229ー母は大好き
どうしてこう女性陣は頑固なのか。
薬草を採取したい、この目で見たいと言う気持ちも分かるが……
「シャル様、薬草と言えばボクは北の方の森か湖の方を思い浮かべますが」
「ええ、リリアス殿下。そうですね。北の方の森やミーミユ湖で薬草が採れるのは有名ですわね。
でも、辺境伯領の森にもそこにしかない薬草があるはずなんです。まだ、発見されていないだけで。
ですからね、私は行きたいのです。自分の目で見て確認したいのです!」
ん? まだ見つかっていない、あるかどうかも分からないと言う事か? 探すと言う事か? それは無謀だ。
「でも、シャル様。辺境伯領の森はボクも実際に行きましたが、魔物が次から次へと出ますよ?」
「え……魔物ですか……?」
「はい、魔物です。当然、出ますよ」
「あの……それはどんな感じの……?」
「どんな、て……小型から大型まで様々です。虫型やでっかい蛙もいました」
「うぇ……」
シャルフローラが両手で口をおさえて驚いている。これは魔物の事、頭から抜けてたな。
「エイルさまぁ〜!」
「シャル、私にはどうしようもありませんわ」
「あの……護衛を付けて頂くとかは出来ませんか?」
まだ引き下がらないか……
「シャル様お一人の為に、何十人も付けるのですか?」
「リリアス殿下、そんな何十人もは……」
「いえ、必要ですよ。それだけ魔物が出ます。油断したら即アウトです。本当に次から次へと出ます」
「そんな……それは……」
「多分、フレイ兄さまはその事も考えた上で、止めておく様にと言ったのではないですか?
あるかどうかも分からない薬草の為に、危険な場所に行かせる訳にはと、兄さまは考えたのではないでしょうか? 最悪、シャル様だけでなく、何十人もの騎士も危険な目に合わせる事になりますから。
もう1度、兄さまと相談なさったらどうですか?」
「……そうですわね。リリアス殿下の仰る通りです。申し訳ありません。私、落ち着いて考えます」
うん、それがいいよ。だって本当に魔物は出るからな。あの森で、あるかどうかも分からない薬草を確認とか、本当に無理だよ。自殺行為だぜ?
シャルフローラは肩を落として戻って行った。
「リリ、私は今初めて聞いたけど、そんなに魔物が出る森にリリは行ったのね?」
「え……? 母さま? だってその調査でしたから。父さま言ってませんでしたか?」
「聞いてないわ」
「あらら……」
これは……俺、余計な事を言ってしまったか?
「じゃあユキがいたのも、その森かしら?」
「はい。1番奥です。目の前が河でしたから」
「なんて事……! まだ5歳だった子供をそんなところに行かせるなんて!」
「母さま、ボクは無事でしたし。オクやリュカ、シェフもいましたから」
「リリ、そんな問題ではないわ。私、陛下のそういう所が理解できないわ。私の大事なリリに、何をさせているのかしら」
あー、母が完全に怒っているぞ。漫画だと、こめかみに怒りマークが描かれていそうだ。
でもなぁ、こうして単純に俺の事を思って怒ってくれる母は嬉しい。
「母さま、有難うございます。ボクは母さまが大好きです」
俺は母に抱きついた。母は抱き寄せながら、頭を撫でてくれる。
「まあ、リリ。母様もよ。リリの事は大好きよ。だからね、何も無かった事にはできないわ。陛下に進言するわ」
こうなったら母は誰にも止められない。父よ、すまんね。怒られてくれ。
結局、シャルフローラの同行は無くなった。フレイと話したんだろう。大人しく諦めたみたいだ。
実際、あんな場所で薬草の調査なんて無理だしな。
まあ、良かったよ。危険はない方がいい。それに、今回は俺のお休みだからな。
なんか、忘れられてそうな感じもするが、俺のお休みなんだぜ?
そして案の定、父は母にこっ酷く怒られたらしい。今度そんな危険な所に俺を行かせたら、お暇するとまでまた言ったらしい。
母は純粋に俺を心配してくれる。それがとても嬉しい。
俺が辺境伯領へ行く準備に気を取られていた頃、城でまたお茶会が開かれる事になった。
皇后様主催のお茶会だ。と、表向きはそうなっているが、ぶっちゃけクーファルの婚約者候補を選ぶ為だ。
ちょっと俺はブルーだ。
何故なら、婚姻したらクーファルは城を出るかも知れないからだ。何回も言ってるけどな。
「リリアス、どうしたの?」
「皇后様……」
城の庭の少し奥にある、お気に入りの四阿にリュカといる時に皇后に話しかけられた。
「元気がないと聞きましたよ?」
「そんな事はないです。ボクは元気ですよ」
「リリアス、私は貴方を産んではいないけれど、私の実の子だと思っているわ。私にも話してくれないかしら?」
「皇后さま……有難うございます」
俺は、少しずつ話した。離れるのが嫌だと。クーファルまで城からいなくなるのは寂しいと。
「リリアス、貴方は優しい子だから。
でもね、それを説明したのは誰かしら?」
「はい、クーファル兄さまです」
「そう……言葉が足らなかったわね。
クーファルが婚姻しても、必ず直ぐに城を出なければならない訳ではないのよ。出なければならないと決まってもいないわ」
「え……?」
「陛下が譲位されて、フレイが皇帝になったら考えなければならないわね。婚姻相手の家に入る場合もそうね。
でも、クーファルはそんなつもりはないみたいよ?」
「皇后様、どう言う事ですか?」
「婚姻相手のお家に入る事は理解できるかしら?」
「はい」
まあ、婿養子だよな?
「その時は当然お相手の家に移るわ。でも、そうじゃない場合もあるのよ。
例えば、公爵位を頂いて独立する場合ね。クーファルはそうするつもりみたいよ。婚姻したら今いる皇子宮からは出なければならないわ。その後ね。独立して出るのも良いし、一代限りだけど、城の中に自分の宮を貰う事もできるわ。
どっちにしろ、フレイが皇帝になってからよ。それまでは皆城に残るわよ」
「え……そうなのですか?」
なんだよ。クーファル、ちゃんとそう説明してくれよ。俺は婚姻したら直ぐに出て行くのかと思っていたぞ!