247ー釣り
「ニルズさん、どこまで出るんですか?」
「ああ、もう少し行ったら良い漁場があるんだ」
「漁場て何だ?」
「漁場てのはだな……」
アースとレイが、ニルズにくっついてあれこれ質問責めにしていたよ。
まあ、船酔いしてなくて良かったよ。
ユキさんは船も平気? お昼寝中?
「リリアス殿下、フレイ殿下が」
「え? デューク、兄さまがどうしたの?」
デュークに言われてフレイを見る。
あらら。マジか。意外な人が酔ったな。
「リリ……まだか?」
「もう少しだと思いますよ。でも、兄さま。船が止まっても、揺れは無くなりませんよ。マシにはなりますが」
「そうなのか?」
フレイが、船酔いでグロッキー気味だ。
「あー、船酔いしましたか。じゃあ、これを舐めて下さい」
ニルズの息子のニディが、飴玉を出してきた。
ニルズとテティの息子、ニディ。長男で漁師を継いでいるそうだ。
赤茶のウェーブかかった短髪に茶色の瞳。どちらかと言うと、テティに似ている。
「ニディ、飴?」
「はい、殿下。飴なんですが、薬師が開発した船酔いを治す飴です。気分もスッキリしますよ」
「兄さま、飴ですって」
「ああ、リリすまん」
フレイが口に入れる。
「噛まないで舐めて下さい。少ししたら楽になりますよ」
「ニディ、有難う」
「いえ、リリアス殿下。初めての人は酔いやすいですからね」
デュークが、フレイの背中をさすっている。
「兄さまが船酔いなんて、意外です」
「俺だって意外だよ」
「フレイ殿下、少し大人しくされる方が宜しいかと」
「ああ、デューク。そうする」
手の掛かる長男だ。
漁場に着いて、皆並んで釣り糸を垂れる。フレイも飴のおかげで、船酔いが治ったらしい。
俺とラルクはニルズの横で、釣り糸を垂れる。
「ねえ、おっちゃん」
「なんだ? リリ殿下」
「まだ?」
「まだだよ。さっき垂らしたばっかじゃねーか」
「そぅ?」
「ああ、そうだ。てか、5年前も同じ様な会話しなかったか?」
「そう? 気のせいだよ」
「そうか?」
「うん。待てない」
「いや、待とうぜ」
「リリアス殿下、落ち着いて待ちましょう」
ラルクにまで言われた。
「うおッ!! デューク! ニディ! コレどーすんだ!?」
「あ……兄さまがかかった」
「みたいだな」
「ボク、まだ?」
「まだだな」
「まだですね」
フレイとデュークがニディに教えてもらいながら、魚を引き上げている。
「シェフ凄い! 何でですか!?」
「ハッハッハッ! リュカ! 私に掛かればこんなもんです!」
「あ……シェフまた大漁だ」
「みたいだな」
「ボク、まだ?」
「まだだな」
「シェフ、凄い」
リュカがシェフの釣った魚を見て驚いている。ラルクまでビックリしている。
「アース! これ! どうしたらいいんだ!?」
「いや、レイ! 自分で何とかしろよ! 俺だって引いてるんだよ!」
「あ……アースとレイもかかった」
「みたいだな」
「ボク、まだ?」
「まだだ……じゃねーよ! リリ殿下! 何ボーッとしてんだよ! 引いてるじゃねーか!!」
「えッ!? えッ!? 殿下! どうします!?」
「え!? おっちゃん、マジ!?」
「マジだ! マジ!! こりゃ、デカイぞ!!」
「ええーー!!」
「殿下! 早く引かないと!」
ニルズとラルクが大騒ぎだ。
「キャハハハ! 見て見てー!」
ドドン! と、釣り上げた魚を見せる。
ニルズが、だけどな。俺は持てない。
2mはありそうな、立派なマグロだ! こっちの世界では、ツナスだったか? 釣り上げるのも必死だった。
ニルズが、だけどな。てか、俺よりデカイ。
「殿下、デカイですね!」
「アスラ殿! でしょ? でしょー!」
「リリ殿下、スゲー!」
「へへん! アース、小さいのでも残念じゃないよ?」
「あ、なんかムカつく」
「アース、僕もだ」
「フヒャヒャヒャ! アースもレイも小さいお魚だもんね!」
「フッフッフッ。殿下、まだまだですな!」
「え? シェフ?」
「どーですか!!」
「げッ!!」
シェフが釣った魚を持ち上げている。なんと、俺よりデカイ!! しかも2匹だ。
2mを超しているだろうツナスを両手で軽く持ち上げている。
「またシェフに負けた!」
「さて殿下、今日はどの魚を捌きましょうか?」
シェフ、切り替え早いな。もう普通に捌くとか言ってるし。
「シェフ、おにぎりとミソスープは持ってきた?」
「はい。持って来ましたよ」
「んー、どうしよっか?」
「とりあえず、ツナスは捌きましょう」
「うん。あと……あ。この左ロンブスにしよう」
「はい。了解です」
シェフがさっさとツナスと左ロンブスを持って捌きに掛かった。
左ロンブス、ヒラメだな。ちなみに右ロンブスがカレイだ。
「殿下、捌くとは?」
「ラルク、魚をね3枚におろすの。で、食べるんだよ」
「リリ、生でか?」
側にいたフレイが聞いてきた。生で食べる習慣がないからな。
「はい、兄さま。新鮮だから美味しいですよ!」
「生で食べた事ないな」
「フレイ殿下、帝都では魚自体があまりありませんから」
「デューク、そうだね。転移門が使える様になって、少しは流通する様になったけど。まだ帝都民は慣れないから、あまり食べられてないね」
俺が5年前に転移門を修復して、前よりは手軽に辺境伯領のものが手に入る様になった。でも、魚はなかなか流通しない。なんでかな? 食べ慣れてないからか?
「リリ殿下、本当に生で食べんの?」
「うん、アース。美味しいよ」
「楽しみだ」
「レイ、本当? 抵抗あるでしょ?」
「ありますが、リリ殿下が美味しいと言うのですから。美味しいでしょ?」
「うん。美味しいよ!」
「しかし、凄いな。シェフのあれ、料理する包丁じゃないぞ?」
フレイが感心して見ている。
シェフが普通の包丁の何倍もの大きさの包丁で、ツナスをザックリと捌いている。
「兄さま、ツナスは大きいですから。普通の包丁じゃあ捌けないんですよ」
「そうなのか。しかし、手際の良い」
「はい。シェフは力も技術もありますから」
アッと言う間に、シェフはマグロを捌いた。
「さあ、殿下。どうぞ」
「シェフ、有難う。いただきまーす!」
チョンチョンと醤油をつけて……こっちでは、ソイか。
「ハム……ん〜! 美味しい! めちゃ脂がのってる!」
「リリ、美味いのか? そうか?」
「はい、兄さま。このソイを少しつけて食べて下さい。ほら、みんなも」
もう以前食べて知っている、オクソールとリュカはおにぎり片手にガッツリ食べている。アスラールもだ。
「……! 美味い! リリ、トロけるな!」
「でしょう? 兄さま、おにぎりとミソスープもどうぞ」
アースもレイもラルクも食べだした。
ユキは生のブロックを貰って、がっついている。ワイルドだぜ〜!