195ー炊き出し
「沢山ありますからね! 慌てなくても大丈夫ですよ!」
俺達は、王都に炊き出しに来ている。今のは、母の台詞だ。
令嬢時代に、やっていただけあって、慣れてるよ。平気で大声出して人を捌くし、ガンガン料理を盛っていくし。
俺は、そんな母の隣でズッとクリーン魔法をかけ続けているんだ。
あんな汚い手のまま食べたら、腹が痛くなるぜ。て、慣れるとならないのか?
珍しい料理なんだろうな。戸惑いながらも、夢中になって食べている。
小さい子もガリガリだ。
見てらんねーよ。いかん、おっさんは子供に弱いんだ。 元小児科医だからな!
「ねえねえ、帝国の皇子さまなの?」
急に話しかけられたよ。おチビさんに。
「うん、そうだよ」
「カッコいいねー!」
「そうかな?」
「うん! 髪が長くてキラキラしてて、すごいカッコいい!」
「ねー! お話に出てくる皇子様みたいだよねー!」
クーファルかよ! クーファルの事かよ! 女子はちびっ子までクーファルかよ! 全年齢対応かよ!
「美味しい?」
「うん! こんなに美味しいの初めて食べた!」
「いっぱい食べな!」
「うん! ありがとー!」
可愛いぜ。クーファルがカッコいいと、言った事は忘れてやるよ!
「リリ、そっちだけじゃなくて、こっちもクリーン頼むよ!」
「はーい! 兄さま!」
結局炊き出しは、母が最初から最後まで仕切って終わった。母、恐るべし!
炊き出しも終わって片付けを待っていると、奴が声をかけてきた。
「リリアス殿下! またお会いできるとは! 嬉しいです!」
誰だか分かる? あいつだ。あいつ。
「リリ、どなたかな?」
「兄さま、前に話した商人です」
「ああ、胡散臭いと言っていた?」
「そうです」
「殿下! 胡散臭いとは酷い! クーファル殿下でいらっしゃいますか?」
「ああ、そうだが」
「お初にお目に掛かります。私、この王都で商会を営んでおります、ヘリウス・マールンと申します。どうぞお見知りおきを」
「うん、胡散臭いね」
「クーファル殿下まで!」
「そうだ、ヘリウスは宰相を知ってるの?」
「いいえ。私、あの方は好きじゃありません」
「え、そうなの?」
「はい。私はフロプト殿下が王になられると思ってましたから。それを阻止したのが宰相です」
「そうなんだ」
「はい、私はフロプト殿下一筋です!」
「なんで?」
「私が商人として、駆け出しの頃に引き立てて下さいました!」
「ほぉ〜」
「じゃあ、これからもフロプト公爵の役に立ってくれ」
「はい、クーファル殿下。もちろんです!」
ではッ! と、元気よく去って行ったよ。
あいつ、人を見る目だけはあるのか?
「リリの周りは、個性的な人が多いね」
「兄さま、もうボクは満腹です」
「アハハハ。そうか、満腹か」
「あ、でも兄さま。兄さまが、紹介してくれたシオンもかなり個性的ですよ」
「おや? そうかい? 兄様の前では、普通なんだけどね」
マジか! シオンめ! 猫かぶってるな! 普通のシオンなんて想像できないぜ。
「シェフ、お疲れさまー!」
「殿下、お疲れ様でした!」
城に戻ってきた。もう、アッと言う間に無くなったんだ。それだけ、皆飢えていたんだな。
塩味のみと比べたら、シェフの料理は激うまだしな!
「さあ、皆様も遅くなりましたが、お昼食べて下さい!」
お昼を食べて、ちょっとだけお昼寝した。
明日は、譲位だ。そして父が目的にしていた、不可侵条約の締結だ。
その前に、今夜は王子二人と一緒に夕食だ。
「殿下、夕食にフロプト公爵も来られるそうですよ」
「ニル、そうなの?」
「はい。父がそう言ってました」
そっか。あの公爵も一緒か。
なんでも、公爵もシェフの料理を食べてみたいらしい。ま、美味いからな。
この国の未来が、公爵に掛かっていると言っても過言ではない。公爵が適任なんだ。頑張ってもらうしかないな。
そして、食事をしながらになるが、色々報告もあるそうだ。まあ、俺は7歳だからね。あんまり関係ないさ。
「殿下、料理長が捕まったそうですね?」
「うん、ニル。あいつ宰相の子飼いだったんだよ」
「シェフが言ってましたよ。料理長がいなくなった途端に、料理人達が教えて欲しいと言ってきたそうです」
「そうなの? アイツが邪魔してたんだ」
「その様です」
「そう言えば、オクとリュカは?」
「はい。なんでも宰相一派の残党を、見つけたとか言ってました。牢にいる宰相を脱獄させようとしたらしいです」
「まだいたの? どんだけ息が掛かってたんだ?」
城の役職に就いている者の殆どが、宰相一派だったらしい。
城の牢屋がいっぱいだそうだ。満員御礼だよ。今迄我が物顔だった貴族の殆どが、捕まった事になる。
この国、これから本当に大変だ。
その時、リュカが慌てて入って来た。
「殿下! 大変です! お願いします!」
「リュカ、どうしたの?」
「公爵が狙われました!」
「え! 怪我したの!?」
「腕を斬りつけられたんです! 殿下、お願いします!」
「分かった!」
「殿下、抱き上げます!」
リュカが俺を抱き上げて急いで走る。ユキも、すぐ横を走ってついてくる。
「なんでそんな事に!」
公爵が、役職に就いている貴族の不正書類を集めていたらしい。洗いざらい膿を出したかったんだろう。そうして、執務室にいたところを狙われたそうだ。
襲撃者達は、城の兵士やオクソールが返り討ちにしたそうだが。護衛はついていなかったのか?
今が一番悪あがきする時だろう?
なんて雑なんだ。