194ー子飼い
「お待たせ致しました」
セティが、ワゴンを押したメイドさんを連れて戻ってきた。
二人の王子の前に、料理が並べられる。
「これは……」
ビックリしてるよ。そりゃそうだろ。見た事ないだろう。宿屋のおっちゃんと同じだ。
「リリ、説明して差し上げて。」
「はい、母さま。チーズをたっぷり入れた栄養満点のミルク粥です。消化が良い様に、シェフが米で柔らかい粥を作ってくれています。今日はより栄養をと、卵黄をのせてます。混ぜてお召し上がり下さい。
そちらのお皿のは、お魚のすり身のお団子とお野菜を柔らかく煮たものです。
炊き出しには、お肉を使った料理もあるのですが、お二人の体力を考えるとまだ早いので今はお出ししていません」
「失礼致します。料理長を呼んで参りました」
「ああ、入りなさい」
白い服を着た、料理長が入ってきた。服装だけは立派だぜ。いや、体型もか。王子二人がガリガリなのにな!
まさか、呼ばれると思っていなかったんだろう。やたらとオドオドと恐縮している。
「父さま、王子殿下が食べられるのを見てもらいましょう」
「ああ、そうだね。実際に見るのが1番だね」
「さあ、殿下。熱いですから、冷ましながら食べて下さい。急に急いで食べたら駄目です。ゆっくり食べてください。料理長、しっかり見ていて」
俺は、料理長をじっと見た。
……なんだよ、プライドなんて言っておいて、子飼いかよ。まだいるのかよ。
「では、いただきます」
アツアツの、とろけるチーズをたっぷりと入れたミルク粥に、真ん中にのせたぷっくりとした卵黄を混ぜてスプーンにとる。
二人の王子は、冷ましながらゆっくりと口に入れた。
「……!!」
「……兄上! なんて美味しい!!」
「ああ、ルゼルフ。本当に、こんな美味しい料理は初めてだ」
良かった。食べられるな。味も分かるな。ゆっくり、しっかり食べてくれ。
食べた物は全て身体を作る元になる。食べられないと、身体は弱る。心も弱る。
だから、しっかり食べてくれ。
「生き返った気分です」
「ええ、兄上。料理がこんなに美味しいなんて」
はは、良い感想だ。二人共、完食できたな。
「まだまだですよ。宜しければ、薬湯も飲んで下さい」
「リリアス殿下、私達の父は貴方に酷い事をしたのに」
「ウェールズ殿下、あなたがした事ではありません」
「リリアス殿下。なんと、感謝して良いか」
「兄上。こんなに……これほどまでに、帝国は違うのですね」
さて、問題は料理長だ。
「料理長、どう思って見ていた?」
クーファルが聞いた。
「殿下、どうと言われましても……王国は帝国とは違いますので……」
ほう……目が泳いでいる。クソだな。
「そうか。それだけか?」
「はあ、そう言われましても……」
こいつ、舐めてんのか?
「料理長、お前のプライドとは何だ?」
クーファルが怒っている。
「兄さま、彼は子飼いです。宰相の手下です」
部屋にいた全員が、料理長を見る。
「そうか。まだ残っていたか」
「父さま?」
「宰相は牢にいるぞ」
「……! まさか!」
「お前は知らないのか? 王子が解放されて気付かないのか?」
「……そんな……」
「幽閉中の王子に、食事を出さなかったのはお前の指示か?」
「……!!」
「それとも宰相か? どちらにしろ、お前はもう終わりだ」
「……ヒッ!」
父も怒っているんだろう。声に威圧がのっている。
「料理長、そうなのか?」
ウェールズ王子が、立って料理長の前に立つ。
「お前は王国民だろ! 一体何をしている! 何に惑わされた!」
「王子殿下……お、お許しを……!」
「衛兵! いるか!」
「はッ!」
「牢に入れておけ!」
「お、お許し下さい! 違うんです! 私は!」
料理長が、兵に引き摺られながら連れて行かれた。
「まさか、料理長までグルとは……」
「兄上、大叔父上に報告して、もう一度確認する方が良いですね」
「ああ、ルゼルフそうだな」
最初とは二人の覇気が違うぞ。大きな声を出せるようになった。
「あの……まだ全然身体は戻っていないので、安静にしていて下さい。今は魔法の効果と、食べた事で少し楽になっているだけですから。まだまだ時間は掛かりますよ」
「リリアス殿下、分かりました。大人しくしておきます」
「何から何までお世話になってしまい、申し訳ありません」
王子二人が、頭を下げた。
「お二人共、焦らずしっかり身体を治して下さいな。それが、1番しなければならない事ですわ。さ、クーファル殿下、リリ。そろそろ参りましょう」
あー、母はやる気だよ。
「あの……もしかして側妃様も炊き出しに出られるのですか?」
「ウェールズ殿下、当然ですわ。民を守るのは、貴族の務めですのよ?」
「務めですか……」
「ああ、今回の炊き出しは、エイルが言い出した事でね。言い出したら止められないんだよ」
「まあ、陛下。心外ですわ!」
「あの……」
「ルゼルフ殿下、どうされました?」
「クーファル殿下、あの……フィオン様はお元気でいらっしゃいますか?」
「ああ、フィオンか」
「姉さまは婚姻の準備で、大忙しですよね」
「……あ、そうですか」
悪い、ルゼルフ王子。でも、期待させない方が良いと思ってさ。
「リリ……」
「え? 兄さま、何ですか? だって本当でしょう? 毎日、婚約者殿にお手紙書いてますよ?」
「あー、リリもういい」
はい。黙っておきます。
「おめでとうございますと、お伝え下さい。フィオン様は、私にとって太陽の様な方でした。本当に……憧れでした」
「ルゼルフ殿、分かりました。さあ、お二人共、お疲れになってはいけません。お戻り下さい」
「クーファル殿下、有難う御座います。では、お言葉に甘えさせて頂きます。さあ、ルゼルフ、行こう」
「はい、兄上。失礼致します」
二人の王子は部屋を出て行った。
「リリ、ワザと言ったね?」
「だって兄さま。期待させたら可哀想です」
「まあ、そうなんだが」
「しかし、フィオンの婚約が無くなって良かった」
「ええ、父上」
俺もそう思うよ。アルコースの方が、ずっと良いよ。こんな国にフィオンが嫁ぐかも知れなかったなんて、ゾッとするよ。