234ークーファル逃げる
「クーファル殿下、皇后様がお呼びです」
「……ソール、私はいま食事中だよ?」
「はい、存じております」
「可愛い弟達と和やかに食事をしているのに」
「殿下……」
「分かっているよ。食べたら行くよ」
あれだよな。きっと。クーファルの婚約者探しだよな。
「兄上、皇后様にお叱りをうけますよ?」
「ああ、テュール……」
「兄上、仕方ないですよ」
「フォルセ、分かっているさ……リリ、今日は午後はどっちにいるんだい?」
「クーファル兄さま、今日はシオンです」
「シオンか」
「兄さま、駄目ですよ。ちゃんと皇后様にお話してきて下さい」
「リリ……分かっているよ」
普段は頼りになる兄なのに。そんなに婚約者選びが苦痛なのか? 逃げる気満々だよな。
「兄さま、いっその事一人ずつお会いするのはどうですか?」
「一人ずつ?」
「はい。皆一緒だから、私も私もと競ってしまうのではないかと思ったんです。一対一なら落ち着いて話せませんか?」
「そうかも知れないが……一対一になるとね、身体を押しつけてくるのがいるんだ。それがまた気持ち悪くてね」
なんだそれは!? 駄目だなこりゃ。余計な事を言うのはやめよう。
「ごちそうさまでした。シェフ美味しかった。じゃあ、テュール兄さま、フォルセ兄さまお先です」
「ああ、リリまたな」
「リリまたね〜」
本当にフォルセは可愛いな。手をヒラヒラと振ってくれる。
「殿下、どうされました?」
リュカとラルクが付いてきている。ラルクが聞いてきた。
「ん〜、クーファル兄さまがね、婚約者を選ぶの面倒がっていて」
「あー、なんか先日のお茶会凄かったらしいですよ?」
「リュカ、凄い?」
「はい。クーファル殿下とお話したい御令嬢が喧嘩を始めたとか聞きましたよ」
マジかよ……そりゃクーファルじゃなくても嫌になるわ。
「でもね、クーファル兄さまずっと一人でいる訳にもいかないしさ」
「そうですか?」
「え? ラルク?」
「いえ、無理にお決めになって最悪な状態になりでもしたら、クーファル殿下だけでなく相手の御令嬢も不幸になります。幸いフレイ殿下は婚姻なさってますし、無理に婚姻される必要はないかと」
なるほど。それもそうだ。気がつかなかったぜ。
「そっか。フォルセ兄さまは婚約者探しはしないと仰っていた」
「フォルセ殿下がですか?」
「うん、リュカそうなんだよ。芸術をもっとやっていたいんだって。だから、面倒な事はしない、て。もう父さまの許可ももらったらしいよ。ボクもそうしようかなぁ」
「え……!?」
「え? リュカ何?」
「殿下、ディアーナ様がおられるじゃないですか」
「え? ディアはお友達だよ」
「でも、見ていて天然加減といい、リリ殿下にピッタリですよ?」
「天然……ボクって、天然なの?」
「まあ……時々? ボケボケと言いますか……」
「えー、リュカに言われたくないや」
「えー、俺も殿下に言われたくないです」
「クフフフ、私から見ればお二人共同じ様なものなのですが」
「「えーー!!」」
まあ、リュカはマブダチだからな。うん。仕方ないさ。
「殿下、では上位魔法のおさらいを致しましょう」
俺はシオンに魔法を教わっている。相変わらず、ドSだ。
ん? 何だ? 外が騒がしいぞ?
廊下からドタドタと騒がしい足音が聞こえて、部屋のドアがバタンと開いた。
「リリ! 匿ってくれ!」
「クーファル兄さま! どうしました!?」
「殿下、何事ですか!?」
「リリ! シオン! 頼む!」
クーファルが奥の部屋へ逃げて行った。
暫くして、見知らぬ令嬢達がやってきた。
「失礼致します! こちらにクーファル殿下は来られませんでしたか!?」
なんだ、こいつらは! ド派手なドレスをチャラチャラ着飾った令嬢が4人おしかけてきた。
香水の匂いがキツくて、混ざって臭い。
「何ですか? あなた方は一体何をしているのですか!? 失礼ですよ!」
「煩いわね! それどころじゃないのよ! クーファル殿下はどこ!?」
なんだよ、何事だ? シオンの言葉を聞いちゃいねー。
「お姉さん達、落ち着いて! 何してるんですか?」
「え……!? あなたは?」
「まあ! 可愛らしい子だこと!」
「本当! 貴方うちで囲いたいわ!」
か、囲いたいだと!? 貴族令嬢がそんな事を言っていいのか!?
「ボクはクーファル兄さまの1番下の弟です」
「まあ! リリアス殿下ですか!?」
「なんてお可愛らしい!」
「え!? リリアス殿下!?」
「やだ! 私にも見せて!」
なんなんだ、こいつらは!?
「お静かにッ!!」
――バンッ!!
シオンが机を叩いた。
「あなた方は恥ずかしくないのですか!? 礼儀をご存知ないのですか!? それでも貴族の御令嬢ですか!?」
「そんなの構っていられないわ!」
「そうよ! またクーファル殿下に逃げられたわ!」
「早く見つけなきゃ!」
「お静かに!!」
――バンッ!! バンッ!!
あー、もうこれじゃあ誰だって嫌になるよ。
「お姉さん達、兄さまに会いに来られたのですか?」
「はい!」
「お約束していた様な話は、兄さまはしていませんでしたが?」
「リリアス殿下、先にお知らせしたら殿下に逃げられてしまいますわ!」
「そうです! だから、こうして突然お伺いしたのですわ!」
「何よ! 私が先に来ていたのよ!」
「やだ! 何言ってんのよ、私よ!」
今度は4人で揉めだした。
「しーずーかーにー!!」
俺は椅子の上に乗って大声を出す。
「お姉さん達、馬鹿ですか?」
俺は腕を組んで椅子の上から見下ろして言ってやった。いや、見下ろせてないけども。気分だ、気分。
「な、なんて事を!」
「クーファル殿下の弟だからと言って失礼だわ!」
「失礼なのはお姉さん達です!!」
マジ、帝国の貴族の令嬢がこれかよ? 情けねーな!
「お姉さん達、自分が同じ事をされたら嬉しいですか? クーファル兄さまが、喜ぶとでも思いますか?
お姉さん達、帝国の貴族の令嬢なんでしょ? なんて情け無い事をしてるんですか!! 今すぐ帰りなさいッ!!」
俺は出口をビシッと指さした。