228ーシャルフローラ
「ラルク? どうしたの?」
「いえ、伯父から聞いていた通りのお方なので嬉しくなってしまいました。失礼致しました」
えー、セティ。何言ってたんだよ。怖いぜ。
「フハハ……殿下、私は次男です。兄も一緒に側近の教育は受けますが、兄は家を継ぎます。私は、小さい頃から殿下にお仕えする為に教育を受けてきました。
まだ殿下が学園に入学もされてませんし、本決まりになるのは殿下が卒業されてからになりますが。私は殿下にお仕えしたいと思っております。改めまして、どうぞ宜しくお願い致します」
「そうか。ラルク、こちらこそ宜しくね」
「はい、有難うございます」
「ラルク、父があなたに殿下の事をどう話していたかは知りませんが、大切なのはラルク自身がどう感じるかです。貴方の目でみた殿下を信じなさいね」
「はい、ニル様」
「フフフ……」
「ニル、なあに?」
「いえ、殿下。小さい頃から私の事を、ニル姉と呼んで後をついてきていたのに。大きくなったと思いまして」
「やめて下さい。ニル様。恥ずかしい」
「そうなんだ。ラルク、無理しないでね。ボクの為なら何をしてもいい訳じゃないからね」
「はい、殿下。心得ております。伯父に、殿下だけでなく自分も守れる様になりなさいと言われました」
「そうか。ならいいよ」
うん。なかなかいい感じだ。
「ラルク、辺境伯領に行くのはボクのお休みなんだ。フィオン姉さまの子供に会いたくて。だから、気楽にしてね」
「フィオン様のですか。あちらの次男の方に嫁がれてましたね」
「うん、そう。姉さまの子供だけじゃなくて、ゆっくり会いたい人達もいるんだ。ボクの友達も行くし」
「あちらへは、転移門ですか?」
「そうだよ。もしかして、ラルクも転移門は嫌?」
「いえ。どんな物かも分からないので、嫌も何もありません」
「そう。一瞬だから、平気だよ」
そんな話をしながら俺は母のマジックバッグを作る。ラルクがガン見している。
「殿下は簡単に作っておられますが……私には作れないでしょうか?」
「さあ、どうかな? ボクの友達のレイが挑戦したけど駄目だったんだ」
「ジャフティ侯爵のご子息でしたか」
「そうそう。レイは優秀だから作れると思ったんだけどなぁ。ラルク、属性は何?」
「私は水です」
「ニルと一緒だ」
「はい、父の方の家系が水属性が多いです」
「ニル、そうなの? じゃあ、お姉さんは?」
「姉は風属性です。母も風です」
魔法の属性も遺伝なのかね。よし、完成だ。
「ニル、できたから母さまに持って行きたい」
「はい、では聞いて参ります」
「うん、お願い」
「まあ! リリ、有難う!」
完成したマジックバッグを持って母の部屋に来ている。完成したマジックバッグを渡すと、早速侍女が不思議そうに見ている。
そうだよな。まあ、だいたい皆最初はそんな感じだよ。
「貴方がラルクね」
「はい。エイル様、お初にお目に掛かります」
「あのセティの甥だと言うから、どんな子なのか楽しみにしていたのよ」
――コンコン
「突然申し訳ありません。エイル様、シャルフローラです。よろしいでしょうか?」
ん? フレイの奥さんだ。どうしたんだ?
俺の母と、フレイの奥さんと実は歳が近い。そんな事もあって、仲良くしているらしい。ま、母の性格も大きいのだろうがな。
俺の母はいわゆるコミュお化けだ。一切物怖じする事なく、相手の懐に入っていく。人見知りなんて言葉がこの世にあるのか? て、感じだ。
「あら? どうしたのかしら?
かまいませんよ。お入りなさい」
「失礼致します」
そう言いながらシャルフローラが入ってきた。
「リリアス殿下、いらしてたのですか?」
「うん。母さまに用事があって。じゃあボクはこれで」
と、さっさと退出しようとしたのだが。
「リリアス殿下、宜しければ殿下も一緒に聞いて頂けませんか?」
えー、なんだよ。女の人の話て長いし面倒だから嫌だ。
「え……」
「殿下、是非……!」
おいおい、押し切られちゃったぜ。フレイの奥さんてこんなキャラだっけ?
「エイル様、リリアス殿下、ご相談があるのです」
「どうかしたの? 何かあったの?」
「あ、もしかして兄さまと喧嘩したとか?」
「いえ、殿下とはそんな……仲良くしてます。お優しいですし……」
あー、そうかよ。恥じらってるよ。はいはい。
「いえ、そうではなくて! 私も辺境伯領にご一緒してはいけませんか!?」
「「はい?」」
「辺境伯領に行かれると聞きました! もっと早く教えて下されば良いのに、フレイ殿下は昨日教えて下さったのです。昨日ですよ? どう思われますか? きっと、教えれば私も行きたいと言い出すのが分かっていたから、ギリギリまで黙っておられたんだわ!」
え? え? 待って。スゲー一気に言われたけど。マジ、キャラ変してるぜ?
「シャル、落ち着きなさい。それでどうしてあなたも行きたいの?」
「エイル様、だって辺境伯領ですよ! そんなの行きたいに決まってるじゃないですか!
あの領地の森には珍しい薬草もある筈なんです! 絶対に見つけて持って帰りたいんです! それに、実際にどんな所に、どんな風に自生しているのか見てみたい!」
あー、なるほど。こんなタイプだったのね。おじさんビックリしたよ。
「母さま、ではボクは失礼して……」
「リリ、それは駄目」
やっぱり脱出不可能かよ。
「エイル様、リリアス殿下、お力添え頂けませんか? 行きたいのです!」
「シャル、フレイ殿下は何と?」
「殿下は良いのです」
「シャル、良くないわよ?」
「……はい。危ないからと」
「危ないから? それで?」
「止めておけと……」
「なら、仕方ないわよ」
え、母がそれを言う? 俺、今でも覚えてるぜ。王国に行く時の母の言葉。行ってからも聞いたぜ? 「譲りません!」て、言ってたよな?