215ーフレイの婚約 2
「でも、兄さま。ボク、もう戻りたいので失礼します」
「リリ、じゃあリュカが戻ってくるまで待ちなさい」
ええー、嫌だよ。俺、超居心地悪いじゃん。
「リリアス殿下、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「いえ、お姉さんが謝る事じゃないです。でも、兄さま。アレはちょっと……」
あの伯爵令嬢だよ。身分を弁えない失礼なやつ。
「ああ、そうだな。ゾッとしたわ」
「アハハハ、兄さま。途中からプルプルしてましたよね?」
「ああ。アレは無理だ」
「ですよね〜」
「フフフ、仲がよろしいのですね」
「ねえ、お姉さん。薬草は栽培できそうなの?」
「リリアス殿下、興味がお有りですか?」
「うん! ボク、薬湯も作るから。貴重な薬草て高いから」
「そうなんです。ただ、魔素が足らないと思うんです。それをクリアできたら」
「魔素?」
「はい。貴重な薬草はたいてい森の奥に生息しています。森の奥はこの辺より魔素濃度が高いのですよ」
「へぇ〜、知らなかった」
「リリはまだ学園に通ってないからな。10歳から勉強が始まるさ」
「兄さま、そうなんですか?」
「ああ。皇族は学園の初等部に通わないかわりに、10歳から教育が始まる」
へえ〜、知らなかった。
「殿下! お待たせしました!」
おう! やっとリュカが戻ってきたぜ。
「リュカ、悪かったな」
「いえ、フレイ殿下。父君の伯爵様が探しに来ておられました。何を勝手な事をしているんだと、えらい叱られてましたよ」
「アレは駄目だ。私から伯爵家に正式に問いただす事になる。シャルも必要以上に庇うのはやめる方がいい。早いうちに矯正しないとな」
「はい、殿下。申し訳ありません」
うんうん。早く矯正しなきゃな。悪い例を俺たちは見てきているからな。
「兄さま、じゃあボクもう行きます。お姉さん、楽しいお話をありがとう! 兄さま、しっかりエスコートして差し上げて下さい」
「あ、ああ」
フレイ、何で焦ってるんだよ。
「リリアス殿下。私こそ有難うございました。りんごジュース、美味しかったです」
シャルと呼ばれる女性は頭を下げた。
フレイよ。いいじゃん。俺、この人好きよ。
その後……例の伯爵令嬢と両親は皇后様に呼び出されキツくお叱りを受けた。
母親は泣きながら恩情を訴えたらしいが、母親は令嬢が城に乗り込む事を知っていたどころか焚き付けたそうだ。いかんね。
皇后様に、呼ばれもしないお茶会に堂々と出席して、しかも自分より高位の侯爵令嬢を蔑むなど言語道断!と言われたらしい。
両親にも責任があると。特に知っていて止めなかった母親は、皇后様からこっ酷く叱られたそうだ。猫可愛がりしていたのだろうね。
当の本人は、自分の方が若くて可愛いのだから、何が悪いと皇后様に言い返したらしく、それで不敬罪を問われてしまった。
これが決定打となり、帝都の修道院に行儀見習いに入る事となった。
期間は無期限。伯爵令嬢を担当する修道女と修道院長、ランダムに選ばれた修道女5名が良しと認めるまで出られない事になった。
母親も意識を変えないと駄目だと言う事で、厳しい事で有名な皇族のご夫人に預けられる事になった。取り敢えずは1年間。預けた夫人のOKが出なかったら延長される。いい歳してカッコ悪いよな。
この処罰は公にされる。貴族だけでなく平民も知る事になる。伯爵には決められた処罰はないものの、1番キツイかも知れない。白い目で見られるぜ、きっとな。
俺を湖に突き落とした姉の件、辺境伯領の薬師の件があったので、父や皇后、母達も兄達もこの手の事に関しては容赦ない。
矯正するなら早いうちに徹底的にと一貫している。
フレイからシャルと呼ばれていた侯爵令嬢。
フレイと同級生で実力テストではいつもフレイと1、2を争う程だったそうだ。
アカデミーに進んで、卒業後は本人が話していた通り薬草の研究者だ。
しかも、光属性と土属性を持っていた。薬草の栽培の研究にはもってこいだ。
因みに例の伯爵令嬢、あまり出来は良くなく属性も水属性のみだった。
本人は、自分は可愛いから勉学なんて出来なくてもいいと言っていたらしい。
皇后様の前でそう言い切れる度胸はたいしたものだ。いや、単に本当に馬鹿なのか? よくあんな風に育ったものだ。
そして、改めてフレイが侯爵令嬢を呼んだ。これは、もしかしてフレイは侯爵令嬢に気があるんじゃないか?
「リリ、だから付き合ってくれよ」
「フレイ兄さま、嫌ですよ。何でお邪魔なの分かってるのに行くんですか」
フレイは侯爵令嬢が来る時に俺に同席しろと言ってきた。
「そんな、邪魔な事はないさ」
「兄さま、なんかヘタレですよ?」
「え……リリ酷い」
「だって兄さま、あのお姉さん狙ってるんでしょう?」
「いや、リリ。狙うと言うのは……な?」
「兄さま、バシッと決めて下さい。バシッと!」
「だってなリリ。俺が言うと断れないだろ? それは嫌なんだ」
まあ、そうだよな。第1皇子を断るなんて出来ないよな。
「シャルはきっと研究を続けたいのだと思うんだ」
「別に城でも、研究すれば良いじゃないですか。設備はありますよ?」
「え? あるのか?」
もう、フレイは何を言ってるんだ?
「兄さま。兄さまは騎士団しか見ていないから駄目なんです。脳筋すぎるのは駄目です」
「リリ、俺は脳筋ではないぞ?」
「ボクから見たら充分脳筋ですよ」
「マジか……」
「はい。城でも研究を続ける設備はあります。むしろ、城の方が研究はしやすいと思いますよ。薬草園も温室もありますしね。珍しい薬草も揃ってます。皇后様の教育は仕方ないですけど」
「ああ、そうだな」
「後は、お姉さんが兄さまの事をどう思っているかです。想いあって婚姻したいみたいですし」
「何!? リリそんな事まで話したのか!?」
「まあ、なんとなく。だってお姉さん綺麗で性格も良いのに、よく婚姻してないなと思って」
「そうなんだよ。そうだろ?」
「もしかしたら、好きな人がいたのかも……」
「リリ……!」
「もう、兄さま。直接聞くしかないですね」
フレイよ。頑張れよ。いつもイケイケのフレイの意外な一面を見てしまった。