239ー歓迎
「皇后様、エイル様、フレイ殿下、リリアス殿下、実は邸の近くの領民達がお姿を見たいと集まって来ておりまして。宜しければ、お姿を少しお見せ頂けたらと」
あらら……そうなんだね。アラウィンが申し訳なさそうに言った。
「辺境伯、邸の外に出れば良いのか?」
「はい、フレイ殿下、邸の前庭に集まっておりますので。申し訳ありません。普通なら領都の中を馬で通ります。それがないもので」
ああ、そっか。転移門でサクッと来ちゃったからね。
「アラ殿、以前来た時もそうでしたね。領民の人達が沢山出迎えてくれてました」
「はい、リリアス殿下。そうでしたね。懐かしいですな」
俺が5歳の時に初めて辺境伯領に来た時は、アラウィンの馬に乗せてもらって領内を進んだ。
沿道には領民達が沢山出迎えて歓迎してくれていた。思い出すなぁ。
「皇后様、宜しいですか?」
「エイル、皆が出るなら私は構わないわ」
「フレイ殿下、少し顔を出しましょうよ」
「エイル様、構いませんか?」
「ええ、もちろんですわ。歓迎して下さっているのですから」
ハハハ、母ならそう言うと思ったよ。母は物おじしないからな。
「では辺境伯。案内を頼む」
「はい、有難うございます」
俺達は、辺境伯の案内で邸の正面玄関に向かう。外に出ると階段が数段あってその1番上に出た。
俺は母の横で1番末席に立つ。1番末っ子だからね。
――あ! 出て来られた!
――リリ殿下だ! 大きくなられた!
――まあ! 皇后さまだわ!
――リリ殿下、今回はお母上とご一緒なんだ! 良かった!
――フレイ殿下だ!
――カッコいい!
マジで、大騒ぎだった。一体何人集まっているんだ?
「リリ、前もこうだったのか?」
「兄さま、そうですね。でも、前は沿道でしたから。これ程ではありませんでした」
「有難い事だわ」
「皇后様」
その時だ。一際、大きな声が聞こえた。
「リリ殿下!! 待ってたぜー!!」
この声は……!!
俺は少し前に出て、声の主を探す。
「リリ、あまり前に出るな」
いつの間にかユキが俺の横に出てきている。
「ユキ、だってこの声!」
「ああ。懐かしいな」
どこだよ! どこにいるんだ!? 俺はキョロキョロして声の主を探す。
「リリ殿下!!」
もう一度聞こえた。声がした方へ目をやる……いた! 二人共いたよ! 変わりない! 二人でめっちゃ手を振ってくれている!
「おっちゃーん!! テティー!!」
「殿下!!」
リュカが叫んでる。だが俺は堪らず走り出して階段を下りる。俺の直ぐ横をユキが走る。後ろからはオクソールとリュカがついてきている。
俺が進む先を人集りが分かれて行く。アハハ、モーゼみたいだ!
「おっちゃん! テティ! みんなー!! 来たよー! やっと来れたー!!」
走りながらそう叫ぶと、集まった領民達が一斉に声をあげる。
――おおーー!
――リリアスでんかー!!
――お待ちしてましたー!!
俺はそのままニルズに抱きついた。
「リリ殿下! 何やってんだ! 危ねーじゃないか!!」
「おっちゃん! テティ! やっと! やっと来れたんだ!! 5年も掛かっちゃった!」
ニルズが俺を抱き上げる。おいおい、腰にくるぞ。俺はもう10歳だからな!
「殿下! 大きくなられましたね!」
「テティ! 元気そうだ!」
「はい! 殿下も!」
「相変わらず無茶するぜ!」
「おっちゃん! だって、おっちゃんの声が聞こえたんだもん!」
「アハハハ! 殿下! 待ってたぜ!」
変わらない。変わらない豪快な笑顔だ。
「うん! おっちゃん!」
「オクソールさんもリュカもよく来た!」
「はい、お変わりなく」
「はい! お元気そうで!」
「ユキも相変わらずかっこいいな!」
ユキがブンブンと尻尾を振っている。ネコ科もこんなに尻尾を振るんだな。
――殿下ー! お帰りなさーい!
――リリ殿下!
――ようこそー!
領民達が口々に歓迎してくれる。なんて、ありがたいんだ。ああ、俺はやっと来たんだ!
「みんなー! 有難うー! やっと来れた! また一緒に遊ぼう!!」
俺はそう言いながらブンブン手を振った。
領民達が、おおー!! と沸いた。
「アハハハ! 殿下! 一緒に遊ぼうはないぜ!」
その時、俺達を丸く囲んでいた人集りが割れた。
「リリ! 紹介してくれ!」
フレイが颯爽とやってきた。
「兄さま!」
「げッ!? フレイ殿下なのか!?」
「うん、おっちゃん。今回はクーファル兄さまお留守番なんだ。フレイ兄さまだよ」
ニルズは慌てて俺を下ろす。
「兄さま! おっちゃんですッ!」
俺は片手を出して、どうだ! とニルズを紹介する。
「アハハハ! リリ! おっちゃんか!?」
「フ、フレイ殿下! お初にお目に掛かります! ニルズと申します!」
「妻のテティと申します」
「二人共よく話は聞いていた。リリが世話になったな。また宜しく頼む」
「は、はいッ!」
「漁に出るなら俺も行くぞ!」
「兄さま! 本当ですか!?」
「ああ! リリ、一緒に行こう!」
「やった! おっちゃん! 兄さまも一緒だって!」
「是非行きましょう! この地の海は綺麗ですよ!」
「ああ! 楽しみだ!」
そしてフレイは周りを見渡し声を張った。
「皆、歓迎してくれてありがとう! リリアスを待っていてくれてありがとう!! また世話になる!」
――おおぉーー!!
――フレイ殿下!
――カッコいいー!!
――キャー!!
あー、もう大騒ぎだ! フレイはこんな時、カリスマ性を発揮するよな。カッコいいぜ。
「リリ、お前が走るからだろ!?」
「だからって、兄さままで来なくても!?」
「いや、来るだろう? 面白そうじゃないか!」
「フレイ兄さま!?」
「ほら、リリもう一声だ」
「はい、兄さま」
オクソールが俺を抱き上げてくれる。もう10歳なのに。まだ抱き上げてもらわなきゃならない。くそー!
「有難うー! 皇后様と母さまも一緒なんだ! みんな! よろしくねー!!」
俺は片手を振りながら、大きな声で言った。
――おおぉーー!!
「ニルズ、じゃあな!」
「はい! フレイ殿下!」
「おっちゃん! お友達も一緒なんだ! また海に連れてって!」
「おうッ! いつでもいいぞ!」
「では、戻りましょう。リュカ。」
「はい!」
リュカとユキが先導して、フレイが続く。その後をオクソールに抱き上げられた俺は邸に戻る。