213ーゆっくりでいい
「では、陛下」
「アラ、アルコース。フィオンを頼んだ」
フィオンが辺境伯領へ行く日が来た。
俺たちは、城の地下の転移門にいる。
フィオン、辺境伯アラウィン、夫人、長男のアスラール、次男のアルコースそして、側近と侍従侍女、護衛の者達。総勢25名。
今日は、俺が転移門に魔力を流す。
「リリアス殿下、またお越し下さい。領地の皆がお待ちしています」
「アスラ殿、有難うございます。今度は母さまと一緒に行きます」
「ええ、その時は宜しくお願いしますね」
「あら、私もご一緒したいわ。リリアス、駄目かしら?」
「皇后様! 是非! ご一緒しましょう!」
「俺も行くぞ!」
「フレイ兄さま。兄さまもですか?」
「おい、リリ。母上と反応が違い過ぎるだろ」
「エヘヘ」
「リリ、有難う」
「フィオン姉さま」
「リリがいてくれて、私は幸せだったわ。貴方が生まれた時の事を、昨日の事の様に覚えているわ。楽しかったわ。有難う」
「姉さま……」
俺はギュッとフィオンに抱きついた。
「リリ、私はずっとリリの姉さまよ。領地で一緒にお出かけしましょう」
「はい! 姉さま! お元気で!」
「さあ、キリがない。リリ」
「はい、父さま」
先に護衛達と、侍従侍女を転移させた。
次は辺境伯家族と、フィオンだ。
「姉さま、お幸せに!」
「リリ、有難う! 危険な事はしないで! 身体に気をつけるのよ!」
俺は魔力を転移門に流した。
転移門が白く光り、フィオンと辺境伯達が光に包まれる。
そして、光が消えると皆の姿が消えていた。
「……ゔっ……グシュ、ゔッ」
「リリ、頑張ったわね」
母が俺をフワッと抱きしめてくれる。
「か、母さま……ゔぇ〜! 姉さまがー……!」
「あらあら……リリアス。私の娘フィオンを、そんなに好きでいてくれて有難う」
「皇后様……ボクの方が……ボクの方が、姉さまから沢山好きをもらいました。沢山守って下さいました……ゔぅ」
皇后まで、俺の背を撫でてくれる。
申し訳ないぜ。
「リリ、おいで。」
「父さま……ゔっ、ヒック。ゔゔ……」
俺は母の腕の中から、父の方へ歩く。トボトボと、ゆっくりと。
「さあ、リリ。涙を拭きなさい。いつまでも、泣いていてはいけない」
「はい、父さま」
父に抱き上げられた。
「さあ、皆。戻ろう」
「あー、リリ殿下。また魔石かよ」
「アース、仕方ないだろう? 150作らなきゃいけないんだ」
150と言っても、魔石150個じゃないからな。150セットだからな。
俺の部屋にアースとレイが来ている。
フィオンの婚姻から、1週間経った。
まあ、俺は相変わらずだよ。
まだちょっと寂しいけどな。
魔石に付与、騎士団の魔力操作、それにレイとアースが度々来てくれるお陰でなんとか気が紛れて、少しずつ落ち着いてきた。
アースは、ユキと一緒にソファーでクッキーを食べている。
レイは、俺の側で魔石に付与する流れをガン見している。
「リリ殿下、一体どうなっているのですか? 魔力切れにはならないのですか?」
「うん。ボクはならない」
「何故?」
「ん? 魔力量が多いから」
「リリ殿下、僕達はまだ10歳になってないです」
「うん。7歳だね」
「殿下、何歳から魔法を?」
「3歳」
「さ……3歳!?」
「ニル、あとどれ位?」
「あと、30ずつ位です」
「そう」
「殿下、僕に教えてもらえませんか?」
「レイ、何を?」
「魔法です。魔力量を増やしたくて、殿下に教えてもらった様に毎日やってますが。本当に増えているんでしょうか?」
「レイ、どうしてそんなに覚えたいの?」
「アースは騎士団を目指してます。毎日鍛練しています。ボクはアースの様に身体を動かすのは苦手です。
でも、僕だって少しは大事な者を守れる様になりたいです」
「大事なもの?」
「はい」
「それは何か聞いてもいい?」
「家族や、友達や、リリ殿下です」
「……レイ」
俺は、ニルを見る。どうしよう? と。
「レイ様、まだレイ様は7歳です。そう焦る事はありませんよ」
「ニルさん。でも同じ歳のリリ殿下はやっている」
んー……俺は狙われていたからなぁ……
「レイ、ご家族と相談した?」
「いえ」
「じゃあ、一度相談してみて。ボクは、魔法を使うのは早い方が良いと思っている。
でもね、人間て大きな力を手にしたら、変わってしまう人もいるんだ。レイがそうだと言うのじゃないよ。
でも、国が10歳と決めているんだ。
ボクは、色々あったから……自分の身を守らなきゃならなかった。レイはそうじゃないでしょ? ま、家族と相談してみてよ」
「リリ殿下……分かりました」
レイ、納得できない、て顔してるな。でも、俺の一存では決めれないよ。
「リリ、元気ないんだって?」
ポンッとルーが現れた。
今は夕食も終わって、もう俺はベッドの中だ。
「ん……ルーか。久しぶりだね」
横になったままルーに向かって手を伸ばすと、ルーは俺の手にとまってきた。
「あら、リリ。もうおネムか」
「うん、大丈夫」
「リリ、お前急ぐなよ」
「え、ルー。何?」
「急いで大人にならなくても良いんだからな」
「ルー……」
「リリは下手に能力があるし、立場上大人より色々責任が付き纏う事もあるだろう。だがな、急ぐなよ」
「ルー。なんかさ、ボク変じゃない?」
「変なのか?」
「うん。独りぼっちとか、離れるとかに敏感すぎる気がする」
「あー、そうだね」
「うん……」
「仕方ないと思うよ?」
「何で?」
「リリは覚えてないけど、小さい頃から……それこそ、赤ちゃんの頃から狙われてきたから。だから、リリは人の命にも敏感なんだ」
「そうか……」
「大人になるにつれ、薄くなるよ」
「そう?」
「そうだよ。だからな、急ぐ事ないよ。ゆっくりでいい。少しずつ大人になりな」
「そうか……」
「ああ。辛いとか、寂しいとか、悲しいとかは歳には関係ないからね。今のリリの気持ちを誤魔化すな」
「そうか……分かった」
歳には関係ないか。
正直、フィオンが嫁に行って、城からいなくなる事がこんなに寂しいとは思わなかった。
いる時はそう気にしなかったのにな。面倒な時だってあったのに。
前世の家族を思い出す。皆、元気でやってるかな?
俺はまだこの世界では7歳だ。
ルーが言う様に、焦らずゆっくり大人になろう。
未来はまだまだ分からない。