203ー久しぶり
途中でシオンと別れて、俺とリュカはアスラールと一緒にアラウィンに会いにきた。
「殿下! ご無沙汰しております!」
「アラ殿、お久しぶりです」
と、言っても俺は、定期的に転移門に魔力を補充に行ってるから、アラウィンとは定期的に会っている。
会ってはいるが、いつも時間がなくてすぐに帰って来ている。
また、ゆっくり行きたいなぁ。今度は、母さまも一緒に!
「アスラ殿に赤ちゃんが産まれたとか。おめでとうございます!」
「殿下、有難うございます! 是非、会ってやって下さい。可愛いですよー!」
あら、あの屈強なアラウィンが! フニャフニャの笑顔だぜ。
「殿下、もう猫可愛がりで。しっかりおじいちゃんになってますよ」
「そうなんだ。可愛いんだね」
「殿下、やりませんよ?」
「いや、アスラ殿。ボク何も言ってないし」
「アハハ、冗談です」
「お名前は何て言うのですか?」
「アンシャーリです」
「辺境伯家は皆『ア』から始まるんですね。何かあるんですか?」
「実は……」
アスラールの表情が変わった。重大な秘密でもあるのか?
「はい」
「何もないんです。全くの偶然です。アハハハ」
「なんだー。ビックリしたー!」
「ここまで皆『ア』から始まると、どうせなら揃えようか? て、だけです。
でも、実は。アンシャールと言う、お一人の神様のお名前を頂こうと思っていたのですが、殿下の『リ』を頂いて、アンシャーリにしました」
「えー! どうしよう!」
「すみません、事後報告で」
「そんなー、ボクやっぱりもらおうっかなぁ」
「殿下!」
「冗談でーす。ボクもまだ7歳ですから」
「しかし、早いものですね」
「アラ殿?」
「殿下と、初めてお会いしたのは5歳の時でしたね」
「はい」
「あの頃、私は何も知らずに……」
「アラ殿、今は幸せですか?」
「はい。こんな幸せがあるとは、想像もつきませんでした」
「では、良いのではないですか?」
「殿下……」
「アラ殿は、忘れてしまわれた訳ではないのですから。
ボクも3歳の時の事は、覚えてます。悲しくて、辛くて、寂しくて。もう二度と、城から外には出ないと……出てはいけないと、思っていました。
でも、5歳の時に父さまに出されました。あの時は、急で驚きましたが。
出された先が、アラ殿のところで良かった。アラ殿だから、父さまはボクを出したのだと思います。父さまはフワフワしてますが、考えていたのかなと思います。アラ殿のご家族は、良い家族です。姉さまを、宜しくお願いしますね」
「殿下。有難うございます。私の方こそ、ご縁を頂けて有り難く思っております。
私も、あの時殿下に来て頂いて良かったと、感謝しております。殿下、また一緒に釣りでもしましょう」
「はい! 是非!」
「ニルズが、殿下はいつ来られるのかと、もううるさくて」
「アスラ殿。有難うございます!」
「あら、リリ来ていたのね」
「姉さま。姉さまを宜しくお願いしますと、言っていたところです」
「リリ。私はリリの姉さまには変わりないですからね」
「はい。姉さま」
「リリ、シェフが探していたわよ?」
「あ、じゃあ夕食の時間ですね。行きましょう」
その日の夕食は、アラウィン、アスラール、アルコースも一緒だった。
大勢で、食べるのは楽しい。嬉しい。いつもより美味しい。
実は俺は、未だに一人で食事をするのが嫌いだ。誰にも言ってないが。
多分、ニルやシェフにはバレていると思う。
それでも、どうしようもなくて一人の時がタマにある。
そんな時は、必ずシェフが側にいてくれるが、いつもより食べる量が減る。
まだ3歳の時の事を引きずっているつもりはないし、引きずってもいないと思う。
それでも、食事を一人で食べるのは嫌だ。
「ふわぁ〜……」
「殿下、おはようございます」
「ニル、おはよう」
「殿下、朝からフレイ殿下がお待ちですよ」
「え? 何?」
「食堂で待っておられるそうです。あ、でも急がなくていいと仰ってました。ゆっくり朝食を食べているからと」
「そう。じゃあ、行こう」
顔を洗って、お着替えして食堂に向かう。
ユキはもう厨房だ。
「兄さま、おはようございます」
「ああ、リリ。おはよう。急がせてしまったか?」
「いえ、大丈夫です。兄さま、どうかしましたか?」
「リリ、昨日面白い事をしていたらしいじゃないか」
「面白い事ですか?」
シェフが朝食を出してくれる。
今朝は、ベーコンエッグだ。とりあえず、りんごジュースを少し飲む。
シェフのベーコンエッグは大好きだ。
ベーコンの焼き加減と、卵がトロトロの半熟で好き。
シェフの料理は、全部好きだけどね。
ベーコンエッグを口に入れる。
「ん〜、美味しい〜。シェフ、絶妙!」
「殿下、有難うございます!」
「リリ……?」
「あ、兄さま。すみません。ボク、面白い事は特にしていないと思います……モグモグ」
「リリ、魔法を教わっているのは、誰だ?」
「ああ、シオンです」
「そうだ。そのシオンとアスラと、何かしていただろう?」
「あー、あ?」
フレイと、アスラールは学園の同級生で、二人は自称盟友だそうだ。
「あれですか? アスラ殿に教えてもらっていた……」
「そう、それだ。急に騎士団で、剣に付与出来るようになった者達がいて驚いた」
「ああ、シオンが即席で先生になったんです」
「らしいな」
なんだ、全部知ってるじゃないか。
「そこでだ、リリ」
「はい」
「正式に騎士団を指導してもらえないか?」
「兄さま、シオンもそう言ってました。師団長に提案してみると」
「そうか!」
「はい」
「じゃあ、リリ。早速今日の……」
「兄さま、今日からは無理です」
「リリ!」
「だって、兄さま。向こうにも都合がありますよ?」
「ああ、そうなんだが。だからな、リリ。聞いてみてくれないか?」
「兄さま……もしかして、ご自分が覚えたいからですか?」
「…………」
あー、出たよ。フレイのジャ◯アン病が。