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199ー別世界

「父さま、お腹がすきました」

「リリ……このタイミングでかい?」


 どんなタイミングだろうと、腹が減ったんだから仕方ない。

 俺はソファーにポテンと座り、マジックバッグからりんごジュースを出して飲んだ。 


「……コクコクコク」

「リリ、我も」

「うん。ソール、カップ欲しいな」


 ソールがティーカップをくれた。そこにりんごジュースを入れてユキにあげる。


「リリ、カップが小さいぞ」

「ユキが大きいんだよ」


 言いながら、りんごジュースをまた入れる。


「ククク……リリとユキは平和だな」


 ん? 何かクーファルに、ディスられた気がする。


「コクコクコク……」

「マジックバッグに入れている物で宜しければ、お食事になさいますか?」

「うん! シェフ! お腹すいた!」


 するとシェフは、マジックバッグから大きな鍋をドドンッと出した。しかも熱々だ。


「え……」


 シェフ、鍋ごと入れてんのかよ。スゲーな。その発想、俺にはなかったよ。パンに皿やスプーン等、次々に出して行く。


「一体どうなっているのですか?」

「ああ、ウェールズ王子。あれは、マジックバッグと言います。シェフの腰の、あの小さなバッグの中に沢山入っているのですよ」


 クーファルが説明したが。

 理解できないよな? 分かるぜ。俺もそうだったからな。


「コクコク……」

「殿下、りんごジュースはそれ位にして、食事にしましょう」

「うん、シェフ」


 シェフが取り分けていく。

 セティとソールが皆に配っている。


「セティもソールも皆一緒に食べようね。ニル、おいで! オクもリュカもシェフも食べよう」

「ああ、殿下お二人もどうぞ。食べられそうですか?」

「クーファル殿下、有難う御座います」


 オクソールとリュカはユキと並んで床に座り込んで食べ出した。

 ユキはでっかい肉の塊に、がっついている。ユキ、今日は大活躍だった。ユキの転移がなければ、城の中を走り回らなければならなかった。


「んま〜! シェフ絶品!」

「そうですか? 殿下有難う御座います!」


 シェフ特製の、クリームシチューだ。それに、ふわふわのパン。 

 クリームシチューの上に、ミートボールをのせてくれている。

 皿が足らないからね。


「まあ、美味しい! このミルクの風味が良いわ」

「はい、エイル様。このミルクは、辺境伯領のものを使っています」

「そうなのね。あちらのミルクもチーズもとても美味しいものね」

「ああ、エイルはお気に入りだったね」

「はい、陛下。シェフのグラタンは本当に美味しいんですもの」


 ああ、懐かしなー。また行きたいな。落ち着いたら遊びに行こうかな。


「王子殿下、大丈夫ですか?」


 二人で、ポカーンとしているが。


「リリアス殿下。もう、別世界の様です」

「何がですか?……モグモグモグ」

「私達には理解できない力の数々。私達には考えられない道具。そして、今です。側近や侍女、護衛の方も皆さん一緒に普通に当たり前の様に食事をとられている。私達には考えられない事です」


 そうか。そうなのか。


「モグモグモグ……」

「リリ、何か言って」

「母さま、何です?……コクコクコク」


 動いた後のりんごジュースは超美味い。


「殿下、りんごジュース飲み過ぎです」

「あい、ニル」

「りんごジュースを一気飲みするのは、止めて下さい」

「えー、ニル。だって美味しいの」

「水やお茶ではないのですから」

「はーい。モグモグモグ」


 ニルに怒られちゃったぜ。


「ニル様、無駄ですよ。ニル様のいない所で殿下は飲みますよ」

「リュカ、告げ口は駄目」

「ハハハハ。リリ、口の周りを拭きなさい」

「兄さま、いいんです。後でまとめて拭きます。どうせまた汚れますから」

「リリ、もう7歳なのよ?」

「はーい、母さま」


 仕方なく俺は口の周りを拭く。残念だが、りんごジュースもマジックバッグに仕舞った。


「兄上……」

「ああ、ルゼルフ頂こう」

「美味しいですよ! 沢山食べて下さい!」

「リリアス殿下、有難うございます」

「兄上、駄目です。なんか……涙が出ます」

「ルゼルフ、お前どうした?」


 え? 何!? なんで泣いてんの? みんな、注目してるぜ? 俺は食べるけどな。


「母上が生きていらした時でも、こんな食事がありましたか? いつも私一人か、兄上と二人でした。

 王族だからと、厳しく言われ続けて。挙句に、実の父からあの様な仕打ちを受けて。私達は何をしていたのでしょう……情けない。

 そうだ、だから私はフィオン様が眩しく見えたのです。羨ましかった。私もこの和の中に入りたかったんです。帝国は王国より、ずっと豊かです。ずっと……温かいんです」


 ふむ、なるほど。要するにフィオンの奔放さに憧れたと。え? 違う?


「モグモグモグ……」


 とりあえず、父を見ておこう。

 小さく、首を横に振っている。なんだよ、皇帝の威厳はどこに行ったんだよ。

 仕方ないな、クーファルだ。

 えっ? て顔するなよ。先に首を振っておこう。


「ハァ……父上もリリも……ルゼルフ殿下、これから貴方方にバトンを渡す為に、公爵が立て直しに掛かられます。

 確かに、殿下方の父王が在位中は王国は冬の時代でしたでしょう。しかし、それももう終わったのです。

 これからは、あなた方の時代です。考えて下さい。考え続けて下さい。そうして、努力を続けて下さい。この国は、考える力が足りていない。

 あなた方の望む未来を掴む為に、考えて考えて、考え続けて下さい。今迄とは違います。貴方方の望む未来を選択できるのです。もう、自由にそれが出来るのですよ」


 そうだ。この国は考える事が足りない。

 長い時間を掛けて、そうなったのか。王が、考える事を放棄していたのか。それは、分からないが。

 クーファルが言った様に、これからは王子達の時代だ。

 憧れでもいい。望めば良い。それに向かって考え続けて、進んで行って欲しい。

 前には未来しかないんだから。



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