242ードッジボール
「ふぅ……やっとお昼寝したわ」
応接室でのんびり食後のお茶をしていると、フィオンが入ってきた。
俺はりんごジュースを飲んでる。
「ハハ、姉さま疲れてますよ?」
「リリ、疲れるわよ。子供って全力だもの」
うんうん、分かるよ。全力だよな。
「しかし、えらいリリに懐いたな」
「兄さま、そうですか?」
「ああ、お前達意味が分からん」
「ボクも2歳の頃はアウルみたいでしたか?」
「リリか……いや、リリは天使だ」
「兄上、そうですわね。リリは天使だわ」
まただよ。この兄も姉もおかしいぞ?
「兄さまも姉さまも、何言ってるんですか」
「いや、マジだ」
「ええ。兄上」
「もういいですよ。でも姉さま、お幸せそうで良かったです」
「リリ、ええ幸せよ。有難う」
「リリ、リュカはどうした?」
いつも俺の後ろにいるのに、今はいないからな。
「ああ、兄さま。また領主隊と何かやってるみたいですよ」
「いやだわ、またやってるの?」
フィオンが呆れ気味に言う。俺もちょっと呆れるよ。
「はい、姉さま。懲りずにまた。コクコク」
「リリ、何だ?」
あれ? フレイは知らなかったか? 俺は説明する。
「兄さま、領主隊がよく色々やってるんですよ。今日は対戦だと言ってましたよ。
騎士団vs領主隊ですね。何の対戦なのかは知りませんが、前に来た時もなんだかんだとやってました。しかも全力で」
「なんだそれは!? 面白そうじゃないか!何故俺は呼ばれない!?」
フレイはもう立ち上がっている。絶対参加する気だぜ。
「兄さまは隊員じゃないからではないですか? まさか参加したいのですか?」
「リリ、当たり前だろ!? ちょっと行ってくる」
あー、フレイは部屋を出て行ったよ。
「姉さま……やっぱり遠出するならクーファル兄さまですね」
「ええ、そうね。私もそう思うわ」
いつまでも子供の心を持った長男だぜ。
「失礼致します。殿下」
レイとアースが部屋に入ってきた。
「レイ、アースごめん、放ったままで」
「ああ、大丈夫です。気にしないで下さい。それよりリリ殿下、裏に見に行きませんか?」
「え?アース、何を?」
「決まってるじゃないですか。騎士団vs領主隊ですよ」
もう……今日は何をやってるんだ?
レイとアースと一緒に裏に行く。ユキとラルクも一緒に付いてくる。
「おー! やってるやってる!」
アースがキラキラした目で見ているよ。てか……何だこれは……!?
「あ!! リリアス殿下! 見に来たんですか!?」
リュカが俺たちを見つけて走ってくる。
「リュカ、これって……」
「ああ、これは初代皇帝が考案された競技です。単純に中にいる者にボールをぶつけるだけです。最後まで中に残った方が勝ちです」
マジかよ。これってドッジボールだよな。あー、さすが初代皇帝、元日本人だわ。日本人なら誰もが小学校でやるよ。
簡単で手軽で盛り上がれるお遊びだよな。俺も休み時間によくやった。
邸のだだっ広い裏庭に、いつの間に描いたのか広いドッジボールのコートが2面もある。
騎士団が30名と近衛師団が10名来ているから、10名ずつに分かれて予選をやってるそうだ。勝った者同士がまた対戦して優勝を決めるんだな。
じゃあ、リュカは今何してるんだ?
「俺はオクソール様と同じチームで、もう勝ちましたよ!」
「また、オクと同じチーム? それ反則だよ」
「アハハハ! 殿下、勝たないといけませんから!」
まただよ……ズリーよ。獣人の身体能力に敵う訳ないじゃん。
「そりゃーー!!」
げッ! この声は……!!
「フレイ兄さま!?」
「ああ、俺も入れろと言ってこられて。騎士団の団長のいるチームに入ってもらってます」
「リュカ、でも兄さま関係ないじゃん」
「まあ、そうなんですけど。本人がやりたがっているので」
クーファル、助けてくれ! やっぱクーファルがいいよ。
「リリ殿下、スゲーよな! 身体能力がハンパねーよ!」
アースが目をキラキラさせて見ている。
「アース、そうなの?」
「だってリリ殿下、見て下さい。あんなボール避けれますか? 俺は無理です」
アースが言う様に、皆投げるボールの勢いが凄い。投げられた方も、反応が早い。これは毎日の鍛練の賜物か?
「僕はなんか引いちゃいます。あれって、人間ですか? 人間ですよね? フレイ殿下も凄いですね」
「レイ、分かるよ。ボクもちょっと引いちゃうかも」
うん、俺が前世で遊んでいたドッジボールとは別物だ。
「リリ、あれは何をしているのだ?」
俺の横にいたユキが聞いてきた。
「ユキ、ボールに当たったら駄目なんだよ」
「ほう、だから避けているのか」
「そうだよ。受けとめても良いんだけどね。ボールの勢いが凄いからなかなかキャッチできないんだね」
「なるほど」
「え、もしかしてユキもやってみたいの?」
「いや、我はボールとやらを投げるのは難しいからな」
なんだよ。ちゃっかり検証してるじゃねーか。ユキも脳筋か?
「あ、殿下。フレイ殿下のチームが勝ちましたね」
「本当だ。リュカ、どっちが勝ち残ってるの?」
「あー、領主隊は1チームだけですね」
もうそんなのやる意味ないじゃん。
「じゃあ、騎士団vs騎士団とかになるの?」
「いえ、近衛師団も残ってますから、vs領主隊と、vs近衛師団ですね。負けません!」
リュカ、やる気だね。
「リリ!! 勝ったぞ!!」
フレイが嬉しそうにやって来た。
「兄さま! 何やってるんですか!?」
「アハハハ! リリ、まあ良いじゃないか!」
「兄さま、怪我しないで下さいよ?」
「ああ、平気だ!」
結局、決勝戦はオクソールとリュカのいるチーム対近衛師団チームになった。
俺は全然近衛師団て知らないけど、凄いんだな。フレイと騎士団長のいるチームに勝っちゃったよ。
「兄さま、残念でしたね」
フレイが負けたので、俺たちと一緒に見ている。
「ああ、近衛師団のチームに入ったら良かった」
もう、この長男は何を言ってるんだ!?
「兄さま、これは強化もOKなのですか?」
「いや、一切の魔法もスキルも無しだ」
「じゃあ、オクとリュカは有利ですね」
「あッ! そうだよ! オクソールとリュカのいるチームに入れば良かった!」
いや、違うから。