226ー気持ちは辺境伯領
「殿下、お久しぶりです」
5歳の時にアースとレイと一緒に友達になったディアーナことディアだ。
アースとレイはちょくちょく遊びに来るが、侯爵令嬢のディアーナはそうもいかない。
何故かと言うとだな。俺の婚約者を狙っていると思われるからだ。
だから、来る時は必ずアースとレイと一緒に来る。
「ディア、久しぶりだね」
「殿下が、辺境伯領に行かれると聞いて参りました。アースとレイも一緒だとか。大丈夫でしょうか?」
「ディア、失礼だな!」
「アース、だって心配だわ」
「アースはすぐ突っ走るからな」
「レイ、心配なのはあなたも一緒よ」
「ディア、それは失礼だな」
なんだよ。二人して同じ事言ってるぜ。
「ディアも一緒に行けたら良かったのに」
「アース、それは無理よ」
「そうだね。ディアは侯爵令嬢だからね」
「あら、リリ殿下。殿下だって皇子殿下なのですよ?」
そうだった。俺、皇子だったぜ。
「フフフ、何日程行かれるのですか?」
「予定では1週間だよ。帰ってきたらまたおいでよ。向こうでの楽しい話を用意しておくからさ」
「はい、殿下。有難うございます」
いやぁ、10歳とはいえ女子がいると場の雰囲気が変わるね〜。和むわ〜。
「殿下、和んでいる所すみませんが」
なんだよ、リュカかよ。現実に引き戻された感じだよ。
「リュカ、なに?」
「シェフが、スィーツをご用意したので四阿にどうぞと」
「まあ! リリ殿下。スィーツですって!」
食い気かよ! ディアはまだ食い気優先かよ!
「あー、じゃあ行こうか」
まあ! 何と言う事でしょう!
「殿下、これはシェフ張り切りましたね」
「リュカ、本当だね。きっとディアが来てるからだよ」
「そうッスね。それしかないッス」
色とりどりの花に囲まれた四阿の丸いテーブルに何種類もスィーツが並んでいた。まるで、スィーツの玉手箱やで〜! みたいな感じだ。
「それで、今回は何のお役目ですか?」
ディアが、お上品にスィーツを食べる手を止めて聞いてきた。
「今回はボクのお休みだよ。フィオン姉さまの子供に会いに行くんだ」
「まあ、それは良いですね。もうお幾つになられるのですか?」
「2歳だよ。絶対に可愛いよね!」
「殿下……俺、ちょっと不安で……」
「え? アース。魔物は大丈夫だよ?」
「いえ、魔物じゃなくて……その……」
「殿下、アースは行き帰りの転移が不安なんですよ。普段、拘らないくせにこう言うのは苦手なんですよ」
「レイ、そんな言い方しなくてもさぁ!」
「だって本当だろ? ちょっと怖いくせに」
「レイ! 怖くはない! 怖くはないんだ!」
「アース、落ち着いて。じゃあ、何が不安なの?」
「殿下、だって転移ですよ、転移! そんな……俺、訳分かんない!」
「アハハハ! アース、大丈夫だよ。ボクは何度も転移してるし、転移門じゃなくても転移した事あるよ」
「えっ!? 殿下、転移門を使わずに転移するんですか?」
「うん、レイ。そうだよ」
俺は王国で、ユキと転移した事を話した。
「リュカも何度も一緒に転移してるし、オクもしたよ?平気だよ。一瞬だから」
「殿下は転移できるのですか?」
「ディア、ボクもできるよ。王国から帰ってきてからルーに教わったから」
「えッ!?」
「殿下も!?」
「え? うん。何?」
「いえ、やはり魔力量ですか?」
「うん。レイ。そうだね」
「まあ! これとても美味しいわ!」
「ディア、どれ?」
「……レイ」
「ああ、アース……」
「ディア、辺境伯領のミルクもチーズも卵も凄く美味しいの。お土産に持って帰ってくるね」
「まあ、嬉しいです」
「殿下もディアも食い気ですか」
ん? レイ呆れてる? あらら? アースもか? だって、本当に美味いんだぜ?
それから出発まで、またレイの魔石に付与する練習を続けた。
やっぱ、ルーが言う様に使えば使う程上手になるのが見ていて分かる。
「レイ、上手になったね」
「殿下、まだまだですよ。こんな1個ずつチマチマやってたら……」
「レイ、違う違う。早さじゃなくて、内容だ。1個ずつ丁寧にだ」
「殿下、でも殿下はまとめて付与してましたよね?」
「あー、うん。ボクはね」
「まだまだです。魔力量を増やさないと」
「レイは魔術アカデミーに進む訳じゃないのに」
「殿下、僕も守りたいですから」
あー、言ってたなぁ。そっか。なら……俺から言う事は一つだ。
「レイ、頑張って」
「はい! 殿下」
レイは魔石に防御の付与は出来る様になったが、やはりまだ空間魔法は使えなかった。
俺は、レイとアースに大小二つのマジックバッグを贈った。荷物が嵩張るのは大変だからね。
大きいのは、使用人が荷物を入れるだろう。小さいのは、俺がいつも腰につけているのと同じ様な感じで使ってくれたらと思う。
アースとレイ本人より、二人の家から超感謝されてしまった。大事に使わせてもらうと、わざわざお礼状までもらった。そんな、いつでも作るから大袈裟にしないでと、返事しておいた。
「殿下、失礼致します」
「リュカ、どうしたの?」
「陛下がお呼びです」
皇帝が? なんだろう?
「分かった。直ぐ行くよ」
出発まであと2日となった日に、父に呼ばれた。
「リュカ、何だろ?」
「さあ、私は何も」
「そう……まさか、辺境伯領に行くの中止とかじゃないよね?」
「まさか、それはないでしょう」
「だよね〜」
今更中止とか言われたら、俺暴れるぜ? マジで。
「父さま、リリです」
「入りなさい」
リュカがドアを開けてくれる。父の執務室には、いつも通りセティがいた。
あと、知らない男の子が一人いた。