202ー即席シオン先生
「分かりました。付与する所をお見せしましょう」
「宜しいのですか!?」
「ええ、構いませんよ。別に秘密にしている訳でもありませんし。騎士団のお役に立てるなら」
剣に魔法を付与するのを見せて欲しいと、アスラールに頼んだら快く承諾してもらって、見せてもらう事になった。
それで、俺とシオン、アスラール、リュカは、騎士団の鍛練場に来ている。
「では、一度やってみます」
アスラールが剣を抜き、片手で剣をスウッと撫でた。
すると、剣は緑色に光り出した。
「今は、風属性を付与しました。私は風属性と氷属性を持っておりますので、氷を付与する事もあります」
途端に、シオンの目がキラキラしだした。
「素晴らしい。なんて美しい」
「ハハハ、有難う御座います」
「これは、どんな感じで付与を?」
「それはですね、指先に魔力を集めます。例えば、今は風ですが。風属性を意識しながら、魔力を指先に集めて剣を撫でるだけです」
ほうほう。なるほど。なるほど。
俺はリュカに剣を借りて、やってみる。やっぱ、光属性だろう。
意識して指先に集めて撫でるだけ……
「殿下……!」
「リュカ、出来ちゃった」
剣が白く光っている。
俺は自慢げに、剣を見せる。
「リリアス殿下は、5歳の時にも一度されてますからね」
「え……」
「殿下、できない、忘れたと仰っていたではありませんか!?」
「アハハ、シオンごめん。できちゃった」
「素晴らしい! 光属性なら、斬ったらどうなるんでしょう!」
と、言いながらシオンは悪い顔でギュインと首を動かしてリュカを見つめる。
「そんなの、死ぬに決まってるじゃないですか!」
「おや、リュカ。そうですか」
「今、俺で試そうとしましたよね!? シオン様、止めて下さい」
「あー、残念です。斬りませんけどね」
「シオンはやってみないの?」
「え? 殿下、私ですか? 挑戦してみても、宜しいですか?」
「もちろん!」
俺はシオンに剣を渡す。
シオンが集中して、指先で剣を撫でると、剣が黄色く光り、バチバチと小さな稲妻の様なものが剣に纏わりついた。
「シオン、雷」
「はい、出来るものなんですね」
「これはまた、美しい」
「アスラール様、有難う御座います。しかしこれは……」
シオンがバチバチと光る剣を見る。
「シオン、どうしたの?」
「斬ってみたくなりますね〜」
シオンはまた悪い顔をする。もうあんまりリュカをイジらないでくれよな。
「シオン様! 止めて! 俺、嫌ですよ!」
「リュカ、やってみたら?」
「俺ですか? 俺はあんまり魔法は得意じゃないんですが」
「リュカ。お前、じゃあ無意識か?」
「アスラール様、なんですか?」
「リュカ、時々剣に風属性をまとわせている時があったぞ?」
「え? そんな事してませんよ」
「だから、無意識なんだよ」
無意識に出来るのか……てか、アスラールよく見てるなぁ。魔物と向き合っていても、周りを見る余裕があるんだな。
「リュカ、鑑定してもいい?」
「はい。殿下、どうぞ」
「軽ッ!」
「だって殿下。隠すものなんてありませんから」
そうか。じゃ、遠慮なく。
『鑑定』
ほうほう、なるほどね〜
「あー、リュカ。ちょっと手を出してみて」
「はい」
俺はリュカの手を軽く握って魔力を通す。リュカの身体の血管をイメージして、身体全体に流すように、ゆっくりと。
「うわ、殿下。何したんスか!?」
「流れたでしょ?」
「なんか身体の中、グワンて! グワンて!」
おいおい、ちゃんと言葉を喋ろうぜ。
「軽くなった?」
「はい。いつもあった重りみたいなのが、無くなりました! めっちゃ早く走れそうです!」
リュカがその場で、ピョンピョンとジャンプしている。
「殿下、通したのですか?」
「うん、シオン。リュカの魔力が、全身に流れずに滞っていたんだ」
「リリアス殿下、魔力操作を覚えられたのですか?」
「アスラ殿、そうなの。シオンに教えてもらったんだ」
「成長しておられるのですね。素晴らしい!」
「ハハハ、有難う。リュカ、やってみて」
「はい、では」
リュカがそうっと剣を撫でる。剣が緑色に光り出した。
「おおー! 出来た!」
リュカ、凄いじゃん。
「殿下、凄い楽に魔力を動かせる様になりました! 今まで、なかなか動かなかったのに。凄いッス! いつでも行けますよ!」
どこに行くんだよ。リュカ、剣を持ってぴょんぴょんするの止めな。
周りで見ていた、騎士団の隊員達も挑戦し出した。
しかし、普段体の鍛練が中心で、魔力操作などしない騎士団は苦戦気味だ。
それを見たシオンが前に出た。パンパンと手を叩きながら……
「はいはい、皆さん宜しいですか? まずは、ご自分の魔力を感じて下さい。集中して、おへその下辺りを意識してみて下さい。温かいものが、ありませんか?」
騎士団が口々に、おおーとか言っている。
本当に基礎じゃん。騎士団は脳筋だからなぁ。
「ゆっくりと指先まで移動させましょう。慣れれば、早く無意識にできる様になりますよ。今は焦らず、ゆっくりです。
指先まで持ってきたら、そのまま剣を撫でます」
たったこれだけの、即席のシオンの指導で、騎士団の半数が付与できる様になった。
「はい、お上手ですね。今のを指先だけに、集めるのではなくて、身体全身に行き渡らせると、ブーストです。逆に身体の外側全体に纏わせると、プロテクトです」
――おおー!
――スゲー!
――出来るじゃん!
皆それぞれに挑戦した様だ。
ああ、そうか。騎士団は、ブーストやプロテクトを魔術師団に掛けてもらう事はあっても、自分でする発想がなかったな。
剣に付与するところから、ブーストやプロテクトまでもっていくなんて。さすがシオンだ。
「シオン、凄いね! やっぱ、魔術師団副師団長だね!」
「殿下、有難うございます。しかし、皆さんお上手です。これは、本気でカリキュラムを組みましょう」
アスラールもブーストとプロテクトが簡単に出来たみたいだ。普段から付与したりして慣れているんだな。
「リュカ、飛ばない!」
「殿下、凄いです! 本当に何したんスか!? 全然違います!」
リュカがブーストを掛けて、さっきからぴょんぴょん飛んでいる。
しかもかなり高い。ただでさえ、獣人の身体能力は高いのに。獣人の身体能力、恐るべし!
しかも、リュカは無意識か? 足に重ねてブーストを掛けている。
あ! そうか!
「リュカ! だからよく転けてたんだ!」
「あ! 殿下! そうなんですか!?」
あー、気付いてないのかよ!