196ー襲撃
「殿下! 申し訳ありません!」
「オク! 公爵はどうなの!?」
「はい! 腕を!」
公爵が、ソファーに寝かされている。
リュカに下ろしてもらって公爵を見る。あー、服が血で染まっている。
かなり、血を流したか?
「直ぐに止血はしたのですが」
え!? ガラスが……てか、窓からか!
部屋の窓が破られていた。
「殿下、そうなんです。窓を突き破って入られました」
「捨て身だね」
「はい。追い詰められていたんでしょう」
俺は、公爵の腕の傷を見る。肘から下をバッサリやられてるな。斬りつけられた時に咄嗟に腕で防御したのか。
『ハイヒール』
公爵を白い光が包み込み、そして消えて行った。傷はこれで大丈夫だが。
もう、今回マジでレピオスも連れてくるんだった!
「殿下」
「うん。傷はもう大丈夫だけど、血を失ってるから薬湯を飲んでもらうよ」
それと……
『クリーン』
公爵の身体が綺麗になった。
念の為、持って来て良かったよ。俺はマジックバッグから、薬湯を出す。
「ん……」
「公爵、気付かれましたか?」
「……リリアス殿下……? 私は……?」
「斬られたんですよ」
「あ……そうだ腕を……あれ?」
「ああ、腕の傷は治しました」
「はっ? 殿下、治したとは?」
「公爵。リリアス殿下が、回復魔法を掛けて下さいましたので、傷はもう大丈夫です」
「オクソール殿、こんなに綺麗に治るものなのですね……」
公爵がマジマジと不思議そうに自分の腕を見ている。
「はい。リリアス殿下ですから」
「そうですか……有難うございます」
公爵は、起きあがろうとする。
「あ、公爵まだ駄目です。傷は治しましたが、血を失っておられます。薬湯をお飲み下さい」
「リリアス殿下は、その様な事まで……」
「公爵、大丈夫です。お飲み下さい。ボクは皇宮医師に師事してますから。その医師と一緒に作った薬湯です」
公爵がちゃんと自力で飲んだ。思ったよりしっかりしている。
「オクソール殿、襲撃者は?」
「はい、捕らえました。兵士が尋問しているでしょう」
「オクソール殿は、とんでもなくお強いですな」
「公爵、オクは帝国で最強の騎士ですよ」
「なるほど。あのリュカと言う者も身体能力が素晴らしい」
「そうでしょう?」
「リリアス殿下の護衛は素晴らしい。それだけ、殿下は狙われて来られたのですね?」
「でも、オクもリュカもシェフもいますから」
「シェフ?」
「はい、ボクのシェフも強いんですよ。帝国の三強です」
「なんと……!」
「公爵、ゆっくり立てますか? 少し、ベッドで休んで下さい」
「しかし……」
「明日は大事な日です。それに、焦っても駄目です。確実にです」
「そうですな。リリアス殿下、有難う御座います」
公爵はゆっくりと立ち上がった。
まだフラつくか……
「公爵、隣の部屋へ」
「ああ、オクソール殿。有難う」
オクソールが公爵を隣の部屋のベッドへ連れて行った。
「殿下」
「リュカ、公爵の護衛は?」
「はい。急遽、付けていた護衛だったそうなんですが、その護衛が手引きしてました」
「なんだよそれ……そんなのばっかじゃん」
「はい。今、公爵の邸から側近がこちらに向かっています」
「そう。で、襲撃者は?」
「はい。例の闇ギルドです」
「えッ……マジ?」
「公爵に、不正を暴かれるのを恐れた貴族が依頼してました」
その貴族の依頼で、闇ギルドの暗殺者が2人襲撃してきた。
今回、オクソールとリュカが、いち早く気付いたお陰でこの程度で済んだらしい。
やはり、獣人の二人は違うのだろう。人には気付けない何かが、分かるのかも知れない。
襲撃者の2人と、裏切った護衛1人を、オクソールとリュカの2人で瞬殺だったそうだ。
城の兵士達が、駆けつけた時にはもう終わっていた。
俺はリュカとユキと一緒に、父の部屋に向かう。
こんな事で、この国は大丈夫なのか?
物騒だから、念の為サーチしておこう。と、偶々だ。本当に偶々思いついてサーチを展開したんだ。
「リリ」
「うん、ユキ」
「殿下」
「リュカ、まだだよ。引きつけてからだ」
「はい、殿下」
俺達は、人気のない方へ進路を変える。
公爵のいた部屋からつけられたか?
「殿下、壁を背にして下さい」
「リュカ、分かった」
「殿下、4人であってますか?」
「うん」
スゲーな。リュカも分かるんだ。気配なのか?
その時、一斉に4人が襲いかかってきた。
「リュカ!」
「はいッ!」
『アースショット』
――ガキン!
――カキーン!
――ドサッ、ドサッ!
一瞬だった。
ユキが一瞬で大きくなり、トンッ! トンッ! と、順に2人の男の上をただ跳ねただけの様に見えた。ユキは2人を倒していた。瞬殺だ。
リュカも、一振りで1人を倒し、俺がアースショットで足止めしている間に残った1人を倒していた。
騒ぎを聞きつけて、兵士達がバタバタと集まってきた。
兵士達が、大きいユキを見てフリーズした。
そりゃそうだよな。でっかいユキヒョウが突然いたんだもんさ。
「あー、えっと。大丈夫だから」
「リリアス殿下! ご無事ですか!」
ああ、鉱山に襲撃してきた元兵士が走って来た。いや、復隊したから「元」は無しか。
「ああ、大きくなっていたんですね」
「うん。みんな固まっちゃって」
「おい! 大丈夫だ! リリアス殿下を守護しているユキヒョウの神獣だ!」
いや、神獣と言われてまた固まってるじゃん。
「大丈夫だ。さっさと拘束するぞ」
やっと兵士達が動き出して、襲撃者達を縛りあげていく。
「殿下、お怪我は?」
「うん。リュカ大丈夫だよ。リュカ、本当に強くなった。嬉しいよ」
「ハハ、有難う御座います。それより殿下、早く行きましょう」
「うん。じゃあ、後お願いね」
「はッ、殿下!」
早く父の部屋に行こう。今日は最後の悪あがきか。