193ーリカバリー
クーファルの話を王子二人は全く理解していない。当然だ。魔法のない国なんだからな。
「殿下、その『状態を見れる』と言うのは……一体?」
「ウェールズ殿下、そのままです。我が国では、スキルと言います。リリアスは、人や物の状態を、見る事が出来るのです。ですので、リリアスに嘘は通じませんよ」
あー、絶対に理解できてないぜ? 頭の上に『?』が浮かんでそうな顔してるぜ。
「無理なさる事はありません。これからの国を担う王子殿下が、その様な覇気のない姿を見せてどうしますか? 民は余計に不安になるでしょう? 心配するでしょう?
貴方達が、今しなければならない事は、早く元の元気な体に戻る事ですよ。炊き出しなど、それからでも出来ます。何度でも、なされば良いのです」
母よその通りだ。俺もそう思うよ。まずは身体だよ。
「皇宮医師は何と言ってますか?」
「リリアス殿下。お恥ずかしながら、優秀な医師は皆辞めてしまっておりまして」
なんだと!? そんな状態なのか!? レピオスを連れて来たら良かった!
「ボクが持っている薬湯でも宜しければ、お出ししますが……」
他国の皇子に、もらった物を信じて飲めるか?
「リリアス殿下はまだお小さいのに、そんな事もお出来になるのですか。私共は、なんて遅れているのでしょう」
あれ? その反応? 思っていたのと違うなぁ。
「ウェールズ殿下、今朝は何を食べられましたか?」
「リリアス殿下、普通にスープとパンを頂きました」
「お二人共、食べられましたか? 喉を通りましたか?」
「……いや、その実は……食事をするのにも、体力がいるのだと初めて知りました」
なんだそれは!? 食べれてないじゃないか!!
「セティ、シェフに言って、今日炊き出しする予定の物を、お肉抜きで二人分貰ってきてくれない?」
「畏まりました」
「リリアス殿下、何をされるのですか?」
「ウェールズ殿下、ご存知ですか? 身体も力がないと、食べ物を消化できないのですよ。そんな時に、硬いパンと、塩味だけのスープを食べられても、身体が受け付けないのです。
父さま、母さま、昨日シェフに聞いたのですが、王国は塩味しかないそうです」
「え!? リリ、本当なの?」
母よ、マジでビックリしてるな。俺もビックリしたよ。
「はい、母さま。そして、王国のパンは固くて、パサパサです」
「そうか……そんなに違うのか」
「はい、父さま。なのに城の料理人達は、シェフの料理を覚えようとしないそうです」
「リリ、それは何故だ?」
「父さま、料理人のプライドだそうです。病人に合った料理も作れない者が、何がプライドですか」
クソッ、ムカついてきてしまった。駄目だ、落ち着け。
「ソール、済まないがセティに言って、城の料理長を呼んでくれないか?」
「陛下、畏まりました」
この王子二人の状態をなんとかできないか? レピオスが言う様に、ゆっくりと体力を戻すのが1番なのは分かっている。
だが、せめて食べられる位まで戻したい。
何かないか……くそ、シオンまだそこまで教えてくれてないぜ。もっと勉強しておけば良かったよ。
『リリ、だから言っていただろう』
ルーか!?
『ああ、姿を出せないからね』
なんでだよ?
『僕達光の精霊は、光の神が加護していない国では姿を現せないんだ』
そうなの?
『ああ。光の神は王国を加護してはいない』
そうか……じゃあ、ルー。魔法だけでも教えてよ。せめて、食べられる位には回復させたいんだ。
『リリ、魔力を抑えられるか? リリの全力でいったら駄目なんだ』
分かった。
『ほんの少しの魔力だよ。サーチを広げる程度だ』
うん、できる。
『よし、じゃあ『リカバリー』だ。魔力を込めすぎると余計に負担になるからね。少しだけだ』
分かった。
「リリ? どうした?」
「兄さま、今ルーに教えてもらってました」
「ルー様に? 何故出て来られない?」
「王国は光の神の加護がないから、出てこれないそうです」
王子二人は、話について来れてないな。
「父さま、ほんの少しだけ魔法を使っても良いですか? 王子殿下お二人が、少しでも食べる力が出る様に」
父に判断を任せよう。
「ウェールズ王子、ルゼルフ王子どうする?」
王子二人が顔を見合わせている。
「陛下、私達には何がなんだか……全く理解できないのです」
俺は、説明した。
回復魔法が使える事。回復魔法とは、どんなものか。そして、今からしようとしている事。
全力だと余計に体に負担が掛かるので、ほんの少しだけ体力を戻す事。
あとは、王子の気持ち次第だ。
「兄上、私はリリアス殿下を信じます。お願いしたいです」
「ルゼルフ。私も同じだ。リリアス殿下、お願いできますか? 1日も早く、元気になりたい。早く、民の前に出られる体になりたいのです」
そうか。よし、良いぞ。
「では、父さま。良いですか?」
「ああ。リリ」
俺は、ルーに言われた様に魔力を抑え込んだ。ほんの少しだけ。少しだけの魔力で……王子二人に向かって、手をかざす。
『リカバリー』
白い光がキラキラ光りながら、二人の王子を包み込み、直ぐに消えていった。
どうだ?
『リリ、成功だよ。鑑定してみて』
ルー、有難う!
『いいって事さ!』
俺は鑑定してみた。
「どうですか? ほんの少しですが。」
だが、顔色は随分良くなった。血が巡っている感じだ。
「身体が……ほんわかする様な、不思議な感じです」
「兄上、重怠いのがなくなりました」
良かったぜ。
「これが、回復魔法と言うものですか」
ウェールズが、自分の両手をじっと見ている。
明らかに血色が良くなったからな。
「リリアスの回復魔法は、こんなものではありませんよ。リリアスが説明した様に、今のは本当に少しだけです」
クーファルが説明する。
「素晴らしい……リリアス殿下、有難う御座います」
「本当に……有難う御座います」
二人の王子が頭をさげた。
もうさ、不憫で仕方ないぜ。何年も幽閉されて、満足に食べられなくて、明日が見えない状態で、よく堪えた。よく生きていてくれた。