240ーアウルース
「リリ。母様、心臓がいくつあっても足らないわ!」
「母さま、ごめんなさい」
邸に戻った俺は母に超怒られている。何故かって? 決まってるだろ。集まっている領民の中に走り出してしまったからだ。
ソファーに座って腕を組んでいる母の前に小さくなって立っている俺。
「何かあったらどうするの!?」
「はい。ごめんなさい」
「それにリリ、あれはないわ。一緒に遊ぼうはないと母様は思うわ」
え……!? そこ!? そこなのか!?
「リリ、もう少し何かなかったのかしら? 語彙力が足らないわね」
ええ……!
「そうね、私もあれはないと思うわ」
えぇー! 皇后様まで!?
「アハハハ! リリ、大変だな!」
駄目だ……冷静なクーファルもソールもいないから、もうボロボロだ。
クーファル、どんだけ冷静に見守って収めていてくれたか、今更実感したよ。
「皇后様、エイル様、畏れながら大事なのはそこではありません」
えッ!! ラルク!?
「一緒に遊ぼう、ではなく。殿下があんなに大勢の領民の中に走って行かれた事が重要です。一つ間違えば、殿下は大怪我なさるとこでした。殿下、もう二度とあの様な事はなさいません様に」
「あ……うん。ラルク、ごめんなさい」
ラルク、流石セティの甥っ子だよ。
「あら、そうね。そうだったわ。リリ、危ない事はしないでちょうだい」
「はい、母さま。気をつけます」
母よ。ラルクに言われて思い出したんだろう?
「リリしゃまー! 一緒にあしょぼー!」
アウルースがフィオンに連れられて入ってきた。
「アウルー! 遊ぼうー! おいでー!」
「キャハハハ! リリしゃまー! らめー! 一緒にあしょぼはらめらめー!」
アウルースがトコトコと駆けてくる。満面の笑みだ。
「うわ、アウルまで!」
「リリ、真似してるのよ。もう何でも真似するから」
「姉さま、そうなのですか? じゃあアウル、今のは誰の真似かな?」
「んとねー? おばあしゃま!」
まあ、なんでもいいや。可愛いは正義だ!!
「アウルー! 可愛い〜!!」
俺はアウルースにほっぺをスリスリする。プニュプニュだぜ!
「キャハハハ! リリしゃまー!」
「何が面白いのか、俺には分からん」
「フレイ兄さま、冷めてますね」
と、俺が人差し指を顔の横で立てると、アウルースも短い人差し指をプクプクのほっぺの横に立てる。
「しゃめてましゅね!」
「ノリが悪いですよ?」
俺が腰に両手を持っていくと……
「わりゅいでしゅよ?」
アウルースも両手を腰に持っていって胸を張っている。何故か片足をちょこっと前に出している。ブハハハ。
「アハハハ!」
「キャハハハ!」
なんだこの可愛い生き物は!?
「もう、なぁに? この子達は。フフフフ」
「フィオン、お前の子だろ? もう一人はお前の弟だ」
「あら、兄上の弟でもありますよ?」
「俺はもうとっくに訳が分からん」
「リリしゃま! こっち!」
「何? アウル、どこ行くの?」
「こっち!」
俺はあれからズッとアウルースと裏庭で遊んでいる。で、今はアウルースに手を引かれている。小さいのに子供はパワフルだ。
「あのね、こっち!」
アウルースは一生懸命に俺の手を引いてヨチヨチ歩く。俺達の後ろをユキとリュカがついてくる。
「アウル、どこまで行くの?」
「あしょこ!」
アウルースはあの5本の樹を指さした。
「ああ、光の樹だね」
「しょう! 樹! リリしゃまお花しゃかしぇた?」
「ああ、うん。ずっと前にね」
「ボキュ、れきない」
「ん? 何ができないの?」
やっと5本の樹の下に来た。アウルースは樹の幹に小さな手をやる。
「んん〜! はぁ、だめ。お花しゃかない」
手を樹についたまま、背中を丸くして項垂れている。
なんだこの可愛い生き物は!? (本日2回目)
「ああ、アウル。あれはボクだけなんだよ」
「リリしゃまらけ?」
「そう、ボクだけ」
「リリしゃま。ボキュ大きくなったらできりゅ? ボキュ、小しゃい、何もできない」
俺を必死な目で見てくる。小さくて何もできない、てか……
「ん〜、小さいからじゃないなぁ。アウル、この樹はどんな樹か知ってる?」
「んと……だいじ」
「うん。そう大事なんだ。お花を咲かせられなくてもいいんだ。それよりも、大事にしなきゃね」
「だいじしゅる!」
「うん。アウルはいい子だね〜!」
「リリしゃまも、いいこ〜!」
「アハハハ、ありがとう!」
「殿下ー! お食事ですよー!」
お、シェフが叫んてるな。
「アウル、シェフが呼んでる。戻ろう」
「あい!」
手を繋いでポテポテ歩く……んー、やっぱ2歳だ。危なっかしい。
「ユキ、乗せて?」
「ああ、いいぞ」
そう言ってユキは伏せてくれる。
「アウル、ユキが乗せてくれるって」
「ひょぉ〜! ユキしゃん! のしぇてくりぇましゅか!?」
「ああ、いいぞ」
俺はユキの背中に乗る。
「リュカ、お願い」
「はい、殿下。アウルースさま、お乗せしますよ。捕まって下さい」
「あい、リュカありあとー!」
「はい」
リュカが抱き上げてユキの背中に乗せた。
「ユキ、いいよ。ゆっくりね」
「ああ、しっかり捕まれ」
「うん」
「あいッ!」
俺は落ちない様に、アウルースの腰に手を回して支える。
ユキがゆっくり歩き出した。
「ふぉぉー! しゅごい!! ユキしゃん、しゅごいれしゅ!」
「そうか、凄いか!」
「小さくても、しっかり男の子ですね」
「うん、リュカ。やんちゃな男の子だ。元気いっぱいだ。沢山の未来や夢を両手にいっぱい抱えているんだ。子供は宝物だよ」
「はい、殿下。て、殿下もまだ子供ですよ? 何おじさんみたいな事言ってんスか!?」
「アハハハ、リュカそうだった!」
「しょうらった!」
「アウル、上手だね〜!」
「ね〜!」
可愛い! 可愛すぎる!
「シェフ! お待たせ!」
「せー!」
アウルースと二人で、片手をあげる。
「おやおや、小さいリリアス殿下みたいですね!」
「シェフ、ボクが2歳の頃てこんなだったの?」
「いえ、リリアス殿下は妙に達観されてましたから。シッカリされてましたよ?」
なんだそれは? 意味分からん。
アウルースとシェフと食堂に向かうと、フィオンに会った。
「まあ、アウルったらリリにべったりね」
「姉さま、どうしましょう」
「リリ、どうしたの?」
「アウルが可愛すぎて。連れて帰ってもいいですか?」
「何言ってるの、駄目に決まってるでしょう!?」
「あらら……」
「りゃりゃ……?」