222ーオクソールとリュカの思い
リュカの叙任式。やっとだ! リュカ、長かったよな。よく頑張ったよ。
ヤベッ! 俺、涙出そうだ。
リュカは俺が3歳の時に助けた獣人だ。
希少種で純血の狼獣人だから、狙われて血を流して倒れている所を助けた。
それから、リュカの希望で俺の従者兼護衛として付いてくれている。
帝国では、皇族の従者や侍女、側近になる者は決められた家系から選ばれる。
汚職や不正を防ぐ為に、建国当初からの決まりだ。
だから、リュカは異例だった。あくまでも、従者兼護衛候補の立場だった。
元々獣人だから身体能力は高い。
リュカは、ずっと従者としての勉強をして、オクソールに付いて鍛練もしてきた。
今や騎士団の中だと、オクソールの次に強いだろう。騎士団の中に限ってな。
何故かと言うと、シェフがリュカより強い。意味分からん。
そして、やっと叙任式だ。普通は、騎士団に入団する時にする。
第1騎士団に入る者は、フレイに。
第2騎士団に入る者は、クーファルに。
騎士の誓いをする。
リュカは騎士団に入る訳ではない。
オクソールも厳密に言うと、騎士団ではない。オクソールは騎士として、上級騎士の位を叙任されている。
2等騎士 ナイト・イン・オヴィディエンス(忠誠の騎士)だ。
今、帝国には1等騎士はいない。よって、オクソールは騎士の頂点と言える。騎士を目指す者、全ての憧れオクソール。獅子の獣人だ。
俺の専属護衛騎士なんて、もったいないわ。
リュカは、3等騎士、ナイト・オブ・マジストラル・グレース(主の恩寵の騎士)に、叙任される予定だ。
この3等騎士は、他にもある。
ナイト・オブ・オナー・アンド・デヴォーション(名誉と献身の騎士)と言う。
これは、代々貴族家系に限る。騎士団長が、この3等騎士にあたる。
リュカは、騎士団長と同じ権限を持つ事になる。そしたら、王国に行った時の様に、謁見の間に入れないなんて事はなくなる。
あの時、あと扉1枚だと思ってからもう3年も経ってしまった。
3年前に、正式に俺の従者になってからもう直ぐだと思っていたら、意外と長かった。
1等から3等騎士は、皇帝に騎士の誓いをする事になる。騎士に叙任されるのは、それだけ大変な事なんだろう。
「でね、リリ」
「はい、母さま」
「リュカの叙任式の時に、一緒にオクソールも階級を上げる事になるわ」
「「えッ……!」」
思わず、リュカも声を出した。
二人で顔を見合わせて、ビックリしてしまった。
「母さま、じゃあオクは1等騎士に?」
「そうよ」
ナイト・オブ・ジャスティス(正義の騎士)
帝国で唯一の騎士になる。超カッケー!
ジャスティスかぁ。俺はやっぱフリーダムだな! 後ろ姿も超カッケー! いや、何の話だよ!
ちょっと待て。1等騎士なんかになったら、まさか……
「え……母さま、ボクからオクを取らないで下さい……ゔッ……」
いや、マジかよ。そんな最上位の 騎士が俺に付いてもらえる訳ないじゃん! 思わず泣いてしまったよ。
「もう、リリは早とちりなんだから。オクソールは今迄通り、リリの専属護衛よ」
「母さま、本当ですか!?」
「ええ。本当よ。今迄、何度もリリの命を救った事に対しての昇級なの。オクソールじゃないと、守れなかったわ。
安心しなさい。大丈夫よ」
良かったぜ! もう、ビックリしたぜ。
「それでね、リリ。その話をオクソールに打診したら、リリに誓わせて欲しいと言っているの」
「え……!!」
いや、オクソール。待てよ。
そこは、皇帝にしておこうぜ。
「リュカもそうなんでしょう?」
「はい! もちろんです」
リュカ、元気よく返事してんじゃないよ。そんな話してたなら、教えてくれよ。
俺にもさぁ、心の準備が必要なんだよ。
「母さま、ボクは二人共父さまで良いと思います」
「それがね、二人共それじゃあ嫌だと言ってきかないのよ。だから、リリが10歳になるまで待っていたのよ」
なんだってぇぇー!?
俺? 俺が小さかったからなのか!? 待たせたのか!?
「リリ、貴方が誓いを受けるのよ」
「母さま……ボクそんな事……」
「リリ、光栄な事じゃない? 帝国一の騎士が貴方じゃないと嫌だと言っているのよ?
何もないところから頑張って、騎士になろうとする子が、リリじゃないと。て、言ってるのよ?
喜びなさい。ちゃんと受け止めなさい」
「……はい、母さま」
母はこんな時、物怖じ等一切しない。俺は直ぐに怖気付くが、母は逆だ。そして、俺の背中を押してくれる。
そうか。そう言う事か。有難い。俺は本当に恵まれている。
「リュカ、有難う」
「リリアス殿下、それは私の台詞です。心からお仕えできる殿下に出逢えて、これ以上の喜びはありません。有難うございます」
そう言って、リュカは頭を下げた。
ゔぅッ! 泣いてまうやろぉー!
リュカ、有難うよー!
そして、オクソールとリュカの叙任式が10日後に決まった。
母に相談した後、母から父にクレームが入ったらしく、叙任式の後辺境伯領に行く許可を貰った。
今度は、母とフレイも一緒だ。
クーファルが、自分が行くと言い張ったそうだがフレイは譲らなかったらしい。
また、意外な所からの同行希望が出た。アースとレイだ。
「え、なんで?」
「なんで? て、言われてもな。親に聞いてくれよ」
「アース、その言葉遣いは直せよ」
「え、いいじゃん。だって、俺達だけの時は敬語はなし、て言ってたじゃん」
まあ、そんな事はどうでもいいさ。
「レイ、どうして?」
「帝国の要だから。辺境伯領を、一度見ておくのも良いだろう。て、事らしいですよ」
「そうなの?」
「俺は楽しみだけどな!」
「アース、お前は何でも考えなさすぎなんだよ」
「レイは、難しく考えすぎなんだよ」
「まあまあ。まあ、いいか」
「な、リリ殿下。いいよな!」
「でも、本当に魔物が出るからね。領地の街から出たら駄目だよ。
あ、レイ。いい機会だから、レイとアースの分の魔道具作ってみる?」
「殿下! はい!」
そうして、俺はレイにマジックバッグと、防御と状態異常無効の付与を教えた。
「あー、マジックバッグはまだ無理だね」
「くそ〜ッ! 殿下、なんでですか!?」
「空間魔法が使えてないよ。まだ魔力量が足らないんだ。魔石に付与は出来るんじゃない?」
レイは、何個か失敗しながらも、なんとか防御を付与した。
「殿下、今更ながら殿下の凄さが分かった」
うひょひょ。いつも淡々としてクールなレイが項垂れてるよ。
アースと二人で、ニヨニヨしてしまったぜ。
いかんいかん!