゅ?」
「うん、約束だ!」
「じゃあ、待ってりゅ」
うぅ……アウルース。ごめんよぉ。罪悪感に潰されそうだぜ。
「アウル、今日はもうお昼寝した?」
「うん。したれしゅ」
「じゃあ、これからボクとユキと遊ぼう!」
「リリしゃま!」
目をキラキラさせてるよ。可愛いなぁ。
俺はアウルースと邸の裏に来ている。
ユキが横にいる。レイとアース、リュカとラルクも一緒だ。
「リリしゃま、怖くない?」
「怖くないよ。近寄り過ぎなければ大丈夫」
「マジかよ! 超デカイ……!」
「アース、本当に……!」
「殿下、コレ魔物ですよね?」
「ラルク、そうだよ。ここでは飼ってるんだ」
俺達は鶏舎に来ている。と、言っても鶏舎にいるのは、ホロホロヤケイとレグコッコ。どちらも歴とした魔物だ。
魔物を見るのが初めてのアース、レイ、ラルクは驚いている。
鶏舎の中から、ヒョコッとシェフが顔を出した。
「おや、殿下。見学ですか?」
「うん。アウルと遊んでるの」
「シ、シェフ! あぶにゃい!!」
アウルースが驚いてアタフタしている。
「ハハハ、アウル大丈夫だよ。シェフは凄く強いから」
「ひょ〜! シェフ、強いでしゅか!?」
「そうなんだよ。リュカより強いからね」
「ひ、ひゃ〜! リュカより!?」
「アハハハ、そうですよ。シェフは強いんです」
リュカ、笑ってる場合かなぁ?
「シェフ、また卵?」
「はい、殿下。この卵は絶品ですからね。また、プリンでも作りますよ」
「わ、プリン! 楽しみ! アウルはプリン好き?」
「大好きれしゅ!」
「アハハハ、そうか! シェフのプリンも美味しいよ!」
「殿下、魔物の卵ですか?」
「うん。そうだよ。リュカ、説明して」
「あのですね、茶色で大きい方がホロホロヤケイで、肉が美味いです。
白くて一回り小さいのが、レグコッコで、卵が美味いです」
「ほぉ〜! 知りませんでした!」
「ラルク殿、そうですか。美味いですから、楽しみにしていて下さい」
ではッ! と、シェフは戻って行った。さっき海に潜っていたかと思ったら。タフだなぁ。
「リリ、我もそのプリンとやらを食べたい」
「うん、ユキ。シェフに作ってもらおう」
ユキさん、食いしん坊だもんね。
「殿下、マジでシェフ大丈夫なんですか?」
「ああ、アース。シェフなら威圧一発で平気だよ。それで駄目なら蹴り入れるらしいよ」
「威圧……! 蹴り!?」
おや? 驚いてるか? シェフは楽勝だぞ?
「我も威圧で一発だ。あれは美味い」
「ユキ、食べてたの!?」
「まあ、タマにな」
ユキさん野生的だね。まあ、野生なんだけどさ。
「アース、レイ、ラルク。向こうにも魔物がいるんだよ」
俺はアウルースと手を繋いで移動する。
「リリしゃま、あっちはモーモーしゃんでしゅ!」
「よく知ってるねー!」
そうだ、今度は牛舎に来ている。こっちも超デカイ魔物だ。大きい方は2メートルはある。
「リュカ、お願い」
「はい。赤褐色と黒褐色の大きい方がオータウロスと言って肉が美味いです。
白と黒のブチの少し小さい方がミルタウロスと言ってミルク用ですね」
「はぁ〜! デカイ!」
「殿下、辺境伯領はこれが普通ですか!?」
「ああ、らしいよ。でも、ミルクも美味しいんだよ」
「ほぉ〜……!」
あらら、ラルクまでビックリか?
「モーモーしゃん! 蹴られりゅから近くはだめ!」
「おー、アウル偉いねー。そうだよ、危ないから近寄ったら駄目だよ」
「あい!」
「蹴られる!?」
「そうですよ、アース様。シェフみたいに威圧できないなら、近寄ったら駄目です。蹴られますよ」
「リュカさん、マジ!?」
「マジです。あいつら魔物ですからね。人間を舐めてるんですよ」
「……!!」
「今は我がいるから大丈夫だぞ?」
ユキは神獣だから? あれ? なんでみんな固まってんの?
「殿下、そりゃあ魔物を見る事がありませんから」
「あー、そうだった」
「リリしゃま、魔物いないれしゅか?」
「ん? ボクが住んでるところにかな?」
「あい」
「いないよ。だからね、皆んな珍しいんだ」
「ほぇ〜、いないれしゅか」
「そっか、アウルは魔物がいて当たり前の所に生まれたからなぁ」
「あい? リリしゃま?」
「あー、アウルが住んでるところには魔物がいるから、魔物がいない所を知らないんだよね?」
「あい。しりゃないれしゅ」
「でもね。魔物はいるけど、ここは良い所だよ。ボクは大好きだ」
「リリしゃま、好きでしゅか?」
「うん。好きだよ。アウルは好き?」
「あい。好きでしゅ。お空きれいでしゅ。海も川も、畑もみんなきれいでしゅ。あと、あと、おいしいでしゅ!」
「アハハハ! そっか! アウルは賢いなぁ!」
「良い子だ」
ユキ、そうだね。
偉いよ。よく分かってるよ。
空に海に川に畑か。アウルースは大事な事をもう分かってるんだな。
まだ2歳なのにさ! 本当、良い子だ!




