230ーミスリルの剣
皇后様に話を聞いて、俺はちょっと元気になった。城を出て行くか行かないか、決めるのが何年も先なら俺ももっと平気になっているだろう……と、思う事にした。
で、俺は今日もまたオクソールのシゴキでヘロヘロになっている。
「ハァ……ハァ……マジ……容赦なさすぎ……ハァハァ」
「殿下、何を仰います。まだまだですよ。リュカなんてピンピンしてますよ?」
「いや……ハァ……オク……獣人と10歳の子供を一緒にするのは止めて……ハァハァ……」
マジ、頼むぜ。
「オクソール様、納品されましたよ!」
「リュカ、そうか」
スポドリもどきを取りに行っていたリュカが詰所の方から走ってきた。
「え? リュカ何?」
俺は、リュカからスポドリもどきをもらって飲む。
やっと生き返ったぜ。
「殿下、ほら鉱山でミスリルを発見したでしょう。あれで剣が出来たんですよ。騎士団の分がさっき納品されました!」
「スゲーじゃん!」
「はい!」
「リリアス殿下、オクソール殿、リュカ」
「あら、セティ」
鍛練場にセティがやってきた。珍しい。
俺は汗を拭いて自分にクリーンをかける。
「リリアス殿下、鍛練ですか?」
「うん。今、半分死んでたとこ」
「アハハハ、半分死んでましたか」
「うん。毎日ボク半死だよ」
「それはそれは。そろそろ死なない様になりませんか?」
「セティ、オクのシゴキを知らないからそんな事言えるんだ」
「おや、それほどですか?」
「うん。それほどだよ。で、どうしたの?」
「はい。オクソール殿とリュカ、執務室まで来て下さい。殿下もご一緒にどうぞ」
あら? 何だろうね。俺はそれよりミスリルの剣を見たかったぜ。
セティについて父の執務室に向かう。
騎士団の其々の団長4人も一緒だ。珍しい。
父の執務室に入ると、フレイとクーファル、二人の側近もいた。
「もうご存知だと思いますが、ミスリル製の剣を騎士団に配布しました。皆さんには、別にお渡ししますのでお集まり頂きました」
「セティ、ミスリルの剣か」
「はい、フレイ殿下。では陛下」
あれ、俺は関係なくない? 俺、剣なんて持ってないしさ。
「リリ、関係あるんだよ」
「父さま?」
「クーファルとリリで調査に行ってもらった鉱山でミスリルが発見された事は知っているな? そのミスリルで騎士団と近衛師団の全員の剣を作る事ができた。
そして、各隊長と1等から3等騎士には別の剣を配布する事にした。フレイ、クーファル、リリにもだよ。其々の側近にもね」
おー、かなりの量のミスリルが採れたんだな。テュールとフォルセにもあるそうだが、二人は今城にいないそうだ。なんでも、フォルセが彫刻につかう材料を集めに行っているらしい。本格的じゃん。
「では、まず隊長から」
第1から第4騎士団の隊長が剣を受け取る。声には出さないが、おおー! て感じが伝わってくる。
そして順に、オクソール、リュカが受け取った。
フレイ、クーファルも受け取り、俺も父から剣を渡される。
「リリ、まだ早いかとも思ったんだけどね、でもテュールは10歳の時に既に剣を持っていたから。リリも子供用の長さなら使えるかと思って用意したんだ」
「はい。父さま、有難うございます」
うわ、カッケー! ミスリルだぜ。俺は剣なんて使った事ないけどな!
ポンメル(柄頭)には、帝国の国章が入っている。グリップ(握り)には、白っぽい地肌にグリーンブロンドの皮紐を螺旋状に巻いてある。ガード(鍔)は形はシンプルだが細かい彫刻で飾られている。
グリーンブロンドで装飾された淡い白の鞘から抜くと、剣身の根元に俺の名前と国章が彫ってある。なんか嬉しい。
俺のは父が言った様に、兄達が持っている剣を少し短くして剣身も細目にしてある。だから力のない俺でも苦なく持てる。
顔を上げて周りを見ると、皆も同じ様に自分の剣を見ていた。
「ここにいる者の剣には、剣身の根元に名前と国章を入れてある」
父がそう説明すると、セティが続ける。
「帝国の最強の騎士と言う証です。
今回、ミスリルを加工した職人の話によると、今迄他国から購入していたミスリルより純度が高いそうです。
ですので、魔力の馴染みも格段に違うそうです。そして、やはりミスリルです。何より硬いですよ、今回の剣はよく斬れます。これ迄の様に気絶させるつもりでも、斬ってしまう場合もあるかも知れません。お気をつけ下さい。特に、リリアス殿下」
えっ? 俺? 俺、何もしてねーよ?
「殿下の剣はお身体に合わせて小さくしてあります。その剣で大人を殴って気絶させるのは無理でしょう。
ですので、御身をお守り頂く為にも、躊躇せず斬って下さい。良く斬れますよ」
そう言ってセティはニッコリ笑う。
怖ーよ! なんだよ、それ。超怖い!
「……はい」
頷くしかねーじゃんよ!
「リリ、その剣にあわせてこれは父様からプレゼントだ」
父が、剣に合わせた少しグリーン掛かった淡い白の革の剣帯をくれた。
セティがつけてくれる。
柔らかい革でできていて、中心に帝国の国章のバックルが付いている。革全体に凸凹を作って葉の様な模様が彫刻してありグリーンブロンドの色をつけてある。だからグリーン掛かって見えるんだ。俺には勿体ないぜ。
「リリ、その剣帯に彫られている葉のモチーフには意味があってね」
昔からリーフモチーフは『成長』『希望』『再生』『復活』を表し、願いを成就させてくれるモチーフと言われているそうだ。
そう言えば……前世日本ではお馴染みの唐草模様。『永遠』『無限』の象徴ではなかったか? え? おっさんクサイ? マジで?
「リリにピッタリだと思わないかい?」
「父さま、有難うございます」
「リリ、来なさい」
フレイに呼ばれた。ヒョイヒョイと手招きしている。
側に行くと、フレイは剣帯を少しずらして、剣を腰の後ろに横向きにつける。
「うん。もう少し背が伸びるまでこっちの方が剣を抜きやすいだろう。動きもスムーズだろ?」
「フレイ兄さま、有難うございます」
確かに。フレイが手直ししてくれた方が動きやすい。
「リリ、剣の抜き方を教わるといい。お前、まだ抜いた事ないだろ?」
「はい。兄さま、ありません」
「慣れないと手を切るからな。テュールも慣れない時に何度か切っている」
「テュール兄さまが?」
「ああ。テュールは早くから剣を持っていたからな」
「おー、凄い」
「オクソール、頼む」
「はい、フレイ殿下」
ん? コレッてもしかして、シゴキメニューが増えてないか? マジ止めて。