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214ーフレイの婚約 1

「あれ? お姉さんこんな所でどうしたの? 気分悪いの?」


 フィオンが辺境伯領に嫁いでいって、暫く落ち込んでいたが日常に戻りつつあった。

 そんな俺は、城の少し外れた庭でその女性を見つけた。


 花の様なドレスで着飾っている。

 今日はフレイの婚約者候補を選ぶ為のお茶会が催されているから、きっとこの女性もその一人だろう。なら、侯爵家以上の高位貴族の令嬢だ。

 フレイは、長男だから次期皇帝だ。皇帝の正妃、後の皇后は侯爵家以上からと決まっている。

 だが、何故こんな庭の外れでしゃがみ込んでいるんだ?


「あ……いえ。気分が悪いのではないのです」

「リリアス殿下、きっとフレイ殿下の」

「うん、リュカ。そうだろうね」

「え? 殿下?」

「うん。ボクはリリ。フレイ兄さまの1番下の弟です」

「あ……! あなたが!? リリアス殿下!?」

「うん。迷子になっちゃった? ボク、案内するよ?」

「あ、いえ。あの、失礼致しました。私ドリアス侯爵の娘でシャルフローラ・ドリアスと申します。どうか、私の事はお気になさらず」


 シャルフローラと名乗った女性は慌てて俺に挨拶をした。

 綺麗なカーテシーだ。しっかりと教育されているだろう事が伺える仕草だ。


「でもお姉さん、そんな所でしゃがんでたらせっかくのドレスが汚れちゃうから。とにかく、座れる所に行かない?」


 俺が手を出すと、その女性は手を出してきた。俺は手を取り立ち上がらせる。


「あっちにね。座れるところがあるから」


 その庭の中ほどにある四阿に案内する。


「どうぞ。ここはあまり人が来ないから、ボクのお気に入りなんだ」

「有難うございます。落ち着きます」


 女性は、フゥ~と呼吸をした。緊張してたのかな?


「りんごジュース飲む?」


 と、俺はマジックバッグからりんごジュースを出した。


「まあ、マジックバッグですか? 頂いてもよろしいのですか?」

「うん。いーよー。美味しいよ」


 俺は、りんごジュースを渡した。女性はコクコクと飲む。


「フゥ……美味しいです。有難うございます」


 また、コクコクと飲む。余程、緊張していたのか? 圧倒されたのか?


「みんな凄いからね。フレイ兄さまの婚約者を狙って血眼になってる。あ、もしかしてお姉さんもその一人?」

「え……血眼にはなってないと思います……でも」


 言葉を止めて、また女性は下を向く。

 自信がないのか……?


「私はお茶会など縁がなくて、いっぱいいっぱいで。耐えられなくて……まさかフレイ殿下の、婚約者候補を選ぶお茶会に呼ばれるとは思ってもいなかったので。場違い感が凄くて。

 私は研究している方が気が楽で……もう、婚姻も諦めていましたから」


 そうか。この世界でこの女性位の歳の人は皆婚姻してるか。


「お姉さん綺麗なのに」

「え? え……? 綺麗? まさかそんな」


 いやいや、誰が見ても綺麗だろ。

 

 シャルフローラ・ドリアスと自己紹介してくれた女性。

 サラサラふわふわの金糸の様な髪を、顔の両側だけ後ろにもってきて髪飾りで結んでとめている。

 ラピスラズリの様な瞳も吸い込まれそうにキラキラしている。

 ドレスで着飾ってはいるが、昼間のお茶会に相応しく派手になりすぎない物を選んでいてよく似合っている。

 よく婚約の話が無かったものだ。


「お姉さん、今迄婚約のお話はなかったの?」

「あったのですが……私、本当に駄目なんです」

「駄目?」

「はい。全然知らない人といきなり婚約とか言われても無理なんです。

 私の両親は、貴族にしては珍しくお互い惹かれあっての婚姻だったので理解してくれていますが。

 貴族なのに……侯爵令嬢失格なんです」


 えー、まあこの世界だとそうなのか? でもそれが普通だと俺は思うよ?


「お姉さん、何の研究をしてるの?」

「薬草を育てる研究を……」

「薬草?」

「はい。危険な森に入らないと採取できない薬草を育てられないか研究してます。栽培できたら、採取する為に危険な森に入って怪我したり命を落とす人もいなくなるかと……」


 スゲーじゃん。めちゃ有益な研究じゃん。


「お姉さん、凄いね! それは凄いよ!」

「え? え? そうですか? そう思って頂けますか?」

「うん! それが成功したら、薬湯の値段も下がるし安定するじゃない!」

「ああ、そうなんです」

「でも、今日お茶会に来てるんだから、兄さまの婚約者を一応狙ってるんでしょう?」

「いえ、私はフレイ殿下の婚約者なんて畏れ多いです。招待状を頂いたので、来ない訳にはいかなくて」

「あらら……そうなの? でも……」


 俺は、お茶会会場の方に顔を向ける。


「リリ!」


 ほら、フレイが来たよ。慌ててるよ。探してたんじゃないか?


「兄さま!」

「えッ!? えぇッ!?」

「リリ、済まない。見つけてくれたのか?」

「兄さま、偶然庭で会ったのです」

「そうか。シャル、こんな所でどうした? 気分でも悪いか?」


 ん? シャル? 知り合いか?


「いえ、殿下。そんな事はありません。殿下、どうか会場にお戻り下さい」

「いや、シャルも一緒に戻ろう」

「いえ……あの私は……私より他の御令嬢を……」


 何だ? 何でそうなるんだ?

 ん? 何かド派手な令嬢がやってくるぞ。

 お茶会会場の方から、急いでこっちに向かってくるチャラチャラと飾りたおした女性がいる。


「フレイ殿下! お探ししましたぁ!」


 ん……?


「フレイ殿下、そんな令嬢など放っておいて戻りましょうよ~。私お話したいですぅ」


 あぁ……駄目だ。嫌なタイプだわ。

 フレイも引き攣ってるじゃないか。


「お前、誰だ?」


 うわ、フレイ。超冷たいじゃん。


「私、アバリマン伯爵の娘でマティ・アバリマンと申しますぅ。殿下、戻りましょう」


 ん? 伯爵? なんでいるんだ?


「……いや、先に戻ってくれ」

「え~、フレイ殿下。照れてますかぁ? ウフフッ。そんな行き遅れた冴えない場違いな令嬢なんて気になさらなくて良いですよぉ~」


 と、言いながらフレイの腕に体をくっつける。

 なんだと? 何て言い方してるんだ?


「フレイ殿下、どうぞお戻り下さい」


 俺、ここで何も言わずにフレイが戻ったらちょっと見損なうかもよ。と、フレイを見る。


「離れなさい」

「え? 殿下ぁ?」

「俺から離れろと言っているんだ」

「殿下、そんなぁ~」

「侯爵令嬢の事を何だと思っているんだ? お前は親にそう教えられたのか?」

「で、殿下ぁ? どうされましたぁ?」

「彼女はお前より高位の貴族令嬢だぞ。その上、今日のお茶会には伯爵令嬢のお前は招待していない筈だが? どうやって入った?

 お前の今の発言は見過ごせないな。後で伯爵に問いただす事としよう」

「フレイ殿下! 申し訳ございません」

「シャルが謝る事ではない」

「そんなぁ……フレイ殿下。どうして私よりそんな令嬢なんかぁ……私に招待状が届かなかったのは手違いだったのでしょう? そうとしか思えませんものぉ。だから私、内緒で来たんですぅ。ウフフ、私の方が若くて可愛いですよぉ?」

「お前、本当に馬鹿だな。伯爵家は対象外なんだよ。そんな事も知らないのか。勉強していないのか。その心根を正しなさい」


 フレイよ。よく言った!


「リュカ、すまない。頼めるか? 今日のお茶会には招待していない。帰してくれ」

「はい、フレイ殿下。さあ、御令嬢。行きましょう」


 そう言ってリュカは有無を言わざず誘導する。


「え? えぇ!? そんな! フレイ殿下!」


 さっさと消えなさい。アレは駄目だ。俺たち兄弟が1番嫌いなタイプだ。


「シャル、まさか他でもあの様な扱いをされているのか?」

「いえ、フレイ殿下。大変失礼を申し訳ございません」


 シャルと呼ばれる女性は、フレイに頭を下げた。


「いや、そうじゃない。俺は今日シャルに招待状を出したんだ。何故呼ばれもしていない伯爵令嬢がお前にあの様な事を言う? もしかして、普段から言われているのではないのか?」


 そーだそーだ!

 いや、てか俺お邪魔じゃね? どうしよう。どうやってはけよう。


「リリ、いらん気を使うな」

「はい、兄さま」


 あらら、バレちゃった。


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