241ー閑話 レイの呟き 1
僕はレイリオン・ジェフティ。
ジェフティ侯爵家の次男だ。兄と姉がいる。僕は人と話すのが苦手だ。人見知りなんだ。
僕の家は古くからある侯爵家で、格も高い。だから、僕に取り入って家と仲良くしたい人達がいた。
小さい頃からそんな事があって、人見知りになった。僕なんて次男なのに。僕に取り入ったって、大した事はない。
それでも、男爵家の馬鹿な令嬢達が近寄ってくる。子供なのに、よくやるよ。
5歳のお披露目会で、両親と一緒にお城に行った。苦痛だったよ。お披露目パーティーなんてピカピカした場は苦手だ。
皇帝陛下に挨拶をしないといけない。僕の家より上位の貴族に5歳の子供はいないから、僕が1番最初に挨拶する事になる。
僕は仕方なく嫌々両親と挨拶に向かう。
同い年に第5皇子殿下がいらっしゃる。陛下と側妃様に挟まれて第5皇子殿下は立っておられた。
ああ、僕と同じ表情をしている。皇子殿下も嫌なんだなぁ、と思った。ちょっと親近感がわいた。
僕は、その時初めて第5皇子殿下にお会いしたんだ。なんて、可愛らしい皇子なんだ。驚いた。
グリーンブロンドのふんわりした髪に翡翠色の瞳。睫毛なんてどうしてあんなに長いんだ? 白に髪と同じグリーンブロンドの刺繍が入った服が、とてもお似合いだった。
同じ男なのに、見惚れてしまった。
挨拶が終わって、フロアに下りてこられたら直ぐに、殿下と仲良くなりたい令嬢や子息達に囲まれていた。
「殿下は医師になられるのですか?」
不躾な事を聞く奴がいた。
あいつはたしか、アース・シグフォルスだ。同じ侯爵家の5男だったか。男ばっかり5人て凄いよな。
近くで話を聞いていると、殿下は案外気さくに話をされる。
少し興味がわいた。だって、光の精霊の加護を受けてる殿下だ。どんな殿下なんだろうと思ったんだ。
「殿下は学園に入られないのですか?」
気付いたら自然にお声を掛けていた。
そんな僕に殿下は気さくに答えて下さった。話を聞いていると、同じ5歳で万能薬を作れるとか、魔物を討伐したとか普通じゃない。
なんで皇子殿下がそんな危険な事までやっているんだ? しかもまだ5歳だぞ。信じられない。
面白い。僕は本にしか興味がなかったのに、殿下と話すのがとても楽しかった。
僕の知らない事を沢山ご存知だ。
僕が出来ない事を沢山されている。
この殿下ともっと話したい。そう思ってしまった。
そのパーティーで、同じ侯爵家のディアーナ・アイスクラーが、襲われた。
その時、殿下は魔法を使って襲撃者を撃退された。
なんだ!? 5歳でなんであんな魔法が使えるんだ!? しかも、なんで皇子殿下が格下の貴族令嬢を守ってるんだ!? この殿下は一体なんなんだ!? 僕は殿下から目が離せなくなった。
それから僕と、アースとディアーナ嬢は殿下と友達になった。
殿下は驚くほど普通に話される。アースなんて言葉使いに気をつけるのを忘れている時がある。
楽しい。こんな人は今迄僕の周りにはいなかった。同じ5歳なのに、この殿下は違う。
仲良くなればなる程、惹かれていった。
ある時、お城から打診があった。
僕に殿下の側近候補にならないかと言われた。父が僕にご辞退すると言った。
どうして? 僕だと力不足なのか? 僕は殿下と一緒にいたいのに。
その時、初めて知った。
側近だけでなく、侍従や侍女も小さい頃からその専門の教育を受けた家系の子供が代々務めているんだと。それは汚職や謀反を避ける為に、建国当初からの決まりなんだと。僕と言う異例を作ってはならないと、父が言った。
そうだったのか。知らなかった。
「だが、その様な打診を貰えた事はとても光栄な事だ」と、褒めてもらえた。
それなら僕はなんの利害もない友達でいようと決心した。
父も「そうしてお支えしなさい」と、言ってくれた。
小さい頃からお辛い事の多かった皇子殿下だから、お心をお守りするのも大事な役目だと。
僕は、殿下には何も勝てない。自分に自信がない。そんな僕でも殿下をお守りできるのだろうか?
「ただただ、普通の友人でいる事が何より大切だ」
と、父は言う。そうなのか?
僕はまだよく分からない。お心をお守りするって何だ?
でも、友人でいるなら殿下の足を引っ張る訳にはいかない。せめて、今僕ができる努力をしようと思った。いつか、僕でも殿下をお守り出来る様に。
たしか7歳の時だ。王国に行くと言われた。何故、わざわざ命を狙われた国に行くのか。信じられなかった。皇帝陛下も殿下が可愛くないのかと思った。
なのに殿下は王国の民を助けられたと聞いた。殿下ご自身は何も仰らないけど、父が興奮気味に話してくれた。
帝国の商人の息子になりすまして、王都までの道中の村や街の飢えた人々を助けられたと。
王国の城で反乱が起こった時も、殿下は神獣のユキと護衛のリュカさんやオクソール様と一緒に王国の王子を助けられたと。
父から聞く事全てが信じられなかった。
殿下もそうだが、一緒に行かれたクーファル殿下もそうだ。殿下のお母上も一緒に街で炊き出しをされたとか。
どうしてそんな事ができるんだ? 憎くはないのか? 命を狙われたのに。
王国から帰って来ても殿下は相変わらずだった。
久しぶりに殿下と騎士団の鍛練場でお会いした時に僕は驚いた。目の前で殿下が剣に魔法を付与された。その上、自分でブーストとプロテクトも掛けられた。いとも簡単に、ちょっと面倒そうに。大人の騎士団でさえ出来ないのに、お手本として騎士団の前で披露された。
アースも見てびっくりしていた。
その時に殿下から魔力量を増やす方法を教わった。僕は冷静を装っていたが、実は興奮していた。
絶対に増やしてやるんだ。僕はアースみたいに剣を振る事は出来ない。身体を動かすのは苦手なんだ。そんな僕でも魔法なら少しは役に立てるかも知れない。
殿下に教わった様に、毎晩寝る前にギリギリまで自分の魔力を使った。
魔力量の測定は10歳だ。その時までどれ位増えるか分からない。
本当は直ぐにでも魔法を教わりたかった。殿下がいとも簡単に魔石に付与されているのを目の前で見て、僕も覚えたいと思ったんだ。
でも、父は10歳になってからだと言って許してくれなかった。子供が無闇に魔法を使うと、魔力を暴走させる危険性があるからと。仕方ない。我慢する事にした。
あれから5年、僕達は10歳になった。殿下の友人としてお側にいる。
大聖堂で大司教様に魔力量の測定と属性の判定をしてもらった。
嬉しい! 僕の魔力量は10歳の平均の10倍だと言われたんだ! やった! 毎晩毎晩、魔力量を増やす為に努力してきた甲斐があった!
しかも、水と風の2属性だった。
「リリ殿下! 教えてください」
思わず僕は殿下に言っていた。10歳になるまでと言われて、ずっと我慢してきたんだ。やっと覚えても良いと、父も許可してくれた。
やっとだ。やっと、スタートラインにつけるんだ。
殿下が『鑑定』で僕を見て下さった。魔力操作を教わった。凄い、凄いよ! 殿下て、とんでもないよ!
魔力を流してもらって良く分かった。僕とは次元が違う。なんだ、この魔力は!?
これが、殿下の魔力なんだ。光属性の魔力。なんて、温かいんだ!
これからだ。僕はやっと守る術を手に入れられるんだ。
嬉しい。それが心から嬉しい。努力しよう。後悔しない様に。殿下の隣に立てる様に。殿下をお守り出来る様に。