244ーアンシャーリ?
「うわぁ〜ん! あぁ〜ん!」
邸の裏で、アースとレイ、ラルク、ユキと一緒に騎士団と近衛師団、領主隊の対戦を見学していた。
近衛師団団長達の挨拶を受けてオクソールとリュカが騎士団の方に合流した。俺達はそれをぼんやりと見ていた時だ。
邸の中から、劈くような泣き声が……
「え? この泣き声……」
「殿下、アウルース様ですよね?」
「ラルク、だよね? 何で泣いてんの!?」
「あ、殿下。フィオン様ですよ」
邸から、フィオンがアウルースを抱っこしてやって来た。
「リリ! お願い!!」
「姉さま! どうしたんですか!?」
「えぇ〜ん! うわぁ〜ん!」
小さな顔を真っ赤にして、身体を反らせ手足をバタつかせてアウルースが泣き叫んでいる。どうしたんだ!? 何があったんだ!?
「起きたらリリが邸にいないと言って泣き出してしまったのよ」
「えぇー!! アウル! アウル! リリだよ! ここにいるよ!」
「うぇッ! うぇッ! リリしゃま〜!」
フィオンの腕の中から、俺に手を伸ばしてくる。俺はアウルースの手を握る。
「アウル、どうしたの?」
「リリしゃま! いなかったの! しゃがしたのー!」
「アウル、ごめんね。泣かないで」
「リリしゃま! リリしゃま、まだいりゅ?」
「いるよ。まだまだ帰らないよ。沢山一緒に遊ぼう!」
「やった! リリしゃま!」
フィオンの腕の中から、俺に縋り付いてくる。もう何なんだ。可愛すぎるだろ。
「リリ、どうしましょう。これじゃあ、リリが帰った後が大変だわ」
「アハハハ、姉さま。頑張って下さい」
「リリ殿下、えらい懐かれましたね」
「アース、どうしよう……」
「え? 殿下?」
「めちゃ嬉しい!」
「なんですか。はいはい、良かったですね」
やだ、アース。冷めてるね。
「姉さま、ボクがアウルと遊んでますよ」
アウルースが下りて俺と手を繋ぐ。もう涙は止まっている。俺の手を両手で持って満足気だ。
「そう? もうこんなに懐くなんて」
「姉さま、アーシャはどうしてますか?」
「あの子なら……ほら、あそこ」
フィオンが指差した先に、アスラールの側で領主隊達をじっと見ているアンシャーリがいた。
「姉さま、アーシャは領主隊が好きなんですか?」
「リリ、それがね。あの子大きくなったら領主隊に入ると言うのよ」
「ええッ!? 領主隊に!?」
「困ったものだわ」
「どうしてまた……憧れは分かりますが」
「ねぇ、どうしてかしら。カッコよく見えるんでしょうね。じゃあ、リリ。少しアウルをお願いね」
「はい、姉さま」
フィオンは邸に戻って行った。アウルースは俺と手を繋いでいてもうご機嫌だ。
「リリ殿下。女の子で領主隊に……」
「ね、レイ。困ったものだね。大きくなったら変わるだろうけど」
「まあ、カッコいいからなぁ。女領主隊てのも良いかも!」
「アース、危険もあるからね」
「アーシャはまだ分からないんじゃないですか?」
「ラルクそうだね。アウル、アーシャの所に行こう」
「あい。リリしゃま」
手を繋いでゆっくり歩く。アウルースは横を歩くユキを撫でながらポテポテ歩く。
ユキさん全然抵抗しないんだね。
「リリアス殿下。やはり見ておられたのですか」
「アスラ殿。はい、見てました。相変わらずですね」
「ええ。いつの間にかコートまで描いてるとは」
ハハハ、本当にいつの間にな。
「ラルク……はリリアス殿下の側近候補ですか?」
「はい。宜しくお願いします」
「もう、そんな歳頃ですか。早いですね」
「だってあれから5年ですから」
「そうでした。5年もたったのですね」
俺がアスラと話している間も、ズッと領主隊を見ているアンシャーリにアースが声をかけた。
「アーシャは領主隊が好きなんだな?」
「はい! アース様、私も入りたいです!」
「俺も兄貴が騎士団にいて、俺も入りたいんだ。あ……ほらあそこにいるのが俺の兄貴だ」
そっか。アースの2番目の兄が第1騎士団にいると言ってたな。
見ていると、気づいたみたいだ。こっちにやって来る。
「リリアス殿下、ご挨拶が遅れまして申し訳御座いません。アースの兄で、イザーク・シグフォルスと申します。
いつもアースがご面倒をお掛けして申し訳ありません」
と、挨拶をして手を胸に持っていき礼をした。
おぉ、アースの兄とは思えない礼儀正しい人だな。
アースと同じ金髪に、碧色の瞳。爽やかなお兄さんだ。
「いえ、ボクは友達としてアースと付き合ってますので、その様なお気遣いはいりませんよ」
「リリアス殿下、有難うございます」
「ごじゃいます!」
「アハハ、アウル上手だ」
「フィオン様のお子様ですか? お可愛らしい」
「でしょ〜。もう可愛すぎて!」
「アハハハ、殿下もお可愛らしいですよ?」
「やめて下さい」
「くらしゃい!」
「アハハ、お上手だ。アース、お前落ち着けよ。殿下にご迷惑をお掛けするんじゃないぞ」
そう言って、アースの頭をガシガシと撫でる。兄ちゃんて感じだ。
「なんだよ、俺なんもしてないよ」
「殿下、アースは落ち着きがないので」
「ああ、大丈夫。分かってるよ」
「リリ殿下まで」
……て、ん!? アンシャーリ? 目がハートになってないか?
「あー、あのイザーク殿は子供は?」
「ああ、私も3歳の男の子がいます。可愛いです」
「子供は可愛いですよね」
「殿下も子供ですよ?」
「アスラ殿、それはいいんです。とりあえず、横に置いといて下さい」
アンシャーリ、すまんな。だけどな、叶わない想いは……て、あれ? あれれ?
アンシャーリが目をハートにして見ていたのは、イザークじゃないのか?
……まさか! アース!?
「リリ殿下、遅いです」
「レイ、まさか思わないだろ? アースだよ!?」
「リリしゃま?」
「あ、アウル。なんでもないよ」
「リリしゃま、遊ぼ!」
「うん。何する?」
「ユキしゃん乗りたい!」
「いいぞ」
ユキさんも子供には優しいね〜。
「アウル、危ないからボクと一緒に乗ろうね」
「あい! リリしゃま!」
俺が先にユキに乗って、アスラールがアウルを抱き上げてユキに乗せる。
「おじしゃま、ありがと!」
「ああ、しっかりつかまっているんだよ」
「あい!」
そうお返事してアウルースは片手をあげる。
もういちいち可愛い!
「ユキ、ゆっくり一周してくれる?」
「ああ」
ユキがゆっくり動き出した。