200ー譲位
結局、公爵は一晩中眠り続けた。
翌朝、目を覚ますと違う部屋に寝ていたのだから、当然驚いたそうだ。
その日、王国全土に向けて、前王の悪事を記したお触れが出された。
まずは、真実の公表だ。
宰相一派の貴族が捕らえられた事、その黒幕である子息の事も、罪状と処分内容が発表された。
そして、王は廃位。
前王弟 フロプト・ガルースト公爵が即位する事が発表された。
それに伴い、絶たれていた帝国との貿易も再開。関税も3年後に復活される事が決まった。今は民に食料を行き渡せる事を最優先し、関税の即時復活は見送られた。
急遽セティが手配し、早速帝国の商人達が王国入りする事になった。
父の望み通り譲位が成立し、両国の不可侵条約も締結された。
「兄さま、早く帰りたいです」
「リリ、そうだね」
「ボクだけユキと転移して帰ったら駄目ですか?」
「リリ、それはないだろう」
「そうですよね」
「帰りはどうするんだい?」
「兄さま、どうとは?」
「また、商人の坊っちゃんになるのかな?」
「はい。もちろんです。来た時とは、違うルートで帰ります」
「なんだかリリ、楽しそうだね」
「ずっと馬車に揺られるよりはマシです」
俺は、言葉通り王国に来た時とは違うルートで帝国を目指し、道中来た時と同じ様に食料を配り、畑を耕し狩りを教えたりしながら無事に帝国入りした。
俺の知らない所で、一騒ぎあったらしいが。
俺が来る時に立ち寄った、宿屋のおっちゃんだ。
「おいおい、このお触れにあるリリアス殿下て、まさか坊っちゃんの事なのか!?
帝国の皇子だったのかよ! なんだよ、そりゃねーよ!」
まあ、今更バレてももう平気さ。
王都で出会った、あの胡散臭い商人。あいつ、あいつだよ。ヘリウス・マールンだ。あいつが一肌脱いで、帝国の商人と王国の商人とを引き合わせたらしい。
そして、ちゃんと約束通り、拾った少年達に教育を施してくれている。
公爵を支えると公言していたからな。きっと、イキイキとやっている事だろう。
この後、王国の貴族や王族の間で、密かに言い伝えられる様になった事がある。
帝国には何があっても手を出すな。
特に、光の精霊の加護を受け、神獣に守られている皇子には、絶対に手を出すな。
帝国には、どうやっても敵わない。
帝国には、返せない程の恩がある。
必ず末代まで言い伝え、厳守する様にと。
「殿下、集中して下さい」
「むむ……」
「殿下、まだです」
「むむむ……」
「殿下、まだまだです」
「むむむむ……」
「はい、良いでしょう。なかなかお上手になられましたね」
「ふぅ……」
俺は、シオンに魔力操作を教わっている。相変わらず、シオンはドSだ。日常に戻って平和な毎日だ。
「王国で何かございましたか?」
「シオン、何で?」
「以前と魔力操作の精度が全然違います」
「そう? なんだろ? ああ、あれかな? 向こうの城に滞在している間、常時サーチを展開していたんだ」
「なんですと!? 常時ですか!?」
「うん。だってルーがそうしとけ、て言うからさ」
「殿下、そんな事普通の人間には出来ません」
「え……」
「いくら薄く展開したとしても、半日も持ちませんよ」
「あらら……」
「それで?」
「それで? て?」
「他にまだあるんでしょう?」
「他にかぁ……んー、鑑定したり、バインドしたり、バインドしたり、ポイポイして時々転移、みたいな?」
「なんですか? それは」
「鑑定もまあまあやって、バインドしたらポイッてして転移して、またバインドしてポイポイみたいな?」
「ポイポイ? そんなに、拘束が必要だったのですか?」
「うん。襲撃されたからね。1日中バインドばっかしてるじゃん、て思った」
「なんですと!? 襲撃ですか!?」
「うん。あ、あとアレだ」
「なんです?」
「ルーに教えてもらって、少しだけの魔力でリカバリーした」
「リカバリーですか!?」
「うん。ボクが普通に魔力を込めたら、余計に負担が掛かるから駄目だとルーに言われて。だから、魔力を抑えてほんの少しの魔力でリカバリー。
でもあれ良く効くよね〜。全力でやったらどうなるんだろ?」
「殿下、今の魔術師団にリカバリーを使える者は数人しかおりません」
「え……」
「しかも、リカバリーの様な上位魔法で魔力量を調整するなど。普通はあり得ません」
「あらら……」
「フゥ……ま、殿下は普通ではありませんからね」
「シオン、ボク転移を覚えたい」
「はぁッ!?」
「え……」
「殿下。そんな魔法、覚えられるなら私が覚えたいです!」
「あらら……」
「アハハハ! いいコンビだね!」
ポンッと、ルーが現れた。
「ルー久しぶりだね。王国では有難う」
そして俺は、マジックバッグからりんごジュースを出して飲む。
「コクコクコク……」
「リリ、またりんごジュースかよ」
「うん。でもニルに飲み過ぎちゃ駄目て言われた」
「リリは、りんごジュースを一気飲みするからな」
「うん、だって美味しいんだ」
マジックバッグに大事に仕舞う。
「アハハハ! 我慢してるじゃないか!」
「うん。だって我慢しないと、貰えなくなるの」
「そうなのか?」
「うん、ニルに隠れて一気飲みしてるのを、リュカにバラされちゃった」
「ブハハハ!」
小さい白い鳥のルーが、お腹を抱えて笑っている。フハハ、平和が1番だな。
「ルー様、りんごジュースはもういいです。それよりも、何ですか? あの、リカバリーの使い方は!」
あれ、シオン怒ったのか?