243ー近衛師団
結果、やはりオクソールとリュカのいるチームが勝った。そりゃそうだよ。
二人共、獣人なんだから身体能力が人とは全然違う。
どれだけ近衛師団の隊員達が当てようとしても、軽くヒョイッとよける。真正面にきたボールは難なくキャッチする。あの二人がいるのは反則だよ。
それにリュカは俺が魔力を流して詰まりをとってから、また身体能力が上がっているからな。以前はよく何もない所で転けていたのに、詰まりをとってから全然転けなくなった。
「いや、殿下。近衛師団にも獣人はいるんですよ」
「リュカ、そうなの!?」
近衛師団の隊員で、キンイロジャッカルと言う種類の獣人がいるそうだ。
なんでも、その中でも別名ゴールデンウルフと言う珍しい種類になるらしい。
ジャッカルよりも狼に近い遺伝子を持つ種だそうだ。
「リュカ、仲間じゃん」
「まあ、大きい意味で」
「あれ? なんかあんまりなの?」
「と、言うか。狼より全然弱いです。狼より小さいですし。別物です」
「ふぅ〜ん。あれ? もしかして……こっちをずっと見てる彼?」
近衛師団の中に、リュカをジッと見ている隊員がいる。
「そうなんですよ。なんか凄い見てくるんです」
「あれじゃない? リュカは狼の中でも純血種の希少種だからじゃない?」
「そうッスか? でも獣人なんで。動物じゃないんで」
「まあ、そうだね」
「ああ、殿下。それより近衛師団の団長が虎です」
「えッ!? 凄いじゃん!」
「そうなんッスよ。これまた、オクソール様を凄い意識していて」
「あらら……」
「もう、止めてほしいです。獣人ですが、人間として生活してるんで」
「そうだね。でも虎かぁ。めちゃ強そう」
「強いですよ。半端ないッス」
「オクとどっちが強いの?」
「そりゃ、余裕でオクソール様です。獣化したら分かりませんが」
「ほぉ……」
「リュカ、そんな獣人がいる近衛師団相手でも勝ったんだね。凄いや」
「殿下、有難うございます!」
そうか。やっぱオクソールとリュカは最強だ!
ん? オクソールと近衛師団団長と何か話してるぞ?
「リュカ、オクが何か話しているよ」
「あー、きっと挨拶に来ますよ」
なんでリュカ、嫌そうなんだ?
リュカの言う通り、オクソールと近衛師団団長と獣人の彼がこっちに歩いてきた。
「殿下、良い機会ですのでご挨拶を」
「うん、オク」
「リリアス殿下、ご挨拶が遅れました。近衛師団団長を仰せつかっております、ティーガル・オークランスと申します。ご存知でしょうが、虎の獣人です。お見知りおき下さい」
近衛師団団長 ティーガル・オークランス。
虎らしい黄色と茶色が混ざった髪に、黄褐色の瞳。精悍な印象を受ける。30代半ば位の歳か?
「初めてお目に掛かります。近衛師団のレウス・キャニドースと申します。私はキンイロジャッカルの獣人です。宜しくお願いします」
レウス・キャニドース
俺はキンイロジャッカル自体をあまり知らないが。薄金色に褐色が混じった髪に、金褐色の瞳。リュカより線が少し細い。ひと回り小さい感じだ。
騎士団は4団あるが、近衛師団はそれよりも少ない人数の小隊で構成されている。
第1小隊から第3小隊の3つの小隊があり、其々に隊長がいる。団長のティーガル・オークランスは、そのトップと言う事になる。
「リリアスです。近衛師団の人達はボクは全然知らないので。団長の事も知らなかった」
「はい。我々は皇帝陛下と皇后陛下をお守りするのが役目ですので。しかし、今回殿下とご一緒できる事は嬉しく思っております。騎士団同様、お見知りおき頂けますよう」
「うん。有難う」
「殿下、オークランス団長は2等騎士です」
「オク、そうなんだ。凄いや」
「殿下、何を仰います。オクソール殿は1等騎士ではありませんか」
「うん。凄いよね。ボクの誇りだ」
「殿下、有難うございます」
「これは……オクソール殿。聞きしに勝るお方で。お守りする方に『誇り』と言って頂けるなど、光栄な事ですね」
「はい。勿体ない事です」
はぁ、騎士団と違ってめちゃ堅苦しいぜ。俺はちょい苦手だよ?
「クフフ、殿下。では早々におしまいにしましょう」
「オク……?」
オクソール、また俺の気持ちを読んだよ。
「オークランス団長、そう畏まらずいつも通りでお願いします。その方が、リリアス殿下も喜ばれます」
「え? そうなんか? じゃあ、早速。リリアス殿下、よろしく頼んますよ」
ん? 何? この変わり身は、いったい何!?
「いや、俺の家は旧家なんですよ。殿下のお友達のジェフティ家と似たり寄ったりで。
俺は長男ではないですし、堅苦しいのが嫌で騎士を目指したんですが、その旧家の家名のせいで近衛師団配属になってしまって。まいりましたよ。気付けば団長です。辞めらんなくなってしまいましたよ。アハハハ」
「え……!? オク、変わりすぎなんだけど……」
「はい。こんな方なのです」
「そうなの? なんだ。最初からそうしてくれたら良かったのに」
「いやいや、いくらなんでもリリアス殿下にそれはできませんよ。まあ、近衛師団も同じ人間て事ですよ」
「そうだね。嬉しいよ」
「アハハハ、リリアス殿下は気持ちの良い方だ」
「団長、自分ばっか喋らないで下さいよ」
「ああ、こいつも同じ獣人のリュカ殿と仲良くなりたいとズッと言ってまして」
「え!? 仲良く!?」
「はい! リュカさん! 憧れてました!」
「アハハハ! リュカ憧れだって!」
「殿下、何で笑うんですか。台無しじゃないですか」
「アハハハ、だってリュカ。良かったね。ジッと見てたのは、憧れの目線だったんだ」
「はい! 我々近衛師団とは接点がありませんから、もう今回を逃したらいつお話できるか分かりませんから!」
「しかし、殿下。神獣殿はまたなんと神々しい……!」
え……? オークランス団長?
「いつも遠目でしか拝見できなかったので、ちょい近くに行ってもいいですか?」
そう言うと、オークランス団長はユキにじわじわと近付く。
「リリ、なんだ此奴は」
ユキは嫌そうにジリジリと後退りする。
「ユキと仲良くしたいんだって」
「いや、我は……」
「本当に喋るんだ」
ユキさん、頑張って……