223ー叙任式
とうとうやって来た。オクソールとリュカの叙任式の日が。
俺は、白にグリーンブロンドの刺繍の入った正装だ。
今日は、白に同じグリーンブロンドの帝国の紋章の刺繍入りのマントに、右肩に襷掛けにしている緋色のサッシュ、その上から重々しい黄金の頸飾を下げた姿だ。正装フル装備だ。
皇族でも10歳迄はこの様な公式行事への出席は免除されている。
だから、10歳になった俺の初めての公式行事への出席が、オクソールとリュカの叙任式になったんだ。
そりゃあ、ビビるよ。正直、心臓バコバコだ。震えそうだ。
「リリ、良く似合っているよ」
「父さま」
父も同じ様に、正装をしている。ただし皇帝は、マントの色が緋色だ。
サッシュと頸飾も下げている。
父は良いよ。慣れているだろうし、正装もお似合いだ。
俺なんて、こんなの今日が初めてだ。おまけにこんなチビがマントなんて、似合う訳ねーよ。
「リリ、本当だ。良く似合っているよ」
「クーファル兄さま。泣きそうです」
「アハハハ。リリ、そう緊張するな!」
フレイは他人事だ。
「リリ、大丈夫だ。落ち着いて」
これは、テュールの言葉だ。
「そうだよ。リリなら大丈夫だ」
フォルセは励ましてくれる。
「リリ、大丈夫よ。あなたより、リュカの方がガチガチだから」
「母さま。そうなんですか? 大丈夫かな……」
「フフフ、リリアス。人の心配が出来るなら大丈夫よ」
「皇后様」
「リリアス殿下、ご立派ですわ」
あ、これはテュールとフォルセの母、第1側妃のナリーシア・ド・アーサヘイムだ。
初登場だな。おとなしい、おっとりとした人だ。
「ナリーシア様、有難うございます」
そうさ、今日は皆正装で勢揃いなんだよ。
あー、マジ心臓もたねー。
騎士の叙任式は、城の謁見の間で行われた。
皇帝以下、皇族全員出席だ。
皇帝を真ん中に、向かって右側に皇后様、側妃二人が並び、左側に皇子が順に並ぶ。俺は1番末席だ。
そして、高位貴族や大臣、官職の長達も出席して叙任式を見守る。
とうとう、皇帝の口上が始まった。
「騎士は、その気高い勇気、善い振る舞い、寛大さ、そして名誉をもって、人々より愛され畏敬される存在でならねばならない。
弱き者を尊び、守護者であること。
その生まれしアーサヘイム帝国を愛すること。
いついかなる時も、善と正義の味方となり、不正と悪に立ち向かうこと。
そして、今日この時に誓いし自らの主君に仕え、主君を護ること。
オクソール・ベルゲン。
汝を、1等騎士ナイト・オブ・ジャスティス(正義の騎士)に叙任する。前へ。
帝国第5皇子、リリアス・ド・アーサヘイム。此れへ」
俺が前中央に出ると、オクソールが俺の前に片膝をつく。
そして、静かに剣を鞘から引き抜くと刃に対し両手で添える様に俺に預ける。
俺は、剣を受け取り左肩それから右肩に剣を当てた。
オクソールの騎士の誓いの言葉だ。
「我が身は敵を切り裂く光の剣であり
凶刃から守る光の盾であり
御身の支えとなる光の杖
片時も離れず寄り添い、御身をお守りし、我が命朽ち果てても忠誠を誓います」
「汝、私を裏切らぬ事
汝、如何なる時も礼節を守り他の騎士や国民の規範となる事
汝、国民を守る事を誓う事
その身朽ちても、魂は永遠に私と共にある事
オクソール・ベルゲン。此処に、リリアス・ド・アーサヘイムはそなたの忠義、しかと受け取った」
誓いの言葉が終わるとオクソールは、剣を両手で恭しく口先に寄せるとキスをした。
そして、ゆっくりと剣を戻した。
「オクソール・ベルゲン
我、汝を騎士に任命す」
オクソールは、右手を胸に添え頭を下げる。臣下としての最敬礼だ。
次は、リュカだ。やる事も誓いの言葉も同じなんだが、オクソールよりも緊張する。リュカ、頑張れ。
「リュカ・アネイラ。
汝を3等騎士、ナイト・オブ・マジストラル・グレース(主の恩寵の騎士)に叙任する。前へ」
リュカもオクソールと同じ様に跪き、静かに剣を鞘から引き抜くと、俺に預ける。
俺は、剣を受け取り肩に当てた。
リュカの騎士の誓いの言葉だ。
「我が身は敵を切り裂く光の剣であり
凶刃から守る光の盾であり
御身の支えとなる光の杖
片時も離れず寄り添い、御身をお守りし、我が命朽ち果てても忠誠を誓います」
「汝、私を裏切らぬ事
汝、如何なる時も礼節を守り他の騎士や国民の規範となる事
汝、国民を守る事を誓う事
その身朽ちても、魂は永遠に私と共にある事
リュカ・アネイラ。此処に、リリアス・ド・アーサヘイムはそなたの忠義、しかと受け取った」
誓いの言葉が終わるとリュカは、剣を両手で恭しく口先に寄せるとキスをした。
そして、ゆっくりと剣を戻した。
「リュカ・アネイラ
我、汝を騎士に任命す」
俺がそう言うと、リュカは右手を胸に添え頭を下げ、最敬礼をした。
こうして、無事に叙任式は終わった。
今日はリュカも、オクソールと同じ白の正装にネイビーブルーのマントだ。
右肩から、緋色のサッシュ、その上から黄金の頸飾も下げている。
いかん。リュカには思い入れが強いんだよ。もちろん、オクソールもだ。
叙任式が終わり、披露パーティーに移行して晴れ姿の二人を見ていると涙が流れてくる。
「殿下、リリ殿下。泣かないで下さい」
リュカが目線を合わせて、涙を拭いてくれる。
「ゔッ……リュカ、良かった。オクも、良かった……ゔッ、おめでとう」
「殿下、これからもお側でお守りします」
「うん、うん。オク……グシュ」
オクソールに抱きつくと、ヒョイと抱き上げられる。俺もう10歳なんだけど。
「あらあら、リリ。とうとう泣いちゃったのね。我慢していたものね」
「母さま……グシュ」
母もハンカチで涙を拭いてくれる。
もう、俺。涙もろすぎねーか!?
「殿下、泣かないで下さい」
「うん、オク……ゔッ。リュカ、待たせてしまってごめんね」
「殿下、何を仰います! 私は、殿下に誓う事が出来て嬉しいのです……ッう」
「有難う。二人共、有難う。リュカも泣いてるじゃん……ゔぇッ」
「殿下のがうつったんですよ……」
父や兄達も、やって来た。
「リリ、お前を守ってくれる最強の騎士二人だ。
オクソール、リュカ。これからも、リリを頼む」
「「はッ!」」
こうして、オクソールとリュカの叙任式は無事に終わった。