246ー出港
「いーやー!! ボキュも行きゅのー!!」
アウルースが駄々をこねている。
「アウル、駄目。まだ小さいんだから、いくらなんでも今日は駄目よ!」
「かあしゃまー! だめはだめー!」
「何言ってんのかしら? もう意味分からないわ。とにかく、駄目です!」
「ゔッ……ゔぇ……ゔわぁ〜ん! あぁーん!!」
あーあ、大泣きしちゃったよ。
想像通りさ。アウルースが一緒に行くと言ってきかなくて、それでもフィオンに駄目だと言われてとうとう大泣きしだした。
でもこればっかりはなぁ。危ないからなぁ。
「リリしゃまー! ボキュだめでしゅかー!? だめー!?」
涙をポロポロ流しながら、今度は俺に訴えに来たよ。もう見てらんないよ。でもな、危ないから駄目なんだ。
俺はしゃがんでアウルースの目線に合わせる。
「アウル、今日は船に乗るから危ないんだ。あのリュカでも転ける位だからね。
もしアウルが転けて、海に落ちちゃったらどうする? ブクブクーッて沈んでしまって、もう母さまや父さまと会えなくなっちゃうよ? もちろんボクともね」
「会えなくでしゅか……グシュ」
「そうだよ。みんなと二度と会えなくなるんだ」
「いやでしゅ! しょれはいやでしゅ!」
「そうでしょ? だからアウル、今日は母さまとお留守番していて? もっとアウルが大きくなったら一緒に行こう」
「リリしゃま……ゔぇ、ひっく……またリリしゃま来てくれましゅか?」
「ああ、もちろんだよ!」
「やくしょく!!」
「ん? ああ、約束か。うん、約束だ。絶対にまた来るよ。アウルに会いに来るよ」
「ゔッ……リリしゃま、やくしょくでしゅ。ゔぇ〜……今日は……ヒック、が、がまんしましゅ。リリしゃま〜! でも一緒したいでしゅ〜!! えぇ〜ん! ゔぇ〜ん!」
「アウル、リリ殿下を困らせたら駄目だ」
アルコース、父親の登場だ。
「殿下、申し訳ありません。アウルの中ではリリアス殿下はヒーローなんです。アウル来なさい。もう泣きやみなさい」
「とうしゃま……ヒック……」
ヨチヨチと歩いてアルコースの腕の中に向かってアウルースは歩く。
アルコースは抱き上げで、背中をトントンとしている。アウルースは泣き疲れたのかウトウトとし出した。
「リリアス殿下を、最初に引っ張って行ったのがあの5本の樹です。アウルはあの樹に花を咲かせた皇子殿下にずっと憧れてお会いしたがってました。
自分も花を咲かせたい。花を咲かせてみんなを守るんだと、よく言ってました」
な、な、なんて健気な事を!!
「リリアス殿下が来られて、アウルは感激したのでしょう。あの皇子殿下だと。リリアス殿下は、ピカピカしていてポカポカだそうです」
「ボクが?」
「はい。昨日寝る前にアウルが言ってました。こんなにピカピカでポカポカな人は初めてだと。もう離れたくないんでしょうね。本当にアウルも頑固で困ったものです」
あ……アウルも、と言ったぜ。「も」てな。フィオン「も」頑固だからな。
「あら、私も頑固だと言われてるみたいだわ」
「頑固じゃないか。アウルはフィオンそっくりだよ」
アルコース、はっきり言っちゃったよ。
「リリアス殿下が大好きなところまで、そっくりだ」
「いやだわ。私こんなに頑固かしら」
「ああ。そうだね」
あれま、なんだかホンワカしてるぞ? 俺達お邪魔じゃね?
「リリアス殿下、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いえ! アルコース殿。小さい子供なんです。迷惑なんて事はありません。このまま元気で素直に育って欲しいですね」
「有難うございます。今のうちにお出掛け下さい。私はアウルを寝かせてきます」
「おっちゃーーん!!」
さてさて、やって来ましたよ! ニルズの待つ港にやって来ました。
フレイもくっついてきたよ。
「おう! リリ殿下!」
「ニルズ、宜しく頼む」
「フ、フレイ殿下! 本当に来たんですか!?」
「いや、来るさ。来ると言っただろう?」
「アハハハ!」
「リリ、なんで笑う?」
「いえ、兄さま。おっちゃん、フレイ兄さまはクーファル兄さまとは全然タイプが違うから。畏まらなくていいよ!」
「リリ殿下、そうかい。ならそうするさ。さ、皆さん船にどうぞ!
ああ、紹介します。俺の息子でニディです。今日は手伝ってもらいます」
「ニディです。いつも親父がお世話になってます」
「フレイだ。今日は宜しく頼む。俺の側近のデュークだ」
「リリアスです。ボクのお友達で、アースにレイです。それから、オクソールとリュカとシェフにラルク。こっちはユキです。宜しく!」
「いや、こちらこそ! 殿下方をお乗せできるなんて光栄です!」
アハハハ、あんま堅苦しくなるなよな。楽にいこうぜ。
「ニルズ、ニディ。今日は宜しく頼むよ」
「ああ、次期様。任せとけ」
アスラールの事、次期様て呼ぶのか。次期辺境伯だからか?
「殿下、ニルズはあの呼び方を止めてくれないんですよ。普通に名前で呼んでくれる様に言っているのですが」
なるほど。しかし、アスラール。5年前とは違う。しっかり次期辺境伯してるぜ。
「じゃあ、ボクも。次期さま!」
「殿下! 止めて下さい! 絶対イヤですよ!」
「アハハハ!」
「で、で、殿下! そんな立ってたら危ないです!」
俺達は船で沖に向かっている。俺が平気で前を見て立っていたら、ラルクが立てないでいる。
「キャハハハ! ラルク、腰が引けてるよー!」
「あー、殿下! 危ないッスよ!」
リュカがスタスタと普通に歩いて来て、俺を支える。
「リュカ! あれ? リュカ、前と違うね?」
「え? 殿下、そうですか?」
「ああ、違う」
「オク、だよねー。前はフラフラして転けまくってたよ」
「そう言えば……そうですか?」
「ああ、全然違うぞ。リュカ、殿下に通してもらったからじゃないか?」
「あー、そうですね! きっとそうだ!」
「リュカさぁ、自分で分かんないの?」
「アハハハ、まあ細かい事はいいッスよ!」
リュカは、ONとOFFと言うのか? 外では言葉使いが変わる、と言うか戻る。俺は気にしないからそのままで良いんだけどね。そうもいかないらしい。
「あれ? アースとレイは?」
あの二人、どこ行った? 絡んでこないな。




