212ーフィオンの婚姻
空気が澄んで青々とした空に、所々に綿菓子の様な白い雲が浮かんでいる。
そんな空に響き渡る、教会の鐘の音。白い鳩でも飛びそうだ。
今日は、フィオンとアルコースの婚姻式だ。
真っ白の裾の長いドレスに、真っ白のヴェール。
どちらにも、金糸銀糸の刺繍が豪華に入っている。
そんなピカピカで綺麗なドレスに負けない位、今日のフィオンは特別に綺麗だ。
アルコースも、同じ刺繍の入った白の衣装でまるで絵本に出てくる王子様だ。
二人は、学園で知り合いお互い惹かれていたらしいが、二人共叶わないと諦めていた。
フィオンには子供の頃に決められた婚約者がいた。王国の第2王子だ。
アルコースは、ケイアの事があったから婚姻は諦めていた。
たが、王国の王が俺の暗殺を企て未遂に終わった。その事がきっかけで婚約は白紙に戻された。
アルコースも、ケイアの件が解決した。
二人共、一度は諦めていた事が、叶ったのだ。
幸せそうだ。幸せになってくれ。
俺の事を、特別に思ってくれたフィオンだ。
俺にとっては、大切な大好きな姉だ。
いかん。涙が出そうだ。
式が終わって、お披露目パーティーだ。
フィオンが、アルコースと一緒に挨拶を受けている。
「リリアス殿下、ご無沙汰しております」
「アリンナ様! お久しぶりです!」
アルコースの母、辺境伯夫人だ。
「まあ、殿下。大きくなられましたね。殿下のお陰で、帝都に来るのも一瞬でした。有難うございます」
「またゆっくりお伺いしたいのですが、なかなか機会がなくて。みんな、元気ですか? ニルズとテティは変わりありませんか?」
「ええ。皆殿下が来られるのを心待ちにしてますよ是非、またお越し下さい」
「はい! 有難うございます!」
「リリ」
「姉さま。姉さま、おめでとうございます。とっても綺麗です!」
「リリ、有難う」
フィオンにふんわり抱き締められた。
「姉さま……寂しくなります」
「リリ、いつでも会えるわ。リリのお陰でね」
「はい。姉さま、どうかお幸せに……ゔッ……」
「まあ、リリ。泣かないで」
ヤバイ! こんなおめでたい席で、泣いたら駄目だ! 7歳の俺よ、踏ん張れ!
「姉さま。大好きです!」
「リリ、姉様もよ。遊びに来てちょうだいね。待ってるわ」
「はい、姉さま。母さまと一緒に絶対に行きます……ゔッ、グシュ」
「まぁ、リリ! 泣いては駄目よ」
「母さま! 姉さまが行ってしまいます!……ゔッ」
「フィオン様は、大好きな方と幸せになるのだから、笑って送り出さなきゃね」
「はい、母さま。分かってます」
俺は、ヒョイッと抱き上げられた。
「父さま」
「リリ、フィオンは綺麗な花嫁だね」
「はい、父さま。帝国一綺麗です!」
「ああ、そうだね」
「姉さま、小さい時にボクを庇って守って下さって有難うございます。いつも、ボクを好きでいて下さって有難うございます。
姉さま、いつもボクの味方でいてくれて、有難うございます。姉さま、フィオン姉さま! 大好きです! どうか、幸せに!
アルコース殿、もしも姉さまを泣かせたりしたら、ボクが姉さまを迎えに行きますから! 姉さまを宜しくお願いします……ゔ、ゔ……」
「はい。リリアス殿下。必ず一生幸せにします。お約束します」
パチパチパチパチ……と、誰かが手を叩き始め、それがだんだんと広がっていく。
いかん。超恥ずかしい!
俺は抱き上げてくれている、父の首に抱きつき顔を隠した。
「おや、リリ。どうした?」
「父さま、恥ずかしすぎます」
「アハハハ、リリ仕方ないね」
父は、俺を抱き上げたままフロアを前の方に移動する。
「皆、今日は我が娘フィオンの為に有難う。フィオンと、辺境伯次男アルコース、二人はまだまだ若輩だ。これからも、温かく見守ってやってほしい。
今日は、二人の門出だ。盛大に祝ってやってくれ!」
湧き立つ様な拍手が起こり、フィオンとアルコースが礼をしている。
どうか、二人共幸せに。幸せになってくれ。
俺の大好きな姉、フィオン。幸せに!
「……ふわぁ……」
「殿下、お目覚めですか?」
「ニル、寝ちゃった」
「はい。戻ってこられて直ぐでしたね」
「うん。頑張った。姉さまは?」
「今日と明日はゆっくりなさるそうですよ」
「そう……ニル、ちょっと泣いちゃった」
「はい」
「寂しくなる……」
「はい」
「姉さま、大好きだったから……」
「はい」
「……ゔッ……」
「殿下」
「ニル、寂しい……ゔっ、グシュ」
「はい」
暫く泣いてしまったぜ。ニルがズッと抱きしめてくれていた。
なんだろう。この世界に来て、俺は感情が揺らぎすぎだ。独りぼっちとか、寂しいとかに敏感すぎる気がする。
いつも、俺の為に怒ってくれていたフィオン。
いつも、最大限の愛情をくれたフィオン。
俺は、幸せ者だ。
「リリ、起きてるかな?」
「クーファル兄さま」
「泣いてるかと思ったら、やっぱりか」
「兄さま。大丈夫です。姉さまが幸せになるのに、泣いてばかりいたら駄目ですから」
「そうだね。リリ、いつでも会える。離れたからといって、フィオンと縁が切れる訳じゃない。
フィオンは変わらず、リリの事が大好きだよ?」
「兄さま、そうですか?」
「ああ、当たり前だ」
「……兄さま。クーファル兄さまは、婚姻したら城を出るのですか?」
「リリ……」
「兄さま?」
「私は次男だからね。いずれは出る事になるかも知れない」
「兄さま! 嫌です! 離れるのは嫌です!」
「リリ。リリも大きくなって、婚姻したら城を出るんだ」
「兄さま。みんなバラバラになるのですか?」
「住む場所が変わるだけだ。離れても私達は兄弟で、家族だ」
「でも……でも兄さま。一緒にいたいです」
「リリ、ありがとう。お前はまだ小さい。ゆっくり大きくおなり。兄さまは、いつも見守っているよ」
「クーファル兄さま」