235ー馬鹿令嬢
「何よ!なんて失礼な!」
「子供の癖に何偉そうに!」
「な……‼︎ リリアス殿下に失礼ですよ!」
シオンがまた声を張る。
――シャキーン……‼︎
「ヒッ‼︎」
その時リュカが剣を抜いて、俺に突っかかってきた令嬢達の前に突き出した。
「いい加減にしなさい‼︎ リリアス殿下に失礼です!不敬罪に問いますよ!宜しいのですか⁉︎」
途端に令嬢達は大人しくなった。
「リュカ、有難う。」
「殿下……。連行します。」
「いや、リュカ待って。」
「いえ、殿下。立派な不敬罪です。牢に入れましょう。」
リュカがそう言った途端に、令嬢達はうずくまった。
「ラルク様、ソール様に連絡をお願いできますか?」
「はい!リュカさん!」
ラルクが走って行く。
ふぅ……、さてもう話できるかな?
「お姉さん達は、クーファル兄さまの婚約者にはなれません。」
「な、なんでよ……!」
「当然です。こんな騒ぎを起こして、それでも兄さまに選ばれるとでも思っているんですか?
貴族の御令嬢が、追いかけまわすなど何てはしたない馬鹿な事を。そんな人を皇族に迎える訳ないでしょう?
ご両親はご存知なんですか?お家に迷惑を掛けると思わないのですか?」
「失礼致します!リリアス殿下、申し訳ございません!」
ソールが慌てて入ってきた。後ろに騎士団がいる。ああ、もう終わりだな。
「ソール、いいよ。でも、この人達の家の人を呼んでしっかり処分して。」
「はい。もちろんです。呼ばれてもいないのに城に押しかけて、クーファル殿下を追いかけまわし、挙句にリリアス殿下にこの様な失礼を。
最悪、爵位を取り消される事になりましょう。」
ソールの言葉に令嬢達は真っ青になった。
「リュカ、もういいよ。ありがとう。」
「はい、殿下。」
リュカが剣を直した。
「リュカ、有難う。すまない。」
「いえ、ソール様。しかし、この御令嬢達はリリアス殿下に対して不敬を。」
「ああ、分かった。騎士団、御令嬢を拘束しなさい。」
バタバタと騎士団が令嬢達に拘束具をつけて行く。令嬢達はもう青くなって震えている。
「お姉さん達、もっとよく考えて。考えたら直ぐに分かる事でしょう?
こんな事をして、兄さまが選ぶ訳ない。情けない……。」
「リリアス殿下、申し訳ありませんでした。では、失礼致します。」
ソールは令嬢達を引き連れて行った。
「兄さま、もう大丈夫ですよ。」
クーファルが、奥の部屋から出てきた。
「リリ、すまない。」
「兄さま、災難でしたね。」
「ああ、もう驚いた……。」
クーファルが言うには、昼食を終えて皇后のお小言を聞いて、少し気分転換に中庭に出たらしい。
そうしたら、突然令嬢達が現れて追いかけ回されたそうだ。
「あれ、帝国の貴族の令嬢なんですよね?」
「ああ。ただ、学園の頃から素行に問題有りでお茶会には呼ばなかった令嬢達なんだ。」
「ああ、なるほど。」
「皆、伯爵家か男爵家だしね。問題外だったんだよ。まさか、無理矢理城に来るとは。」
「兄さま……、人気者ですね。クフフ。」
「リリ、止めてくれ。頭が痛い。」
「シオン、大丈夫?」
「あ、ああ、リリアス殿下。驚きました。」
「そうだね。リュカ、ありがとう。」
「いえ、でも私も驚きました。あんな御令嬢がおられるのですね。」
「いや、彼女達は特別だよ。学園在学中も何度も謹慎処分になっていたらしい。
女生徒を虐めて制服を破ったり、お気に入りの男子生徒を取り囲んで迫ったり……。」
「げッ……!」
スゲーな!この世界にもいるんだな!
「家の恥になるから隠していたらしいが、親も手を焼いているらしい。
いくら隠しても、皆知っている様でね。夜会にもお茶会にも呼ぶ者はいないそうだ。」
「兄さま、あの人達はどうなるのですか?」
「ああ、まあ多分修道院行きだろう。
その修道院が帝都にある修道院なのか、北になるかは知らないけどね。
だが、あれは徹底的に矯正しないとね。」
クーファル、ちょっと同情するぜ。
「しかし……、本当に驚いた。リリ、ありがとう。」
「いえ。兄さまでも動揺する事があるんですね。」
「リリ……、突然走ってこられて追いかけられてごらん?そりゃあ必死に逃げるさ。」
「ハハハ、そうですね。相手が男だったら返り討ちにも出来ますが、令嬢ですからね。」
「そうなんだよ。手を出せないからね。シオンもすまない、邪魔したね。」
クーファルがゲッソリとした様な気がする。静かに去って行ったよ。
「殿下もお気をつけ下さい。」
「シオン、ボクはまだ子供だから。」
「いや、用心するに越した事はありません。」
「アハハ、シオンありがとう。」
あー、俺もビックリしたぜ。前世だと不良か。え?古い?
直ぐに令嬢達の親が呼び出されたそうだ。クーファルの予想通り修道院に送られるらしいが、どこの修道院か決まるまで牢に入れられる事になった。
良いお灸になるだろう。
令嬢達は、無断で嘘をついて城に入ってきたらしい。その手口が、城からの呼び出し状を偽造していた。
それを作った奴も捕まった。
自分達は貴族の令嬢だと、つけ上がっていたそうだ。
親は処分されなかったが、令嬢達の暴走のせいで両親兄弟はこの先肩身の狭い思いをするだろう。
しかし、ああなるまで何とか出来なかったのか?それとも親もお手上げ状態だったのか?
もし修道院を出ても帰る家があるのだろうか?本当に馬鹿な事をしたものだ。と言うか、訳が分からん。嫌われるのが分からないのか?
あんな令嬢がいるとは……。帝国の貴族も一度調べる方が良くないか?