233ー兄弟の婚約事情
さて、昼だ。昼飯だ。腹が減ったぜ。
アースとレイは迎えが来て、帰って行った。あの二人は、放っておくと一日中城にいるからな。最近、其々の邸から迎えが来る様になった。
アースの家の侍従が言うには、邸にいないと思ったらいつも城にいるらしい。
それはいいのか? 本当によ。俺はいいよ。賑やかでいいからさ。
城の警備がガバガバじゃね? て、思うだろ? 違うんだよ。アースとレイとディアは入城パスなる物を持っているんだ。
よくイベント等でスタッフが首から下げているアレだ。
パスを守衛に見せると入れる。城にいる間はずっと首から下げている。まあ、そんな物なくてもアースとレイは顔を覚えられているけどな。
「リリ、久しぶりだね」
食堂に行ったら、ニルが言っていた通り、テュールとフォルセがいた。
シェフが昼食を出してくれる。今日も美味そうだ。
「フォルセ兄さま。なかなかお会いできませんね。お忙しいのですか?」
「今日は兄上と少し出掛けていて、さっき戻ってきたんだ。僕は今アトリエにこもっているからね」
「アトリエですか!?」
「うん。今彫刻に挑戦してるんだ」
「凄いです! 兄さま、バイオリンだけでも凄いのに!」
「アハハ、リリありがとう」
フォルセのバイオリンは有名だ。とんでもなく上手で、バイオリンなんて全く知らない俺でも凄いと分かる。
何度か発表会みたいな、コンクールみたいなので演奏しているフォルセを見たが、これまたとんでもなく可愛かった。いや、上手だった。
「リリ、父上から剣を頂いたか?」
「はい、テュール兄さま。ボクはまだ子供用の大きさですが。兄さまも?」
「ああ、ロングソードを頂いた。あのミスリルはリリが発見したんだって?」
「たまたまクーファル兄さまと調査に行った鉱山にあったんです」
「リリ、すぐそこにあったみたいな言い方だね」
「クーファル兄さま」
「兄上、ありがとうございました」
「ああ、フォルセ。あれで良かったのかな?」
「はい! 助かりました!」
クーファルは、また色々面倒みてるんだろうなぁ。フォローのクーファルだからな。
「……ん〜! 美味しい〜!」
「殿下、有難うございます」
「ああ、シェフ。シェフにも剣があるんだ」
「兄さま! 本当ですか!?」
「ああ。リリのシェフは戦うシェフだからね」
「やった! シェフやったね!」
「クーファル殿下、私に剣ですか?」
「ああ。いつも食事だけでなく、リリを守ってくれているからね。シェフにも新しい剣を用意したんだ。手が空いたら私の執務室まで来てくれないか?」
「はい。有難うございます」
嬉しいね。シェフにもミスリルの剣だ。
「ん? シェフ、どうしたの?」
「はい……リリアス殿下。料理人の私が剣を頂いても宜しいのでしょうか?」
「何言ってんの! シェフは唯のシェフじゃないよ。戦うシェフなんだよ。戦うには剣が必要じゃない! それにね、良く斬れるからワイバーンも一発かも知れないよ?」
「そんなにですか!? それは是非とも頂かないと!」
はい。食料に関係するとイチコロだよ。
でも、本当に良かった。だってシェフは騎士に叙任したい位なんだからな。
「リリ、良かった」
「クーファル兄さま、ありがとうございます!」
「ああ」
クーファルがニッコリしてくれる……そう言えば……
「クーファル兄さま、婚約者はどうなったのですか?」
「あーリリ、うん。お茶会は開いたんだけどね」
「兄上、また……」
「ああ、兄上。悪いクセが……」
「テュール、フォルセ。君達は酷いね?」
「え? 兄さま、何ですか?」
「いや、リリ。ほら女性達は凄いだろ?」
クーファル、凄いとは何だ? 意味分からんぞ?
「ほら。私も! 私が! て言うのがね」
「ああ、目がギラギラしてますよね」
「そうなんだよ。それを見てると面倒になってしまってね。馬鹿らしいと言うかね」
「あー……」
「やっぱり……」
「まあ、仕方ない……」
コレは順に、俺、フォルセ、テュールの言葉だ。みな、少し呆れている。
「そう言うけど、テュールとフォルセも決めないと」
「あー、僕はパスです。もう父上の許可ももらいました」
「フォルセ兄さま?」
「僕はずっと芸術に携わっていたいんだ。だから、煩わしいのはごめんなんだ」
「あらら……」
「リリ、あららじゃないぞ。フォルセに何とか言ってやってくれ」
「テュール兄さま、フォルセ兄さまがそう思ってるんですから無理強いしても駄目です」
「リリは良く分かってるね〜! リリ可愛い!」
「え、何言ってるんですか。可愛いのはフォルセ兄さまですよ。ボクのお友達も、言ってました。本当に可愛いと。本当に人か? とか言ってましたよ」
「アハハハ、何だよそれ。ちゃんと人だよ」
「テュールはどうなんだ?」
「俺はクーファル兄上が決めてからですよ」
「私の事は気にしなくていいからね」
「いえ、クーファル兄上が決めてからです」
あー、みんな嫌なんじゃん。気持ちは分かるけどさ。だってあのギラギラと血走った目の令嬢達を見ると引いてしまうよね。
「テュール、アカデミーとかに居なかったのかい?」
「それは兄上ですよ。誰かいないんですか?」
「いや……もう……付き纏われるのが面倒でね」
「俺もです」
「あらら……」
「フフフ、リリは可愛いね〜」
「え? フォルセ兄さま?」
「リリが赤ちゃんの時を思い出すよ」
「フォルセ、そうだな」
「私は天使が産まれたのかと思ったよ」
「クーファル兄上もですか?」
「僕も思いました!」
もう、兄3人は好きにしてくれ。
「リリ、本当だよ? フィオン姉上なんて泣いてしまって大変だったんだよ」
「え……」
泣いたとは!?
「そうだった。フォルセも覚えてるのか?」
「クーファル兄上、忘れられませんよ。あれはフィオン姉上、号泣してましたよね」
「あらら……」
駄目だ。目に浮かぶわ。
「アハハハ、リリ他人事だね〜」
「フォルセ兄さま、だってボク覚えてませんから」
「そりゃそうだな。リリは産まれたばかりだからな」
「テュール兄さまもですか?」
「ああ。リリが産まれた時は、泣き声が聞こえた時に光が射したんだ」
「光?」
「ああ。そうだ。急に雲が晴れ始めてリリの泣き声と共に雲の切れ目から一斉に光が射した。あの光景は忘れられない」
「そうだね……」
なんだよ、兄3人遠い目をするなよ。俺は知らねーよ?